本物の心霊愛好家①
PM 3:42
市目鯖高校
化学実験室に入るカズヒロ、サエ、シゲミ、トシキ。実験室の中心にある黒い大きな机の上にそれぞれの荷物を置く。
カズヒロ「みんな準備してきたかー?」
サエ「懐中電灯にお菓子と飲み物、幽霊除けの清めの塩! バッチリ〜!」
トシキ「本当に行くの? 例の廃団地……入居者145人が自殺。団地の周辺でも怪死が相次いで周りに建物が1つも残っていない。団地の解体工事中にも死傷者が出て放置されている超危険地帯ってネットに載ってたよ」
カズヒロ「そういうところに乗り込んでこその心霊同好会だろー?」
???「正直、僕はそれだけじゃ生ぬるいと思いますけどね」
シゲミ「……ってアナタ誰?」
4人のほかにもう1人、男子生徒が実験室に紛れ込んでいた。マッシュルームヘアで、赤ん坊の人形を抱いている。着ているブレザーから市目鯖高校の生徒であることは間違いないが、4人とも面識がない。
???「申し遅れました。僕は1年H組のヤマトといいます。心霊同好会に興味があり、先輩たちを尾行しました」
トシキ「あっ、もしかして入会希望者? うれしいなぁ」
トシキが笑顔でヤマトに近寄ろうとする。しかしヤマトは右の拳でトシキのみぞおちを思い切り殴った。うずくまるトシキ。
ヤマト「入会? するわけないでしょう。こんな生ぬるいことをやってるお遊び同好会に」
カズヒロ「何だと!?」
ヤマト「埼玉県内最恐の心霊スポットと呼ばれる廃団地に行こうとしているのは肝が据わっていると思います。しかしあの団地はすでに多くの動画配信者が足を運んでいる。アンタたちがやっているのは二番煎じ……いや七十五番煎じくらいなんですよ。そんなありふれたことをやって心霊愛好家を名乗らないでいただきたい」
サエ「別にいいじゃん! キミには関係ないことでしょ〜?」
ヤマト「こんな程度の人間が市目鯖高校の心霊愛好家代表みたいなツラをして活動してるのが許せない。僕こそが本物の心霊愛好家だ」
カズヒロ「心霊愛好家に本物もクソもあるかよ!」
ヤマト「あるんですよ。本物の心霊愛好家は24時間365日絶え間なくオカルトのことを考え愛し続けている。今の僕がまさにそうだ」
シゲミ「……ヤマトくん、アナタがもってる赤ちゃんの人形、禍々しい邪気をまとってるわね。ほんの僅かだけど」
ヤマト「わかりますか? 少しはできる人がいるようだ。そう、この人形は実際に呪いの儀式に使われたもの。呪術師の怨念が込められている」
シゲミ「そんなもの持ってたら、アナタの身が危険よ」
ヤマト「ノープロブレム」
ヤマトはブレザーのジャケットの右ポケットから、10cmほどの干からびた細長い塊を取り出し4人に見せつける。
ヤマト「猿の指のミイラです。これも呪いの儀式に使われたもの。この指のミイラで人形の怨念を相殺している。だから僕の体には何の異変も起きていない」
トシキ「な、なんてヤツだ……」
ヤマト「このように僕は呪物を肌身離さず持っている。アンタたちの中に同じことをやってる人がいますかね?」
トシキが咳き込みながら立ち上がる。カズヒロはふらつくトシキの体を支えながら、ヤマトをにらみつけた。
カズヒロ「呪物って言っても、本当に危険な代物なのかわからないだろー! そんなものいくら見せつけられてもお前のすごさなんて全く伝わらねーよ!」
ヤマト「そう言うと思ってました。そこで提案です。僕も皆さんと一緒に廃団地に行きます。そして現地に着いたら右手でコックリさんを、左手でウィジャボードをやって、最後に裏拍手をしてみせましょう」
トシキ「何だって!? どれも悪霊を呼び出す可能性がある危険な行為じゃないか!」
ヤマト「だとしても本物の心霊愛好家なら恐れず、むしろ積極的に実践する……そんな僕の胆力をアンタたちが認めたら、心霊同好会を解散してもらおうか。そして僕が、真・心霊同好会を立ち上げる」
サエ「そんな……」
シゲミ「面白そうね。やってみせて」
カズヒロ「シゲミー!」
シゲミ「気になるじゃない? 心霊スポットで降霊術をいくつもやったらどうなるのか。ヤマトくんが実験台になって私たちにリスクがないなら、安心して見てられる」
ヤマト「ふん。余裕ぶれるのも今のうちですよ。数時間後、アンタたちは本物の心霊愛好家がどういうものか思い知るでしょう。そのときが楽しみですねぇ」




