Panic 3. 元の世界に帰るには
「で、元の世界に帰るにはどうしたらいいの?」
「ポワン、知らない!」
「ふふふ!」
マコリンとポワンはにっこりと笑い合う。その数秒後、
<ゴツン!!>
「痛~~~~~い!!」
また、頭を押さえてしまうポワン。
「今すぐ、私を帰しなさい!!」
頭の両側を拳でぐりぐりしているマコリン。
その額には青筋が浮かんでいた。
「痛い!痛い!痛~~~い!!」
ポワンは目から涙を流していたが、なんとか返事をする。
「だって、ホントに知らないんだも~~~~~ん!!」
その答えに、
(ウソね!...でも、どうやってその気になってもらおうかしら...)
マコリンは考える。
うわべを見抜く力のあるマコリンにとっては、自由気ままに生きてきたポワンの言葉の真偽など、火を見るより明らかだった。
しかし、だからといって、ポワンがその気にならなければ、元の世界に戻してもらうことはできない。
マコリンがじっとポワンを見つめていると、ポワンは気まずそうに目を逸らしたが、
「マコリンは...ポワンと一緒じゃイヤなんだ...」
悲しそうな顔でつぶやいた。
「ポワン...」
マコリンが少し、罪悪感を感じていると、
「ポワンね!お母さんが死んでからずっと一人なの!...コビトンとかは話してくれるけど、『同じ年頃の女の子の友達が欲しいな~~~』って、ずっと思ってたんだ!」
ポワンが事情を説明しだした。
「・・・」
マコリンが黙って話を聞いていると、
「だから、毎日、一生懸命、召喚したの!『人間の女の子よ、来い~~~』って...」
ポワンの説明は続く。
「だから本当にうれしかったんだよ!...それもこんなに綺麗な子が来てくれて、たくさん、おしゃべりしてくれて...」
ポワンはマコリンの顔を一目見ると、恥ずかしそうに言った。その言葉に、
「ポワン...」
(なかなか見る目があるわね!まあ、私を見て綺麗だと思わない人間がいたら、そっちのほうがビックリだけど!...けど、いい子じゃない!)
そう思ったマコリンは、ここでの生活を想像してみる。
(食材には苦労してなさそうね!)
家庭菜園と、『ドラゴンが動物や魚を捕まえてくる』という、ポワンの言葉を思い出す。
(コックと、裁縫要員はいるし...)
オークックンとオリヅルンが頭に浮かぶ。
(後は洗濯と...お風呂ね!)
少し頬を染めたマコリンだったが、ポワンに聞いてみる。
「...一つ、聞くけど、私は何もしなくていいのよね?」
すると、ポワンの顔が輝く。
「うん!全部、召喚した仲間がやってくれるから、ポワンたちは遊んでるだけでいいよ!」
「ちなみに洗濯は?」
マコリンの問いに、
「ポワンは『クリーン』の魔法を使えるから、服はいつも清潔だよ!」
ポワンが答える。
「それと...お風呂はどうしてるのかしら?」
マコリンが尋ねると、
「お風呂?」
ポワンは『風呂』を知らないようだった。
「ポワンだって体は洗うでしょ?」
少し顔を赤くしながら聞いたマコリンに、
「水浴びのこと?近くに泉があるよ!」
ポワンは言うが、
「あったかいお湯には浸かれないのかしら?」
マコリンはそう問いかける。
(やっぱり、日本人は浴槽に浸からなきゃね!)
すると、
「あっちの山に温泉があるけど...」
「温泉?!」
ポワンの予想だにしない言葉に、マコリンが食いつく。
「ど、ど、どうしたの?」
マコリンの鬼気迫る様子に、ポワンがひるんでいると、
「どのくらい離れてるの?お湯の温度は?泉質は?」
マコリンが次々に質問してくる。
どうやら温泉が大好きなようだ。
「結構、遠いけど、コドランに乗ればすぐだよ!...お湯は普通にあったかいかな...泉質って何?」
ポワンが圧倒されながらも、答えていると、
「行ってみることはできる?」
マコリンがそんなことを聞いてきた。
「もちろん!今すぐでもいいよ!」
ポワンが笑顔でそう言うと、
「そ、そう...じゃあ...」
その気になったマコリン。しかし、
(ちょっと待って!)
すぐに大事な用事に気が付く。
スマホを取り出すと、ログインする。
(やっぱり...)
電波はつながらなかった。
「なにそれ?面白~~~~い!!」
ポワンが興味深げに覗き込んでいるが、マコリンはとあるアプリを起動した。
(つながらないか...)
そこには『接続に失敗しました』とのメッセージが。
「『接続に失敗しました』だって!」
ポワンが楽しそうに話してくる。こんな動作でも興味を引かれるようだ。
(明日から楽しみにしていたイベントが始まるのよね!...ガチャ用に石も貯めといたのに...)
金持ちにしてはケチ臭いと思うかもしれないが、最近のゲームは年齢による課金制限がある。
年齢をごまかせば良いのだが、良家の御令嬢であるマコリンは、そんな倫理に反することはできなかった。
(やっぱり、帰らなきゃ!!)
そう決意したマコリンは、ポワンに優しく語りかけた。
「そうねぇ...ポワンの『話し相手が欲しい』って気持ちは分かるわ!」
「じゃ、じゃあ!」
ポワンは期待するが、
「でもポワンはここにいる仲間の誰かがいなくなったらイヤでしょ?」
マコリンがそう問いかけると、ポワンは即答する。
「絶対にイヤ!みんな大事なポワンの仲間だもん!」
するとマコリンは、ここぞとばかりに切り出した。
「向こうの世界でも、私がいなくなって、悲しんでる人がたくさんいるのよ...お父様にお母様、それに大切な友達...」
マコリンは目を伏せ、悲しそうな顔をする。
「・・・」
ポワンは無言で黙り込んでいる。
「私もできることなら、ここに残ってポワンとおしゃべりしていたいわ!でも...私を待っているみんなのことを考えると...」
一つ、ため息をついたマコリンは、一筋の涙を流す。
「お願い!...分かって...くれる?」
そして上目遣いをすると、甘えた声で訴えた。すると、
「...分かった...」
ポワンが不本意ながらも、同意してくれる。
(よっしゃ~~~!!)
心の中でガッツポーズを決めたマコリンは、
「じゃあ、元の世界へ...」
ほころんでしまう顔を抑えきれずにお願いしようとしたが、ポワンに遮られた。
「だけど、条件があるの!」
「条件?」
マコリンが首を傾げていると、
「ポワンも一緒に連れてってほしいの!!...ポワン、マコリンと一緒にいたい!!」
「ええぇぇぇ~~~~~!!」
ポワンの要求に、マコリンは大声を上げてしまうのだった。