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JK組長④

PM 5:07

2年H組教室

 窓際、最後尾の座席に横並びで座るシゲミとミキホ。シゲミはスマートフォンでSNSを開き、市目鯖(しめさば)高校内で発生した怪異に関する事件の投稿がないかエゴサーチをしている。その様子を左隣の席で、頬杖をつきながら眺めるミキホ。



シゲミ「SNSに目立った投稿はないし、私のところにも怪異駆除の依頼は来ていない。すぐに私の仕事を見せるのは無理かもね」


ミキホ「だったら、お前がどうやって怪異を殺しているのか、そのロジックだけでも聞きたい」


シゲミ「怪異は大きく2種類に分けられる。実体を持つものと、持たないもの。前者は人間や動物、物などに憑依していて、後者は思念だけで存在している。実体のある怪異を殺すのは簡単。憑依しているものを物理的に破壊すれば良い。だけど思念だけの怪異は少しコツが要る」


ミキホ「どんな?」


シゲミ「思念だけの怪異というのは、言い替えると生き物の負の感情が集まってできたエネルギー体。だから殴ったり刃物で刺したりといった攻撃は通用しない。この手の怪異を殺すには、より強いエネルギーを発生させてかき消す必要がある。熱、音、光……どんなものでもいいんだけど、大量のエネルギーを瞬時に発生させてぶつける。私は爆弾を使っているわ」


ミキホ「ふーん。なるほどね。拳銃(チャカ)は効くのか?」


シゲミ「ええ。弾丸が持つ運動エネルギーと熱エネルギーが、怪異のエネルギーを消し去るわ。けど、威力が高い弾丸じゃないと確実には仕留められない。.357マグナム弾とか、7.62mm弾とかがおすすめね」


ミキホ「……何となく理解した。だがやはり、実際にこの目で見てみないことには信用できないな」


シゲミ「そうよね。もう少しだけ学校の中を回ってみようかしら。誰かが依頼してくるかもしれない」



 シゲミの言葉の直後、教室の後ろ側の扉が開いた。扉のほうを見るシゲミとミキホ。外の廊下から女性が入ってきた。小柄で、モスグリーンの頭巾とエプロンを身に付けた還暦近い女性。



シゲミ「まさか怪異!?」


ミキホ「違ぇよ。購買部のおばちゃんだ」



 おばちゃんは2人のほうに近づく。



おばちゃん「いた! ミキホ組長! 相談があるのよ〜」


ミキホ「どうした?」


おばちゃん「購買部で売ってるパンを万引きする人がいるのよ〜。1週間くらい前から毎日来て……捕まえようとしても猛スピードで逃げるから、私の足じゃ追いつけなくて〜」


ミキホ「ずいぶんと舐めたヤツがいるようだな。ソイツの特徴は?」


おばちゃん「男の人で、日本兵のコスプレをしてるのよ〜。若いけど、生徒じゃなさそうなのよね〜」


ミキホ「なんじゃソイツ」


シゲミ「日本兵……ミキホちゃん、もしかしたらその万引き犯、怪異かも。日本各地で、旧日本軍の兵士の幽霊が目撃されている」


ミキホ「そうか。なら丁度良いな。シゲミ、その万引き犯を始末するのを手伝ってくれ」


シゲミ「いいわよ」


ミキホ「おばちゃん、万引き日本兵が来る時間帯、わかるか?」


おばちゃん「放課後に片付けをしているとき。大体5時半くらいね。多分今日も来ると思って、その前にミキホ組長に相談しようと思ったのよ〜」


ミキホ「承知した。おばちゃん、頭巾とエプロン、2つずつあるか? オレらが購買部で待ち伏せる」


おばちゃん「助かるわ〜。用意するから、ちょっと待っててちょうだいね〜」



 おばちゃんは満面の笑みを浮かべ、教室から駆け足で出て行った。



シゲミ「……気になったんだけど、購買部のおばちゃんはなぜミキホちゃんに相談しようと思ったのかしら?」


ミキホ「購買部は浜栗組(はまぐりぐみ)のシノギの1つだからだ」


シゲミ「そんなことだろうと思った。市目鯖高校、浜栗組とズブズブね」



−−−−−−−−−−



PM 5:31

1階 昇降口前

 横に3つ並べた机の上に、菓子パンが入った番重(ばんじゅう)(製菓・製パン用のコンテナ)が置かれている。机と校舎の壁の間に立つシゲミとミキホ。おばちゃんからもらったモスグリーンの頭巾とエプロンを着けている。


 部活動や委員会を終えた生徒たちが、帰り道で食べるパンを買おうと購買部に近づく。しかし全員、殺し屋のシゲミとヤクザのミキホが放つ威圧感、そして「いらっしゃい」というドスの利いた低いおもてなしの声に恐れをなしてしまう。いつもは放課後も生徒で賑わう購買部が、この日は閑散としていた。


 暇を持て余すシゲミとミキホ。2人の目的は万引きをしに来る日本兵を始末することだが、おばちゃんの代わりに購買部を預かっている身でもある。「サボってはいけない」という妙な責任感が働き、会話もせず、ただ真っ直ぐ正面を見て立ち尽くしていた。


 そのとき、昇降口に「突撃ぃぃぃっ!」という男性の大声が響く。声はシゲミとミキホの右手側から聞こえた。声のしたほうを向く2人。旧日本帝国陸軍の軍服を着て、九九式短小銃きゅうきゅうしきたんしょうじゅうを手に持った男性が購買部に向かって走り寄ってくる。購買部の目の前に差し掛かった日本兵は、袋に入ったメロンパンを左手で2つ掴み、そのままダッシュで立ち去った。


 「待てやぁぁぁっ!」と怒声を上げ、シゲミとミキホは日本兵を追いかける。日本兵は廊下を駆け抜け、階段を上り始めた。数秒遅れてその後を追う2人。日本兵は3階にある2年C組の教室に逃げ込んだ。シゲミのクラスである。


 教室の後ろ側の扉からシゲミが、続いてミキホが飛び込む。中央辺りの席に恰幅の良い男子生徒が座っていた。その右隣に敬礼をしながら立つ日本兵。



男子生徒「敵軍の配給物資奪取、ご苦労。毎度素晴らしい働きだ、木名瀬(きなせ) 一等卒」


木名瀬「はっ! お褒めにあずかり光栄であります! 上代(かみしろ) 軍曹殿!」



 上代と呼ばれた男子生徒は、2つあるメロンパンのうち1つの袋を開け、半分に割ると、片方を床に落とした。



上代「それが貴様の取り分だ。1個半は俺の、残り半分は貴様の。不平等だと思うか? いや、当然だよなぁ? 俺は貴様の上官なのだから」


木名瀬「はっ! ありがたく頂戴いたします!」



 木名瀬と呼ばれた日本兵は片膝をつくと、床に落ちたメロンパンを拾い上げて頬張った。

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