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素直な心で①

市目鯖(しめさば)高校 昼休み

 廊下を並んで歩くシゲミとトシキ。トシキは顔の前で両手を合わせている。



トシキ「お願いだよぉシゲミちゃん! 500円、いや1000円でいいから貸してくれよぉ!」


シゲミ「こういうとき金額を減らすのが普通じゃない?」


トシキ「怪談の本を買いまくって金欠で、昼食代がないんだぁ。頼むよぉ、来週には倍にして返すからさぁ」


シゲミ「ダメ。1回甘やかすとエスカレートしていくから。断食しなさい」


トシキ「そんなぁ……」


???「お金に困っているなら、私が工面して差し上げましょうか?」



 正面から女性の声が聞こえ、シゲミとトシキは視線を向ける。ピンク色のセーターが目立つ女子生徒が立っていた。茶色のロングヘアをセンター分けにしておでこを露出させている。髪の先端は縦ロールになっており、チョココロネを左右に2つぶら下げているかのような髪型だ。


 彼女の背後には、取り巻きと思われる女子生徒が4人。



???「1000円と言わず、1万円でもいいけれど」



 女子生徒は右手の人差し指と中指で1万円札を挟み、トシキに見せつける。お札に手を伸ばし近づこうとするトシキの襟首をシゲミがつかんで制止した。



シゲミ「アナタ誰?」


???「あらあら、この市目鯖高校に私のことを存じ上げない生徒がいるだなんて」


トシキ「シゲミちゃん知らないの? 『お嬢様』こと、2年A組のアヤコちゃんだよ?」


シゲミ「初耳だわ」


トシキ「東証一部上場企業の役員の娘。親から毎月50万円ものお小遣いをもらっている高校生離れした(ふところ)の温かさと、高飛車(たかびしゃ)な態度からついたあだ名が『お嬢様』」


シゲミ「へぇ」


アヤコ「高飛車は余計だけれども、概ねそのとおり。この学校で私よりお金持ちはいない! 教頭よりも、校長よりも私が上! 私はお金の力で裏から学校のあらゆる制度を牛耳る実質的な」



 アヤコの言葉を遮るように、背後に立つ取り巻きの女子生徒が口を開く。



女子生徒「アヤコ、もういい? 私たち、そろそろお弁当食べたいんだよね」


アヤコ「あっ、そうよね! ありがとう! もう充分! あの爆弾魔・シゲミを威圧することに成功したから」


女子生徒「じゃあ早く」



 4人の女子生徒は同時にアヤコに向かって右手を差し出す。アヤコはそれぞれに1万円札を2枚ずつ渡した。お金を受け取った女子生徒たちは、「イェーイ! 30秒で2万儲けた!」などと歓声を上げ、アヤコを残してその場から立ち去る。



アヤコ「……」


シゲミ「……お金で雇った()()()()()だったのね」


アヤコ「別に良いじゃない! 友達ってのは相手の魅力に惹かれてなるものでしょ!? 私の魅力はお金を持ってることなの!」


シゲミ「親が稼いだお金であってアナタのお金じゃないんでしょ?」



 奥歯を食いしばるアヤコ。



アヤコ「何とでも言うがいいわ……プロセスはどうあれ、お金を持っていれば何事も上手くいくのよ……現に私は学年ナンバーツーのイケメン・ソウタくんとお付き合いさせてもらってる! これも私がお金持ちだからこそ!」


トシキ「それは新情報だ! 身長182cmでオダギリジョー似、高身長ダウナー系イケメンと名高いソウタくんとお嬢様が付き合ってるだなんて!」


アヤコ「ご理解いただけた? 私の学生生活はまさに順風満帆なの!」



 シゲミとトシキの背後からソウタが歩いてきた。2人を通り越し、アヤコへ近づく。



ソウタ「アヤコじゃん。何してんの?」


アヤコ「ソウタ、この人たちが」


ソウタ「気安く呼び捨てすんな。『くん』をつけろ。もしくは『様』」


アヤコ「ソウタ……様」



 アヤコに右手を差し出すソウタ。



ソウタ「今月のレンタル彼氏代、まだ払ってねぇよな? 36万。払え」


アヤコ「……今は持ち合わせがないから、後で口座に振り込むね」


ソウタ「早くしろよ。月末までに振り込まなかったら契約解除だからな」



 ソウタはアヤコに背を向け、立ち去っていった。



アヤコ「……」


シゲミ「……お金で雇った彼氏もど」


アヤコ「言わないで! 私の幻覚を覚まさせないで! 私とソウタは付き合ってるの! それが現実なの!」


トシキ「悲しいね」


シゲミ「で、私に何か用があって来たんじゃないの?」



 アヤコは両手を腰に当てる。



アヤコ「そう。シゲミ、アナタを私のボディーガードとして雇いたいの。私は今日の夜10時まで学校に残るつもりだから、私が下校するまで身辺警護をお願いしたい」


シゲミ「なぜ?」


アヤコ「この学校、幽霊が出るってウワサが山のようにあるでしょ? 特に夜は幽霊の目撃情報や被害が増える。だから怪異専門の殺し屋に私を守ってほしいの。それに……」



 アヤコは左手の親指で自身の後ろを指さす。視線をアヤコの向こう側にやるシゲミとトシキ。5mほど後方、廊下の角から頭だけ出して3人を見つめる、坊ちゃん刈りでメガネをかけた男子生徒がいた。



アヤコ「アイツ、学校にいる間ずっと私のことをつけ回してくるの! アイツからも守ってほしい!」


トシキ「彼はたしか……2年A組のノリチカくんか。あらゆる生徒のデータを持っている僕でも名前くらいしか知らない未知数な男だよ」


アヤコ「私が夜1人で学校にいたらアイツに何されるかわからない! だからシゲミ、アナタを雇うわ! 友人たちに渡した8万円とソウタに払う36万円を引いて、私の今月のお小遣いは残り6万円。この6万円でボディーガードをやってもらえるかしら?」


シゲミ「良いわよ。でもお金は要らない」


アヤコ「……えっ?」


シゲミ「市目鯖高校の生徒の依頼はお金を取らずにやると決めているの。だから要らない」


アヤコ「……そ、そう! なら大助かりだわ! 授業が終わる7限目から夜10時まで、お願いするわね!」

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