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未練の終着駅②

 シゲミたちを取り囲み、じっと見つめる数百人の客。全員顔が青白く、生気がない。



カズヒロ「あの……俺らに何か用っすか……?」


サエ「私たち電車に乗りたいんですけど〜……囲まれちゃうと乗れなくて〜……」



 客たちはブツブツと呟き出す。



若い男性「もう働きたくない……納期に追われる日々から解放されたい……いつも不機嫌な上司もイヤだ……」


中年女性「職場の人間関係に疲れた……上の人にも下の人にも邪険にされる……私は用済みなんだ……」


若い女性「なんで私がキモいオヤジの相手をしなきゃならないの……そのために採用されたの……?」


中年男性「会社でも家庭でも厄介者扱い……部下を叱責してストレス発散したら余計に嫌われる……どうすればいいんだ……」


老爺「腰が痛い……肩が痛い……膝が痛い……足の指の付け根が痛い……」


老婆「孫にとって私はATM……老後の資金が必要なのに……」



 口々に恨み節を呟いた客たちは、ピタリと言葉を止めた。一瞬、ホームに静寂が戻る。



若い男性「学生時代に戻りたい」


中年女性「学生時代に戻りたい」


若い女性「学生時代に戻りたい」


中年男性「学生時代に戻りたい」


老爺「学生時代に戻りたい」


老婆「学生時代に戻りたい」



 全員が「学生時代に戻りたい」と連呼し始めた。



トシキ「シゲミちゃん、これって……?」


シゲミ「おそらく電車を利用する人たちの生き霊……負の感情が具現化したもの。このくろばみ駅は、人々の怨念が行き着く地」



 客たちは一斉に「コイツらの体を奪えぇぇぇ!」と叫びながらシゲミたちに群がろうとする。シゲミは左肩に駆けたスクールバッグに手を入れ、手榴弾を取り出す。安全ピンにワイヤーが結びつけられており、他に10個の手榴弾の安全ピンをつなぎ合わせている。


 シゲミが1つの手榴弾の安全ピンを抜くと、連動して他の手榴弾のピンも全て抜けた。



シゲミ「多対一戦闘(たたいいちせんとう)は私のナワバリ。みんな伏せて耳を塞いで」



 ワイヤーから切り離された手榴弾が客たちの足下に転がる。カズヒロ、サエ、トシキはシゲミの指示に従い、両手で耳を塞いでその場にしゃがみ込んだ。


 手榴弾が爆発し、客たち数十人をホームの天井まで吹き飛ばす。飛ばされた客の体は空中で霧散した。



シゲミ「今のうちに!」



 電車への通り道が生まれ、シゲミたちは駆け足で乗り込む。爆発に巻き込まれなかった客が最後尾のシゲミを捕まえようとするが、シゲミはダメ押しで2つ手榴弾を背後に放る。シゲミが電車に乗り込んだ直後、扉が閉まり、手榴弾が爆発。そして漬間黒(づけまぐろ)駅方面へと電車が走り出した。


 誰もいない車内で床に座り込み、大きく息を吐くカズヒロ、サエ、トシキ。シゲミは窓際に立ち、電車が発車してもなおシゲミたちを追いかけようとする客の群れを一瞥する。


 電車はくろばみ駅を離れ、トンネルへと入った。



カズヒロ「ヤバかった……シゲミがいなかったらどうなってたことか」


シゲミ「全員あの生き霊たちに憑依されて、体を奪われていたと思う」


サエ「結局くろばみ駅も危ない場所だったじゃ〜ん! トシキ〜、リスキーな場所には行かないんじゃなかったの〜?」


トシキ「僕だって初めて行ったんだ! どんな場所かなんて100%正しく予想できないよ!」


シゲミ「さっきも言ったけど、あの生き霊は電車を利用する人たちの負の感情そのもの。日頃ため込んだ怒りや未練が行き帰りの電車にこびりつき、くろばみ駅にたどり着く。いや、くろばみ駅自体、そういった人間の負の感情が作り出した駅なのかも」


トシキ「電車から降りてきた人たち、スーツを着た大人ばかりだったよね? やっぱり大人になって働くとストレスがものすごいのかな? 学生時代が恋しくなるほどに」


シゲミ「近い将来、私たちも実感するでしょうね。そして私たちの生き霊もくろばみ駅にたどり着くことになるかもしれない」



 シゲミの言葉で、トシキたちは背中に冷たいものを感じた。電車は軍艦駅へ向かって暗いトンネルを突き進む。



<未練の終着駅-完->

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