エピソード2:砕かれた小さな心
信頼が崩れる時、音はしない。
だが、心には治らぬ亀裂が残る。
カイトは壁の裏に立っていた。
身体は静止しているが、
その内側では、静かに砕け続けていた。
彼は分かっていた。
ずっと、何かが変だと感じていた。
だが、無視した。
真実に向き合えば、
孤独が口を大きく開けて待っているから。
オツの声、スイジロウの声。
それは笑いではなかった。
耳から心へと突き刺さる、冷たい刃だった。
「まるで、かわいそうな孤児みたいだよな。」
「母ちゃん、もうダメだろ。助からねえよ。」
> 「たぶん、死んだほうがマシだよな。なんであんな病気で苦しまなきゃなんねぇんだ?」
最後の言葉が、
彼の中の何かを裂いた。
彼は走った。
足音も、地面も、感じなかった。
内側の炎から逃げるように、
ただ、走った。
家の扉を開け、中へ入る。
家の中は静かだった。
その静けさは安らぎではなく、恐怖。
彼女がいた。
母が――
眠っているように横たわっていた。
だが、呼吸は……消えていた。
まるで、森の奥を進むかのように、
彼はゆっくりと近づいた。
彼女のそばに座り、囁く。
「お母さん……ただ、返事して。」
返事はなかった。
彼の手が母の手に触れる。
冷たい。
彼の目が母の目を見る。
閉じたまま。開く気配もない。
涙が、許可も恥もなく流れた。
叫びも出ないほど、痛みが深かった。
そして、ついに声があふれ出た。
まるで魂そのものが、口から飛び出すように。
「お母さあああああん!!」
彼は崩れるように倒れ、
泣きじゃくりながら体を縮こまらせ、
そのまま――意識を失った。
倒れながら見たのは、天井。
そして、闇。
それは、ただの失神ではない。
もっと深く、もっと重い――
暗く、果てしない何か。
それは、眠りではなく、
心の奥に沈む「何か」だった。
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