覚醒の刻
~12月9日~
昨日の出来事がまだ頭を離れない。あれから一晩、寝ても目を閉じるたびにあの男の顔が浮かんできて、何度も目を覚ました。俺はその男を、ただの「試練」として見ていた。ヴァロスの指示通り、俺は「試すべき力」として、あの男を殺してしまった。でも、それが本当に「力を使うこと」と言えるのだろうか?
力を持つ者には責任が伴うと言うけれど、俺にはその責任を果たせるのかどうか、わからない。あの男の死が俺の手のひらに乗ってしまったことが、今も信じられない。無力感に押しつぶされそうで、朝起きても気分が晴れることはなかった。
リリスは何も言わなかった。彼女はただ冷静に俺を見ているだけで、何も感じていないような目をしている。その目を見ると、ますます自分が「選ばれし者」として足りていないことを痛感する。力が覚醒しても、その使い方が分からない。どうしてこんなことになってしまったのか。
遺跡を出る時、ヴァロスがもう一度現れた。彼はあの男の死を見届けてから、ただ静かに俺に言った。「お前はその力を使いこなすまで、試練を繰り返す。命を奪うことで、何を得たかを考えろ。」
その言葉がまた、俺の心を抉った。力を使う覚悟が足りないのか?俺にはその力を持つ資格なんてないのか?試練を乗り越えたところで、結局は誰かが犠牲になるんじゃないか。それが恐ろしい。
その後、リリスが声をかけてきた。「もう一度力を制御する練習をする。次の試練までに、少しは使いこなせるようにならないと。」
彼女の言葉には、ただ淡々とした冷徹さがあった。俺が苦しんでいる姿を見ても、彼女はそれが「当然のこと」とでも言いたげだった。
力を使うための練習なんて、もうしたくない。あの炎が、再びあの男を焼き尽くすような気がして、体が震えた。でも、リリスは言う。「この力を使いこなせなければ、ケイ、あんたはいつまでたっても力をただ暴力に使うことになる。」
その言葉が胸に刺さった。俺は「選ばれし者」なんだ。何も知らないままでいられるほど、甘い立場じゃない。
だから、仕方なく練習を始めた。
ただ、どうしても自分の中にあった恐怖が消えない。炎が暴れだすたびに、その恐怖が込み上げてきた。結局、うまくいかなかった。体は燃えるように熱くなり、炎が手のひらから爆発する。けれど、その炎をうまく制御できず、周囲の岩を焦がすだけになった。
リリスは「まだまだだね」と冷静に言った。それがまた、俺の焦燥を加速させるだけだった。
その後、リリスが何かを思い出したかのように言った。「あんたの父親も、この力を扱うためにどれほどの犠牲を払ったか知ってるか?」
その言葉に驚いて振り向いた。父親がそんなことをしていたなんて、まるで知らなかった。でも、リリスは続けた。「アラストル・ヴァルデスは、この力を持つ者にとっての『道標』だった。あんたにその力を託したのは、ただの偶然ではない。」
俺はその言葉を消化できなかった。父親は、そんなにも恐ろしい力を持っていたのか。もしもそうだとしたら、父親の死もただの事故じゃなかったのかもしれない。力を受け継ぐことが、そんなにも重いことだったとは。
リリスが言う。「あんたが力を制御できるようになれば、父親の死の真相もわかるかもしれない。」
その言葉に、再び心が揺れた。父親の死――その真相を知りたいという気持ちは、今も俺の中で強く生きている。だからこそ、次の試練に進まなければならない。
でも、まだ怖い。まだ、自分がその力に飲み込まれるんじゃないかという不安が消えない。
リリスの冷徹な目は、それでも俺を前へ進ませる。試練を繰り返し、力を使いこなせるようになるまで、俺は進み続けなければならない。
力を使いこなすことが、俺に何をもたらすのか。それを知るために、これからの試練に立ち向かわなければ。