エピソード5：数歩先で起きた出来事
数歩先で起きた出来事
そして、涙で曇った視界の中、
カイトは街灯の下をゆっくりと歩く人影を見つけた。
重く垂れた肩、深くうなだれた頭。
その時誰も知らなかった――
あの影が、再びカイトの運命を揺らすきっかけになることを。
静かに、母の死を受け入れ始めたその夜――
カイトは、自分のすぐ近くで別の物語が綴られていることを知らなかった。
窓越しに見えたのは、シカゴの姿。
薄暗い街灯の下、彼はゆっくりと家路をたどっていた。
「こんな時間に、あんな裕福そうな奴が…何をしている？」
カイトは小さく呟いた。
シカゴの無言な表情の奥に――
絶え間ない戦いが潜んでいることなど、知る由もなかった。
母の顔を知らず、兄弟もいないシカゴは、
毎日、冷たく静まり返った家に帰るだけだった。
窓越しに見るのは、母や父に迎えられ、嬉しそうに駆け寄る子供たち。
それを遠くから見つめる自分の目は動かず、
胸の奥では焼けるような嫉妬が渦巻いていたが、
顔には何も表さない――
乾いた静けさは、時に刃よりも鋭く心を刺す。
夜――
彼は一人で静かに路地を抜け、虚無のような家に帰る。
ドアを開け、静かに閉め、ベッドに身を投げた。
天井を見つめながら、何か答えを、救いを探すように。
「俺は…大事にされる価値があるのか？
俺なんかに気にかける人がいるのか？
俺はただの影…余計な存在…
それとも…俺の存在には重さなんてないのか？」
足音が、思考を断ち切った。
父がいつものように疲れ切った姿で帰ってきたのだ。
台所へ直行し、背中を丸めながら夕食を用意し、
同時に頭の中で借金の計算をしている。
食事、服、学費、そして重くのしかかる借金――
全てはシカゴのため。
愚痴も言わず、弱音も吐かず、
ただ、昼も夜も働き続けてきた。
食卓に着いたシカゴは、青白い顔で皿を見つめるだけ。
父は息子の様子を見て、全てを悟った。
しかし言葉をかける前に、
シカゴは低い声で呟いた。
「どうして俺に構わないんだ？
みんな…誰かが迎えに来てくれるのに…どうしてお前は違う？」
彼は叫び、席を立った。
「今夜はじいちゃんの家に行く。」
ドアが乱暴に閉まる音だけが残った。
父はしばらく立ち尽くし、
やがて食事を片付け、冷蔵庫にしまうと、
紙に短く書き記した。
――許してくれ…息子よ。
お前のそばにいなかったわけじゃない。
お前の全てを守るために、戦っていただけだ。
借金ももうすぐ終わる。
いつか…学校まで迎えに行って、一緒にアイスを食べよう。
これは…約束だ。――
父は疲れ切って眠りについた。
心の奥から、痛みだけを滲ませながら。
この章は短くなってしまい、申し訳ありません。次の章では、もっと楽しんでいただけるよう努力します。
