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エピソード3:真実と幻想の狭間で

母親の死後、カイトのパニックの後

暗闇。

だが、これは夜ではない。

形も境界もない、果てしない闇。

まるで、底の見えない井戸に落ちたようだった。


カイトは、ただ浮かんでいた。

体の感覚はなく、音も、光も、なかった。

時間すら、どこかへ消えてしまったようだった。


――そして、誰かがいた。


ぼんやりとした影。

顔は見えない。

けれど、なぜか懐かしい気配があった。


一歩ずつ、近づく影。

カイトの胸が高鳴る。


「まさか…」


願いが、言葉になる前に。


彼女だった。


母さん。


「お母さん…!」


走り出した。

ようやく、会えた。


だが、差し出した手が触れたのは――

崩れる灰。

その姿は、風に溶けるように消えていった。


「やめて…!行かないで…!」


声は届かなかった。

叫びは闇に吸い込まれ、跡形もなく消えた。


そして、もう一人の自分が現れた。

幼いカイト。

顔を伏せて、泣いている。


「どうして…泣いてるの?」


返事はない。

次の瞬間、彼の姿も闇の中へと溶けた。

まるで、電気が切れた瞬間のように。


「僕は…誰だ?」

「なんで、こんなに苦しい?」

「この胸の穴は…何なんだ?」


胸を押さえた。

痛みは夢ではなかった。

肺が苦しくて、心臓が潰れそうだった。


その時――

冷たい手が、彼の腕を掴んだ。


動かない指。

血の気のない肌。

死者のような冷たさだった。


握力が増す。

息が、できない。


「…たすけて…」


声にならない声。

視界が、狭くなっていく。


――その時。


「カイト!!」


レンタロウの声が、遠くから響いた。


目を開けると、天井があった。

冷たい汗が頬を流れている。

心臓が、壊れそうなほど打ち続けていた。


身体を起こす。

頭が重い。

夢なのか現実なのか、わからないまま立ち上がる。


ふらりと、母の部屋へ向かう。


そこにあったのは――


空虚。


現実は、変わらなかった。

母は、もうどこにもいない。


カイトは、静かに座った。


誰もいない部屋。

だが、その静けさは、耳を裂くほどにうるさかった。


> この章を読んでいただき、ありがとうございました。

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