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死を告げる猫①

AM 11:13

病室

 ベッドから降りて床に立ち、両腕を上に伸ばして背中をそらすシゲミ。ポコポコの攻撃を食らって折れた肋骨(ろっこつ)はほぼ治っており、体を動かしても痛みはない。


 スライド式の扉を開けて、中年女性看護師が入ってきた。入院中のシゲミを担当している看護師で、背が高く細い下半身に対して看護服が張り裂けそうなほどたくましい上半身をしていることから、シゲミは「副業で看護師をやっているプロレスラー」なのだろうと思っている。


 看護師はシゲミに笑顔を向けた。



看護師「うん! すっかり元気そう! その調子なら予定通り、明日退院できるね!」



 閉まりかけた扉の隙間から、1匹の猫がスルリと入室した。茶色い毛に黒い縞模様が特徴的なキジトラ。猫はトコトコと歩きシゲミの右すねに頭突きをすると、ベッドに飛び乗り、布団の上で体を丸めて寝始めた。


 猫を見た看護師の顔が引きつる。



看護師「えっ!? この子……なんで!?」


シゲミ「患者さんが連れ込んだ猫ですか?」


看護師「……いいえ。ウチの病院で飼っているの。先代の院長が大の猫好きで『猫には癒やし効果があるから患者さんにも良い影響を与える』って飼い始めたらしくて」


シゲミ「猫アレルギーの人にはキツそうですが、良い試みだと思います」


看護師「そうでもないのよ。この猫、名前はキアヌっていうんだけど、妙でね。私がここに勤め始めた30年前にはもう飼われてたの」


シゲミ「長生き……」


看護師「異様に長寿なのも不思議なんだけど、この子が入った病室の患者さん、翌日になるとみんな死んでるのよね」


シゲミ「え?」


看護師「病状が悪化しちゃってね。例外なく全員死んでる。だから私たち職員の間ではこの子を『死を告げる猫』なんて呼んでてね。世話はしてるけど、心から愛してる人はいない」


シゲミ「人間の死を事前に察知する猫の話は世界中にあるけど、まさかこんなところで出会えるとは……同好会のみんなが聞いたら喜びそう」



 看護師は看護服の左ポケットから御守りの束を取り出した。20個近い御守りがブドウの房のようにつながっている。



看護師「あまりにも不気味だから御守りをたくさんもって身を守ってるわ。私以外にも同じようなことをしてる人がたくさんいる」


シゲミ「キアヌが入ってきたってことは私も」


看護師「いや! 迷信みたいなものだから不安にならないで! シゲミちゃんはほぼ回復してるし、今から死ぬなんて99%考えられない!」


シゲミ「でも1%はあり得ると」



 視線をシゲミからキアヌに移す看護師。



看護師「キアヌがいるいないに関わらず、人間の体には何が起きるかわからない。怪我とは別の原因で死んでしまうかもしれない」


シゲミ「……死は全ての人間にいつでもつきまとっているものだと思います。もちろん私も、常に死ぬ覚悟をしてますよ」


看護師「……強いわね。大丈夫だとは思うけど、念のため御守り持っておく? 私のを分けてあげる! 1個20万!」


シゲミ「いらないです。効果ないんで」



−−−−−−−−−−



AM 0:44

 薄暗い病室の中、布団を掛けて仰向けで眠るシゲミ。お腹の上でキアヌが丸まっている。


 突如目を覚まし、四つ足で立ち上がり床に降りるキアヌ。病室の入口のほうを見ながら全身の毛を逆立て「フシィィィッ」と唸る。キアヌが動いたのを感じたシゲミも目を覚まして、上半身を起き上がらせた。



シゲミ「キアヌ、どうしたの?」



 シゲミの問いかけに反応することなく、キアヌは扉に向かって威嚇を続ける。



シゲミ「……何かが来てるのね?」



 シゲミは枕の下に右手を入れ、隠していた手榴弾を握る。



シゲミ「……感じる……邪気が近づいている……キアヌ、アナタは守ろうとしていたのね。患者たちを、病院に潜むこの世ならざる者から」



 外から、全身を包帯でぐるぐる巻きにされたガリガリの男が扉をすり抜けて入ってきた。キアヌの体毛が一層逆立つ。



シゲミ「アレか」



 包帯男は「ゲェヘッヘッ」と笑いながら、右手を股間を覆う包帯の中に入れる。そしてドクロマークのラベルが貼られた小瓶を取り出した。



包帯男「ゲェヘッヘッヘッヘッ……このニャンコのことは気にせず、お嬢ちゃんは寝ててくれよなぁ〜。痛みも苦痛も感じることなくあの世に送ってやるからよぉ〜。俺っちが調合したこの薬でさぁ〜ゲェヘッヘッ」


シゲミ「アタナ、患者を殺し回っているのね?」


包帯男「そうだよぉ〜。見てのとおり、俺は全身に大やけどをしてこの病院に運び込まれたんだぁ〜。が、杜撰な治療をされてよぉ〜、死んじまったぁ〜。ムカつくだろぉ〜? だから復讐のために患者を殺しまくって、この病院の評判を下げてやろうと思ってるのさぁ〜」



 キアヌが男の顔面目がけて飛びかかるが、体をすり抜けてしまう。



包帯男「だから何回やっても無駄だってぇ〜。ニャンコちゃんよぉ〜。30年以上俺っちに立ち向かってきたけど、1回でも攻撃が当たったことあったかぁ〜? いくら猫でも学習しろよなぁ〜」


シゲミ「……キアヌに手は出さないのね」


包帯男「うん出さないよぉ〜。病院の連中は患者が死ぬ原因がこのニャンコにあると思い込んで、俺っちみたいな暗殺者がいる可能性なんて微塵も考えてないからなぁ〜。コイツには俺っちのスケープゴートならぬスケープキャットになってもらってるってわけよぉ〜」


シゲミ「そう。動物を傷つけないのは感心するけど、動機が不純ね」


包帯男「俺っちに少しでも共感してくれるならよぉ〜、この病院を潰す手助けをしてくれよなぁ〜。お嬢ちゃんの命を使ってよぉ〜」


シゲミ「断る」



 シゲミはベッドの上にしゃがみ込むと「キアヌ!」と大きな声を出す。シゲミの声を聞いたキアヌは包帯男の足下をすり抜けて、ベッドに飛び乗った。シゲミはキアヌを左脇に抱えると、窓ガラスに向かって体当たりをする。ガラスを突き破り、病室の外へと逃げ出した。



包帯男「おおぅ、アクション映画みたいな動きだねぇ〜。なんだかテンション上がってきちゃうなぁ〜。さぁて、殺そ」

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