暴風雨の中の花
桜影.
静寂と苦痛、そして裏切りと希望が交錯する世界を舞台にした哲学ドラマ。残酷な裏切りに打ちのめされた少年カイトは、幼少期の無邪気さを捨て、自らの没落に新たな意味を求める旅に出る…。
天狗という名の山のふもとに、静かに眠る村があった。
その村で、ひとりの少年が生まれた。名前はカイト。
まだ彼は知らなかった。
この世界が、決して優しくはないことを。
カイトの母は花を売っていた。
それはただ生きるためではなかった。
まるで命そのものに、美しさを与えるように。
彼女の小さな温室では、寒さの中でも色が芽吹き、
疲れの中でも香りが育っていた。
カイトは夢を見ていた。
穏やかな生活ではなく、もっと遠い世界を。
「旅人になる。知らない道の先で、自分を見つけたい。」
そう自分に言い聞かせていた。
だが彼はまだ幼く、
夢が間違った土に根を張れば、
痛みの花が咲くことを、知らなかった。
剣術の稽古をしていた。
戦うためではない。
「自分がここにいる」と、感じるためだった。
スイジロウ、キロ、オツ、そしてシカゴ。
仲間たちと遊び、笑い、時には負けることもあった。
だが、カイトは常に考えていた。
誰が、自分がいない時に目を向け、
誰が、必要以上に笑っているのか。
彼は分かっていた。でも、気づかぬふりをしていた。
なぜなら、
孤独は刃よりも、心を深く刺すから。
そして、ある日。
カイトはその「真実」を聞いてしまう。
仕事からの帰り道、
いつものように、仲間のもとへ走った。
まるで、悲しみから逃げるように。
だが、古い家の壁の裏で、
彼は足を止める。
聞こえてきたのは、自分の名前。
それはただの好奇心ではなかった。
心が、言ったのだ。
「止まれ。聞け。」
カイトは耳を傾けた。
笑い声。
ちぎれた言葉。
冷たい嘲り。
「まるで、かわいそうな孤児みたいだよな。」
「オレは働きに行くんだ! 家族を救うために! ははっ!」
「カイトの母ちゃん、もうダメだろ。助からねえよ。」
その瞬間。
大地が消えた。
空気は重く、光は色を失った。
カイトの瞳は見開かれ、やがてしおれていく。
顔の筋肉が一斉に、力をなくしたかのように。
彼は動かなかった。
泣かなかった。
泣くには、痛みが深すぎた。
そして…
胸の奥でかすかに響いた、声。
「ぼくは……風に揺れる花、ただのそれだけなのか?」
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
この物語は、私の中の問いや迷いから生まれました。
でも、それを「読む」という行動を選んでくれたあなたの存在が、物語に命を与えてくれています。
たとえ言葉を交わせなくても、ページをめくってくれるその時間が、私にとって何よりの励ましです。
あなたがここにいてくれて、嬉しいです。
次の章でも、心のどこかでまたお会いできますように。