Panic 1. 召喚されたお嬢様
「お嬢様、行ってらっしゃいませ!」
黒服の男がリムジンのドアを開ける。
そのリムジンから、美しい足が車の外に出される。その途端、
<フワッ!>
辺りの空気が和らぎ、心なしか良い香りが漂ってくる気がした。
リムジンから現れたのは、目も覚めるような美少女。
一分の隙もない完璧な造形の顔。
つやつやで、なんのくせもない黒髪が、腰まで伸びている。
高身長の彼女は、プロポーションも抜群。
大きな胸。くびれたウエスト。細く長い足。
制服の上からでもハッキリと感じられた。
「ごきげんよう。真子様!」
「今日もお美しいですわ!」
周りの生徒たちから声がかけられる。
ここは超お嬢様高として知られる、私立プリマドンナ女学院。
広大な敷地に、白亜の美しい校舎が建っている。
制服も可愛らしい。
ダークブラウンのジャケットに、真っ白なブラウス。赤のタイ。
赤を基調としたチェックのミニスカート。
真子と呼ばれた少女のスカートの丈はすごく短い。
お嬢様高で風紀に厳しいはずだが、多額の寄付をしている名家の生徒なので、見逃してくれているのだろう。
教員を含め、女性しかしないこともあってか、その美しい足を太ももまできれいにさらしていた。
「ごきげんよう!今日もいい天気ね!」
真子が高らかに声を上げる。
まるでこの学院のナンバーワンが自分であることを自覚しているような、自信に満ちた声だ。
すると、その場にいる生徒、教職員全てが頭を下げる。
そんな中、3人の美しい女生徒が近寄ってきて、声をかけた。
「ごきげんよう!真子さん。おカバン、お持ちしましょうか?」
「とてもいい香りがしますわ!香水もつけてらっしゃらないのに...羨ましい...」
「相変わらず、完璧なお姿ですわね!見とれてしまいますわ!」
3人は低姿勢だ。
いずれも、資産1兆円を超える実業家の子女ばかり。
学院カーストでも最上位だが、圧倒的ナンバーワンである真子の前では、この程度の価値しかない。
しかし、真子を『さん』付けで呼べる生徒は彼女たちだけだった。
他の生徒は『様』付け。更に、よほどのことがなければ、直接、口をきくこともできない。
「ほほほ!お上手ね!」
ご機嫌の真子。
カバンを持たせると、小型のポーチだけを持って、悠々と校舎に向けて歩きだす。
「お美しい...」
その姿を見て、つぶやく生徒がいた。
真子はその仕草も優雅で、周りの目を惹きつける魅力があった。
(ふふふ!お世辞なのはもちろん、分かってるわ!でも...言葉の端々に本音が透けて見える...)
真子は平然とした顔を繕いながらも、心の中で喜びの舞を踊っていた。
真子は長年、周りからおだてられて育ってきたため、うわべだけなのか、本音なのか、見抜く力が自然と備わっていた。
その能力が、皆が決して、お世辞だけで言っているのではないことを教えてくれる。
(さあ!今日もみんなの羨望の眼差しを独り占め!)
真子がほくそ笑んでいると、
<ブオン!>
突然、目の前に黒い渦が現れた。
「えっ?!」
驚く真子。そして、わけも分からぬ間に、
「キャ~~~~~~!!」
引き込まれるように、その中に消えていった。
「真子さん!」
「真子様~~~~!!」
その場の一同がパニックに陥る。しかし、
<ブン!>
黒い渦は突然、姿を消すと、その場には真子がいなくなった以外は、いつもと同じ光景が広がっていた...
☆彡彡彡☆彡彡彡☆彡彡彡
「大丈夫かな...」
女の子の心配そうな声が聞こえる。
(なに?...確か...私...)
真子が意識を取り戻す。
目を開けると、可愛らしい女の子が自分を覗き込んでいた。
自分は床に寝かされているようだった。
「やった~~~~~!!成功だ~~~~~!!」
その少女は真子が目を覚ましたのを見ると、喜んで飛び跳ねだした。
少女の背は真子より低いが、年齢的には同じくらいだろうか?
その身には革製の質素なドレスのみをまとっている。
ピョンピョン跳ねているが、スカートが短いので、時々、中が見える。
下着は...つけていないようだった。
(!!)
真子は真っ赤になる。
(他の女の子の...初めて見た...可愛い!...もっとハッキリ...)
真子が良く見える位置を探していると、少女が気づいたようだ。
「何してるの?」
「な、なんでもないわ!それより、落ち着いて!」
「は~~~~~い!」
真子が慌ててごまかすと、少女は呑気な声を出して、ベッドに腰掛けた。
床の上に身を起こすと、真子は少女を観察する。
とても可愛らしい、愛嬌のある顔をしている彼女は、ブロンドの髪を短めのボブにしている。
目の色はヒスイのような綺麗な緑色で、つい、引き込まれそうになる。
また、ドレスが体にピッタリなのでその体形がよく分かる。
真子に負けないくらいの完璧なスタイルだ。胸も真子と同じくらいある。
(な、なかなか可愛い子よね...か、体も...)
真子は胸を凝視してしまう。
「??」
不思議そうに首を傾げている少女に、
<プルプル>
真子は首を横に振って、邪念を振りほどくと、今度は周りの様子を確認する。
そこは木を組み上げてできた、小さく粗末な家だった。
床も板がむき出しになっている。
木製のテーブルが一つと、同じく木製の椅子が二脚。
それと木でできたベッドに、質素な布団が敷かれていた。
(随分と前近代的な...無人島で一人暮らしとか?)
真子がそんなことを考えていると、少女が話しかけてきた。
「どうしたの?そんなキョロキョロして...何か変?」
すると真子は、
「ここはどこなの?」
まず場所を聞く。
自分は確か、学校にいたはずだ。
それなのに、今は見たこともない場所にいる。
その謎を解かないといけない。
「ここはポワンの家だよ!あっ!あたしの名前はポワン!あなたは?」
その子はポワンというらしかった。そして真子の名前を聞いてくる。
「あなたの家って...それがどこにあるかを聞いてるのよ!!」
真子はその質問には答えず、頭にツノを出して、ポワンを問いつめる。しかし、
「ポワンの家はポワンの家だよ!それより名前は?」
ポワンはそんな真子の様子などお構いなく、笑顔でまた名前を聞いてきた。
「あのね~~~~!...でも...」
(笑うともっと可愛い!!そうね、名前くらいは教えてあげてもいいかもね!)
そんなことを思ってしまった真子は、自分の名前を答えることにする。
「私は真子!プリマドンナ女学院のナンバーワン美少女、星乃宮真子とは私のことよ!ホ~~~~~ホッホッホ!!」
その場に立ち上がり、仁王立ちで、頬に手の甲を当て、高笑いをする真子。それを見て、
「プリマドンナ女学院?良く分からないけどすごい!!...でも...」
ポワンは目を輝かせているが、何か気になることがあるようだ。口を濁す。
「なに?私のどこに不満があるの?」
真子がそんなポワンに食ってかかる。
「マコちゃんは綺麗だよ!でも...」
「何よ!」
ハッキリしないポワンに、真子が更に頬を膨らませていると、
「...名前に『ン』がない...」
「はっ?!」
ポワンの答えに、真子は頭の中が真っ白になった。