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惨劇の再現③

 コンクリート壁の内側に入ったカカカ。スライド式の玄関扉の目の前に出た。胃之頭(いのかしら)家はごくありふれた2階建ての戸建て住宅。屋根はコンクリート壁よりやや低く、屋根の向こうには青空が見える。


 カカカはコンクリート壁の扉を閉め、玄関の前に立った。



カカカ「お邪魔しまーす!」



 大きな声で挨拶し扉をスライドさせる。家の中から微かに「どうぞー」という女性の声が聞こえた気がしないでもなかったが、カカカは気にも留めず入った。


 薄暗い室内。靴を脱いで上がり、カメラの設置に取りかかる。



−−−−−−−−−−



 ワンボックスカーの後部座席、7つのモニターの前に座るシゲミと歯砂間(はざま)。2人ともカカカと通信できるようヘッドセットを装着している。


 カカカが家に入ってから約1時間後、モニターに家の中を映せるようになった。カカカがカメラの設置を完了させたのだ。2人のヘッドセットからカカカの声が流れる。



カカカ「どう? アタシ映ってるー?」



 モニターの1つに、1階リビングで天井のカメラに向かってピースしながら飛び跳ねるカカカが表示された。マイクに向かって語りかける歯砂間。



歯砂間「見えたよ。他の部屋も確認できる。カカカはそのままリビングで待機。何をしてても自由だけど、24時間経つまでコンクリート壁の外には出ないでね」


カカカ「おけまる」



 カカカはリビングの床に仰向けで寝そべり、スマートフォンを眺め始めた。リラックスしているカカカの様子を見て肩の力が抜けたのか、歯砂間は大きく息を吐く。



歯砂間「このまま何も起きず、明日の今頃にカカカが元気に出てきてくれるのが一番良いんだけどね」


シゲミ「どうでしょう。分厚い防壁に遮られているというのに、中の家が放っているイヤな気配がここまで伝わってきます。カカカさんの身にいつ何があってもおかしくない状態です」



−−−−−−−−−−



 リビングでゴロゴロしながら、スマートフォンで漫画を読むカカカ。家中の至る所からパチンパチンと何かが弾けるような音が繰り返し響く。



カカカ「さっきから変な音するなぁ……あれ? こういうの何ていうんやったかな……? なんとか現象……なんやったっけ……?」



 カカカは起き上がってあぐらをかき、目を閉じて考える。そして「あっ、そうや」と言い目を開ける。



カカカ「フェアリークラッピング現象や。妖精が人間に気づいてもらおうと手拍子してるんよな。でもアタシの目的やオバケや。妖精さんは無視無視」



 突如、家が大きく振動し、リビングの入口扉がひとりでに開いたり閉まったりし始めた。異変を感じたカカカはリビングを見回す。



カカカ「こ、これもなんとか現象や! 名前があったはず! なんやったか……えっと……そうや!」



 左手のひらと右の拳をポンッと合わせるカカカ。



カカカ「ジャイアントウォーキング現象や。巨人が近くを歩いて地面が揺れる現象。けど巨人にも用はあらへん。オバケにだけ集中や」



 揺れる家の中でカカカは再び寝そべり、漫画の続きを読み進めた。



−−−−−−−−−−



3時間半後

 揺れはすっかり収まった。静かになったことで眠気に襲われ、まぶたを閉じかけるカカカ。眠りにつこうとしたそのとき、目を開いて立ち上がった。そしてガクガクと唇を震わせながらヘッドセットのマイクにささやく。



カカカ「歯砂間っち、聞こえてる? ヤバイことになった……」



 ヘッドセットから歯砂間の声が響く。



歯砂間「カカカどうしたの? 大丈夫よ、聞こえてるしカメラでずっと見てる」


カカカ「う〇こしたい!!」


歯砂間「……なら玄関の外に出て仮設トイレで済ませて。最初に言ったでしょ?」


カカカ「せやった! ほんなら問題ないわ! ありがとう!」



 カカカは駆け足でリビングから出て廊下を進み、玄関の外にある仮設トイレに入った。


 出すものを出し、仮設トイレから家の中へ戻ろうとするカカカ。玄関扉をスライドさせると、家の奥から人の声が聞こえた。つい数分前までカカカしかいなかったはず。電気は通っていないのに、照明が灯っている。先ほどまでと状況が変わり、疑問に感じるカカカ。



カカカ「どうしたんやろ? ……わかった、歯砂間っちが暇そうなアタシを気遣って遊びに来たんやな!」



 カカカは靴を履いたまま家に上がる。家の奥、リビングから現れた見知らぬ女性と廊下で鉢合わせた。オレンジ色のシャツを着てジーパンを履いた40歳前後の女性。女性は青ざめた表情で後ずさる。



