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城と兵士③

 不良少年と少女に取り囲まれながら、満足げな笑みを浮かべるユタカ。右手の人差し指と中指を立て、口元へ近づける。少年の1人が自転車から降りてユタカに駆け寄ると、ポケットからたこ焼き味のうまい棒を取り出して開封。中身をユタカに差し出した。ユタカはうまい棒を指で挟んで咥えると、葉巻のように吸う。



ユタカ「うまい棒を通してエアーを吸うと、その味のフレーバーになって最高なんだよねぇ〜……だけど、これたこ焼き味じゃ〜ん」


少年「は、はいそうですが……お気に召しませんでしたか?」


ユタカ「食べるならたこ焼きが一番好きなんだけどさぁ〜。吸うときは、めんたい一択って相場が決まってるじゃん。そういう常識もないわけぇ〜?」


少年「す、すみません! 今すぐ買い直してきますの」



 ユタカはスプリングアニマルの上に立つと、右足で少年のアゴを蹴り上げた。少年の下アゴが引きちぎれ、宙を舞う。少年は口を閉じることができなくなり、大量出血しながら仰向けで倒れた。取り巻きたちが絶句する。


 その光景を樹上から眺めていたサシミ。相手が子供とはいえ、蹴りだけでアゴを引きちぎることなど不可能。ユタカの異常性を察した。物音を立てないよう、木の幹を伝ってスルスルと下る。


 スプリングアニマルから飛び降りたユタカは、咥えていたうまい棒をバリバリと貪った。



ユタカ「()()が1人減っちゃった。私、最低50人は守りがいないと安心できないのよねぇ〜。新しい兵士をすぐに調達してきてちょうだい」



 言葉を失っていた取り巻きたちだが、我に返り「うぉぉぉっ!」と、自分を鼓舞するように雄叫びを上げる。そして自転車をこぎ出した。


 直後、広場の上空から細い針が降り注ぎ、自転車に乗った少年少女の肩や首の後ろに突き刺さる。50人のうち、半数近くがその場でヘナヘナと倒れ、寝息を立て始めた。ユタカの頭上からも針が迫り、頭頂部と両肩に合わせて3本刺さったが、倒れることも眠ることもない。意に介さず立ち続けている。


 木の陰から広場に飛び出たサシミ。ユタカと10mほど離れて対峙する。



サシミ「葱吐露(ねぎとろ)小、2年2組のユタカくんだよね?」


ユタカ「……そうかな? そうかも。この()、そんな名前だったような気がするなぁ〜」


サシミ「心身の分離。おばあちゃんが言っていた、怪異に憑依された人に見られる傾向の1つ」


ユタカ「だったら何〜? このユタカって子に何の用〜?」


サシミ「用があるのはユタカくんじゃなくて、その中身よ。アナタ、ネクロファグスっていう怪異でしょ?」



 一瞬だけ目を大きく開くユタカ。そして口を三日月型にして微笑む。



ユタカ「私のこと、知ってんだぁ〜」


サシミ「ずっと隔離されていたけど、逃げ出したと聞いてる」


ユタカ「そうなのぉ〜。人間に捕まって、変な実験に付き合わされてぇ〜。可哀想でしょ〜? 逃げて当然でしょ〜?」


サシミ「どこへ行くつもり?」


ユタカ「()()。手土産を持って帰省(寄生)するだけだよぉ〜」


サシミ「おとなしく帰るだけじゃないんでしょ?」


ユタカ「もち。準備ができたら、私を苦しめた人間どもにお返しするつもりぃ〜」


サシミ「だったら見過ごすわけにはいかない。ここで始末する」



 ユタカをにらむサシミ。ユタカは左足のつま先で地面をトントンと叩いた。



ユタカ「お嬢ちゃんさぁ〜、なんで私が自分のことをペラペラ喋ってるのか、その理由をわかってないんじゃな〜い?」


サシミ「理由?」


ユタカ「始末されるのは私じゃなく、キミだってことぉ〜」



 針が刺さらなかった取り巻きたちが自転車から降りて、一斉にサシミへ向かって駆け出す。その手には木刀や鎖、果物ナイフ、トンカチ、ウニなど様々な凶器。


 サシミは攻撃をかわしつつ、少年たちの体に細い針を刺す。血流が良くなり体の疲れが一気に取れ、1人また1人と酔夢の世界に誘われていく。武装したケンカ自慢たちが懸命に殴りかかろうとも、プロの殺し屋であるサシミを捉えることはできず、攻撃は髪の先端にかすることすらない。ラジオ体操でもしているかのように顔色を変えず反撃を加えていくサシミ。ユタカの取り巻き全員が地面に倒れ、イビキをかき始めるまで2分もかからなかった。


 サシミは、ユタカが乗っていたスプリングアニマルのほうに視線を戻す。しかしユタカの姿がない。そのとき、サシミを上から照らしていた街灯の光が遮られ、足下に(しま)模様の陰ができた。見上げると、ユタカが両目と口を大きく開きながら、ジャングルジムを持ち上げ大きく跳躍している。


 ジャングルジムを振り下ろすユタカ。サシミは地面を蹴って素早く移動する。ジャングルジムはサシミに当たることなく地面と衝突し、ボキボキとへし折れた。


 バックステップでユタカから距離をとるサシミ。逃げるサシミをその目で捉えたユタカは、鉄くずと化したジャングルジムを足蹴に再び跳躍し、サシミに降りかかった。下がる速度を上げ、サシミはユタカの全体重が乗った攻撃をかわす。ユタカの両足が地面にぶつかり、砂埃を巻き上げた。


 サシミは下がるのを止めて、袖口から仕込み針を取り出し、両手の指の間に挟む。先ほどまで使っていた医療用の針ではなく、暗殺用の太い針。


 砂埃が消えると同時に、着地したユタカが立ち上がる。上半身が腰のあたりで、サシミから見て右に90度曲がっていた。



サシミ「アナタ、背骨が……」


ユタカ「あ〜あ、この()やっぱダメだねぇ〜。成長期前の子供だから、脆すぎぃ〜。ちょっと力を出しただけで壊れちゃうんだからぁ〜」



 ユタカは両手を腰に当てると、何事もなかったかのように上半身を元の位置に戻す。



ユタカ「お嬢ちゃんのほうが、幾分か()として丈夫そうかなぁ〜?」



 ユタカの右目、下まぶたを押しのけるように細長い褐色の虫が這い出てきた。虫は鎌首をもたげる。



サシミ「アレがネクロファグスか……」



 一直線にサシミに駆け寄るユタカ。走る勢いに耐えられず、上半身がガクガクと揺れる。サシミは体の正面で左手首を返し、薬指と小指の間に挟んだ仕込み針を投げた。針は弧を描きながら飛び、ユタカの右目から這い出てうごめくネクロファグスにピンポイントで命中。その体を半分に切り裂いた。

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