表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/174

守る②

PM 7:41

 狭い歩道で仁王立ちをするトモミ。田ノ植(たのうえ)に頼み、トモミが立っている地点から前後300mを一時的に立ち入り禁止してもらっている。もし入ってくる者がいれば、それは(くだん)の自転車に乗った男性の幽霊だけだろう。


 トモミは右手に持った、アルコール度数96%の酒・スピリタスの瓶に口をつけ、3口飲む。


 トモミの前方150mほど先に、自転車の光が見えた。



トモミ「来ましたね」



 男性の幽霊は昨夜老婆に接触したときと同じくスマートフォンを眺め、正面を見ていない。



トモミ「脇見運転……目の前の障害物や信号に意識が向いていない。だから事故に遭うのですよ。子供を後ろに乗せていたにも関わらずこんなことをして……この毒親がぁ!」



 トモミと自転車との距離がどんどん近くなる。トモミは目の前にスピリタスを撒いた。そしてワンピースの左ポケットからマッチ箱を取り出す。箱の中のマッチ1本を口で咥え、左手のマッチ箱のヤスリにこすりつけて火をつけると、プッと前方に吐き出した。


 落下したマッチの火がスピリタスに燃え移り、歩道に炎の壁を作り出す。



男性「おわぁぁ! 何だぁ!?」



 男性は急ブレーキをかけ、自転車ごと横転した。炎の壁越しに男性へ向かって話しかけるトモミ。



トモミ「ここまでやれば、自転車に乗ってる間すらスマホから目が離せないアナタも異変に気づくでしょう。自転車に乗ったままの『ながらスマホ』は道路交通法で禁止されていますよ」


男性「あぁん!? ちょっと気になって見ただけだよ」


トモミ「ちょっとではないでしょう? アナタはこの後、数百m先にある交差点で信号を無視し、トラックにひかれて死にます。その間ずっとながらスマホをしていたはず」


男性「……何を言ってやがる」


トモミ「いい加減気づきなさい。アナタはもう死んでいます。死んでもなお、周りの人に迷惑をかけ続けているのです」


男性「……俺が死んでいる? そんなわけ……」


トモミ「覚えているはずです。アナタは何度もこの道を通り、事故に遭っている。死ぬ前の行動をループしている」


男性「そんなバカな……何なんだよアンタは!?」


トモミ「アナタと同じ、子供を持つ親です」


男性「子供……そうだ、俺は子供を乗せてるんだ! こんな真似しやがって! 子供が怪我したらどうしてくれるんだ!?」



 男性は自転車の後部に取り付けた幼児用座席に目をやる。しかしそこに子供の姿はない。



男性「なん……で……どこかに落としてきたのか……?」



トモミ「アナタの子供は死んでいません。無事に助かりました。が、スマホに夢中で子供がいないことにも気づかない不注意さ……同じ親として考えられない。子供を守りたかったら、まずは社会のルールを守りなさい」



 男性がトモミをにらみ、奥歯を食いしばる。



男性「黙ってりゃ調子に乗ってベラベラと……」


トモミ「周りの迷惑にも気づかない……子供の危険性にも気づかない……自分の死にも気づかない……実に愚かしきこと」


男性「ぶっ殺してやる!」



 男性は立ち上がり、自転車を持ち上げてトモミに殴りかかろうとする。



トモミ「バカは死んでも治らない……か」



 トモミは瓶の3分の1ほど残ったスピリタスを全て口に含み、男性に向かって吹きかけた。トモミの口から噴射されたスピリタスは、炎の壁の上を通過すると同時に火炎の息吹と化し、男性の上半身を包む。



男性「あがぁぁぁっ! あついぃぃぃあつぅいぃぃぃっ!」


トモミ「毒親の消毒には炎が最適です」



 男性に燃え移った炎は体だけでなく自転車をも飲み込み、煙となってその場から消え去った。


 トモミの背後から消火器を抱えた田ノ植が慌てて駆けつけ、残った炎に消化剤をかける。大きな火事になる前に炎は全て消えた。



トモミ「駆除完了。これで幽霊の被害はなくなるでしょう」


田ノ植「いやぁ、さすがです! どうもありがとうございます……なんて言うとでも思いましたか!? なんで歩道を燃やしていたんです!?」


トモミ「炎の熱エネルギーで幽霊を駆除するためです」


田ノ植「こんな方法で駆除するなんて聞いてません! 実に危険な行為だ! もう警察を呼んでありますからね! こんなに危ない人だとは思いませんでしたよ! 警察が来るまでここで」


トモミ「ニシローランドゴリラビンタッ!」



 トモミは田ノ植の左頬に平手打ちを見舞い、そばに建っているマンションの壁面に頭からめり込ませた。田ノ植は気を失い、頭が壁面に刺さったままだらんと体の力が抜ける。



トモミ「警察を呼ばれる筋合いはありません。しかしこの場は退散させてもらいましょう。ニシローランドゴリラビンタは相手の記憶を奪ってしまうので、今回の件はなかったことになり報酬はもらえないでしょうが……今は身の安全が最優先!」



 トモミは駆け出し、夜の闇の中へ消えていった。



<守る-完->

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