女性「どちらさまですか……? 勝手に人の家に入っちゃ……」


カカカ「あっ、アタシは怪異研究機関『(りょう)』の調査員で加行(かぎょう) カカカという」



 カカカが自己紹介している途中、女性が目の前で倒れた。腹部から出血し、シャツに血がにじむ。



カカカ「えっ!? どうしたんおばちゃん!?」



 駆け寄ろうとしたカカカだが、右手に血まみれの包丁を握っていることに気づく。



カカカ「なに……これ……? アタシ包丁なんて持ってなかったで……なんで……でも……このままじゃアカン」



 カカカは女性に馬乗りになり、包丁で腹部を何度も刺す。女性は完全に絶命し、カカカの体は返り血で赤く染まった。


 立ち上がったカカカはそのままリビングへ入る。隅のほうで赤ん坊を抱える中年男性が小さい男の子を背にしてかがんでいた。侵入してきたカカカに対して男性は怯えながらも声を上げる。



男性「何者だ貴様!? 家内に何をした!?」


カカカ「やらなアカン……やらなアカンねん……」



 カカカは猛スピードで男性へと近寄り、包丁で喉を貫く。そして抱えていた赤ん坊の胸に刃を突き立てた。恐怖して逃げようとする男の子の腕をつかんで動きを止めると、背中を繰り返し突き刺す。一家団欒の真っ最中であっただろうリビングが血の海と化した。



カカカ「なにこれ……? アタシがやったん……? アタシがこの家族を……違う……アタシやない……アタシ……でもアタシしかおらへんやん……いやや……いやぁぁぁぁぁぁっ!」



 絶叫するカカカの腹部をシゲミが殴り、気絶させる。1人で暴れ出し、マイクで呼びかけても何も反応せず、錯乱状態になったカカカをモニターで確認したシゲミが突入したのだ。


 カカカを右脇に抱え、左肩にかけたスクールバッグに手を入れるシゲミ。



シゲミ「間違いない。胃之頭一家の亡霊はこの家で死の瞬間を再現し、繰り返している。そして再現するのに足りない人間を、別人に幻覚を見せることで補っているんだ」



 シゲミは駆け出し、リビングの壁にC-4をセットする。さらにキッチン、廊下、階段、2階の寝室の壁にもC-4を貼りつけ、窓から出て気絶したカカカを抱えたまま外壁の排水管を伝って屋根の上へと登った。


 屋根の上にたどり着いたシゲミは、スカートの左ポケットから黒い筒状のC-4の起爆スイッチを取り出す。そして屋根瓦を蹴ってコンクリート壁の上へ飛び移ると、スイッチを力いっぱい押した。


 C-4が爆破。家は大量の煙を上げて倒壊した。シゲミはコンクリート壁の上から瓦礫と化した胃之頭家を見つめる。



シゲミ「悲しい時を無意味に繰り返す必要なはない。もう、おやすみなさい」



 シゲミのヘッドセットから歯砂間の声が流れる。



歯砂間「シゲミさん! 家は爆破したのか!?」


シゲミ「ええ。緊急事態だったので仕方なく」


歯砂間「カカカは?」


シゲミ「無事です。が、一家殺人を疑似体験してしまったと思われます。手厚いメンタルケアが必要でしょう」



−−−−−−−−−−



翌日

 歯砂間に「魎」市目鯖(しめさば)支部へと呼び出されたシゲミ。支部の入口で歯砂間に出迎えられ、応接間へと入る。ローテーブルの上に菓子パンの袋が大量に置かれていた。テーブルの奥のソファでは、カカカが満面の笑みでメロンパンにかじりついている。



カカカ「シゲミっち! 昨日は助けてくれてありがとう! 朝まで気絶してたから直接お礼が言えなくて、歯砂間っちに呼んでもらったんや!」



 応接間の入口で立ちすくむシゲミに、背後から歯砂間が話しかける。



歯砂間「あのパンは、カカカなりのお礼だってさ。一緒に食べようって」


シゲミ「なんでカカカさん平気そうなんですか? 現実ではないとはいえ、殺人を体験してしまったんですよ?」


歯砂間「あの子、昔からメンタルが鬼のように強いの。いや鬼という言葉でもまだ足りないくらい強い。だから子供の頃の私もカカカに興味を持って研究……仲良くしようと思った」


シゲミ「……」


カカカ「アタシ、大抵のことは一晩寝れば解決すんねん! シゲミっち、遠慮せんでええよ! 腹パンパンになるまで食べようや! パンだけにな!」



<惨劇の再現-完->

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