攻撃開始④
サツキが殺されたという樹騎矢の言葉を聞き、冷たい表情で立ち上がるポコポコ。
ポコポコ「ほんまなんやろな? オレは、サツキちゃんは治療中だと聞いとったが」
樹騎矢「真実です。この目で見ましたから。『魎』の連中はポコポコ様にウソをついていたのだと思います」
ポコポコ「……」
ポコポコは体を、背後にいるリュウジのほうへ向ける。
ポコポコ「カマキリ男……リュウジっつったな? 人類殲滅のためにオレの力が必要なんやろ?」
リュウジ「はい」
ポコポコ「答え、保留にしとったが、力を貸したる。サツキちゃんがいないなら、オレがこの世に生きてる理由はもうない。人間どもを何十億人でも道連れにしたるわ」
樹騎矢「僕も、ポコポコ様とご一緒させてください」
ポコポコ「ええんか? 樹騎矢。お前も死ぬことになるかもしれんぞ?」
樹騎矢「ポコポコ様もサツキさんもいない世界なんて、考えられません」
ポコポコ「……ありがとな。気持ちはうれしいが、お前は顔が人間ってだけで他はただの犬と変わらへん。いや犬の中でも弱小や。どっかに隠れとけ」
うつむく樹騎矢。リュウジが右膝を床につき、右手で樹騎矢の頭をなでる。
リュウジ「樹騎矢とやら、後ほど我々マンティノイドの極秘シェルターに案内する。そこにいれば安全だろう」
樹騎矢「……どうも」
樹騎矢から手を離し、ポコポコに顔を向けるリュウジ。
リュウジ「我々マンティノイドの戦闘員がともに戦います。ポコポコ様の邪魔にはなりません」
ポコポコ「さよか」
リュウジ「ちなみに、ポコポコ様が人類滅亡を決めるほど、サツキという方は大切な人間だったのでしょうか?」
ポコポコ「……親友や」
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怪異研究機関「魎」本部ビル 地上8階 廊下
体を回転させ、チェーンソーを真横に一周させるリオ。前方にいたイリナと後方にいたケンヤの胴体をチェーンソーの刃が通過し、上半身と下半身に分断した。傷口から白い体液がブシュゥッと音を立てて噴き出す。
床に崩れ落ちたイリナとケンヤ。リオはそれぞれの頭にチェーンソーを突き刺し、息の根を止めた。
リオ「カマキリが人間サイズになったら地上最強って説があるが……再考の必要ありだぜ」
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「魎」本部ビル 地下11階
収容室に隔離されていた、細くて白い体をした人型の怪異・くねくねを、掃除機で吸い込むかのように一飲みにするポコポコ。樹騎矢とリュウジを伴い、収容室から外の廊下に出る。
リュウジ「ここより上階に怪異はおりません。今し方食された怪異が最後かと」
ポコポコ「ああ、もう満足や。だいぶ腹一杯で、力が戻ってきたわ。いや戻ったどころか、発情期みたいに元気いっぱいやで!」
ポコポコの足下からドス黒い霧が立ちこめる。非常に濃い邪気。ポコポコと同じく怪異である樹騎矢とリュウジだから側にいても体に害はないが、人間なら近づいただけで即死する、猛毒そのものである。
樹騎矢「ポコポコ様! 喉具呂島にいたときより格段に邪気の量が増えてますねぇ!」
ポコポコ「邪気を持つ怪異を食うと、オレの体内で保有できる邪気の絶対量が大幅に増える……300体も食ったんや。オレは今までの10倍、いや27倍は強くなっとるはずや!」
樹騎矢「どういう計算なのかわかりませんが、さすがです!」
盛り上がるポコポコと樹騎矢。表情や言葉には出していないが、リュウジも歓喜していた。ポコポコが力を増していることは、放つ邪気の量から明らか。これだけの力があれば、人類に対抗する強力な兵器になることを確信できたからだ。
ポコポコ「でもまだちょっと食い足りひんのよな。軽食が欲しいわ」
樹騎矢「その気持ちわかります! 別腹ってやつですよね! 味を変えて、怪異以外のものも食べたらいかがでしょう?」
ポコポコ「せやなぁ。なんかさっぱりしたもんが……いって」
ポコポコの左側頭部に銃弾が当たる。衝撃で頭が右に倒れたが、怪我は負っていない。
銃弾が飛んできた方向を見るポコポコ、樹騎矢、リュウジ。30mほど先に、黒い戦闘服に身を包み、三八式歩兵銃を構える特殊部隊員・鷹見沢が立っていた。
ポコポコ「なんだぁ?」
樹騎矢「アイツ……ポコポコ様! アイツです! サツキさんを撃った人間! 間違いありません!」
鷹見沢は排莢し、次弾を発射。ポコポコの眉間を目がけて弾丸が飛ぶ。ポコポコは左手の人差し指と中指で弾丸を挟み、受け止めた。
ポコポコ「そうか。サツキちゃんを殺ったんはアイツか……ええタイミングで来てくれたわ」
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「魎」本部ビル 1階
チェーンソーを左肩に担ぎながら階段を下りて来たリオは、広いロビーに出る。「魎」職員の死体が数十体転がっているだけで、生存者は誰もいない。
リオ「もう全員くたばっちまったのか? もっと楽しませてくれや」
リオから見て右手側、エレベーターが1機起動し、下の階から上がってくる。チェーンソーを両手で握るリオ。
リオ「まだ生きてるやつがいたか……そうこなくちゃ」
エレベーターは1階で停止し、扉が開く。中からポコポコを先頭に、樹騎矢、リュウジが出てきた。ポコポコは右手で鷹見沢の首を握り、持ち上げている。鷹見沢の両手、両足は根元で引きちぎられており、大量に流血。腹部は縦に切り裂かれ、引きずり出された小腸をポコポコがすすっていた。
鷹見沢「がっ……かはっ……」
鷹見沢の腸が途中で千切れ、ポコポコの口の中に吸い込まれる。
ポコポコ「人間を生きたまま四肢をもいで食べる『小腸そうめん』。新鮮でさっぱりしてて、軽食に持って来いなんよなぁ」
かろうじて生きていた鷹見沢の呼吸が止まった。
ポコポコ「あら、死んでしもた。生きているうちに食べるのが美味いのに……ほんならもういらん」
鷹見沢の体を放り捨てるポコポコ。頭と胴体しか残っていない、マトリョーシカのような鷹見沢の体が硬い床の上を滑った。
ポコポコの食事を10mほど離れて見ていたリオ。チェーンソーのストラップを引き、エンジンをかける。
リオ「はっは……はーっはっはっはっ! わかる……わかるぜぇ……レベチなヤツが来やがった」




