Panic 6. ポワンたちの試練
「ふむふむ!つまり、ポワン君を住み込みのメイドとして雇いたいと...」
ここはお父様の執務室。
座り心地の良さそうな椅子に座っているのは、40過ぎくらいの男性。
身長はやや高めで痩身。ダークグレーのスーツをきっちりと着こなしている。
マコリンと同じ黒髪で、前髪をアップに綺麗にセットしており、一見、真面目な印象を受けた。
部屋にいるのは、お父様のほか、マコリンとポワンだけ。
ポワンの仲間たちは、とりあえず、屋外で待機してもらっていた。
「それとポワンの仲間も!」
ポワンが二人の会話に割り込む。
「ダメ!帰してらっしゃい!!」
マコリンが、拾った子猫を連れてきた子供に対するような態度で、強く叱るが、
「いいじゃないか!なかなか役に立ちそうだし!」
「そうでしょ!みんな、すごい特技を持ってるんだよ!」
お父様の言葉に、笑顔になるポワン。
二人は馬が合うようだ。
「お父様!あんなのがいたら、使用人が怖がってしまいます!」
マコリンが忠告するが、
「そうかい?さっき、執事に聞いたら、『指示に従ってくれるのなら、有能な人材なので、ぜひ欲しい』と言っていたが...」
「だから、人材じゃないんだってば!!」
気にする様子のないお父様に、聞いていないと知りつつも、ツッコむマコリン。
「とにかく、パパは異論がないよ!」
「やった~~~~!!」
お父様のお許しに、大喜びのポワン。
「で、でも、ロボットやドラゴンまで...」
「ロボットじゃなくて、『ゴレムン』!ドラゴンじゃなくて、『コドラン』!」
反論するマコリンだったが、仲間を種族名で言われ、お冠のポワン。
それを聞いたお父様も、
「そうだよ、マコリン!出自で差別してはいけないよ!」
そう言って、マコリンをたしなめる。
「いや、もはや『出自』というレベルでは...」
マコリンは呆れているが、
「それに彼らこそ、便利そうじゃないか!...コドラン君がいれば移動が楽になるし、ゴレムン君がいれば、警備や力仕事など、百人力だ!!」
お父様は彼らの利用価値に感心している。すると、
「そうだよ!マコリンも『車』?じゃなくて、コドランで学校に行けばいいよ!」
ポワンは仲間を褒められてうれしいのか、笑顔でマコリンに提案してきた。
「学校にあんなので行ったら大騒ぎよ!!それにゴレムンだって、家に来た人がビックリするわ!」
マコリンは大声で反論するが、
「そうかい?パパはみんなに自慢して回りたいけどねぇ...」
「お父様、分かってる~~~~~!!」
お父様とポワンはそう言って、微笑み合っている。
二人とも、マコリンの話の意図を理解していないようだった。
「もう!」
一人、輪に入れず、膨れているマコリンだったが、
(そうだ!ポワンはメイドだからお父様のことを『旦那様』って呼ばせなきゃ!)
ふと、そう思い、口にする。
「あっ!ポワンはお父様のことを...」
すると、
「あっ!ポワン君は私を『お父様』と呼んでくれていいよ!マコリンもそれで問題ないだろう?」
お父様はそんなことを言ってきた。
「そ、そ、それって...」
(私と...ポワンが...)
マコリンが真っ赤になっていると、
「よし!決まりだ!それでは今後ともよろしく!」
マコリンの心の中を知ってか知らずか、お父様が話をまとめようとしたところで、
「ちょっと待ってください!まだ考えなければならない問題が...」
マコリンが口をはさむ。
(異世界の住人が大手を振って住んでいるお屋敷なんて...)
マコリンがそう思っていると、
「おっと、確かにそうだ!よく話してくれたね!」
お父様がマコリンを見て、納得といった顔をする。
「お父様...」(分かって...)
マコリンが頬を緩めていると、
「実は、ポワン君たちに解決してもらいたい問題がある!!」
お父様が真面目な顔で言った。
「そうそう!ポワンたちは普通じゃないんだから!」
マコリンも同調していると、
「なに?」
ポワンは真剣な顔でお父様を見返す。すると、
「最近、家の敷地内で不審な人物が目撃されていてね...」
「そうそう!目立たないように...って不審な人物?!」
得意げに相槌を打っていたマコリンだったが、お父様の話の内容に思わず、声を上げてしまう。
「ん?マコリンがさっきから言っていたのは、この話ではなかったのかい?」
お父様が驚いた様子で尋ねてくるが、
「そ、それは...」
今更、知らないとは言えないマコリン。
「そうか...マコリンには話していなかったから、なぜ、知っているのかと思っていたのだが...」
「・・・」
お父様の言葉を、黙って聞いているマコリン。
それをどう受け取ったのか、お父様は詳しく話しだす。
「実は、数日前からなんだが、警備中の者から、『夜中に怪しい人影を見た』という報告が上がっていてね!」
その顔は深刻そうで、眉間にシワを寄せている。
「警備の者は捕らえられないのですか?場合によっては警察を!」
それを聞いたマコリンも、事の重大さに驚いていると、
「それが捕まえようとすると、怪しげな術で姿を消してしまうんだ!...かといって、世間体を考えると大事にはしたくない...」
お父様は悩ましげに答える。
「世間体を考えるなら、他に注意すべきことが...」
マコリンは窓の外に見える、ゴレムンの巨大な姿を見ながら言うが、
「今のところ、被害報告はないが、早急に解決したい!ポワン君!なんとかできないか?」
お父様はマコリンの忠告を受け流し、ポワンに要請をした。
「任せて!!」
ポワンが自信ありげに胸を叩く。
「なんとかできるの?」
マコリンは不安そうにポワンを見ているが、
「ポワンの仲間のすごいところ、見せてあげる!!解決したら一緒にいてもいいよね?」
ポワンはにっこり笑うと、マコリンにそんなお願いをしてきた。
「え、ええ...できたらね!」
(家の優秀な警備員でさえ、捕まえられないんだもの!ポワンたちにできるはずないわ!)
マコリンはこっそりほくそ笑む。
(これでポワンもあきらめてくれるわよね!)
マコリンがそう思っている間に、
「よし!頼んだよ!」
お父様の一声で、今後の方針が決まったのだった。