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扇を射れ

「突入5分前」

 無線から緊迫した声が響く。特殊部隊のスナイパーである俺は、高層ビルの屋上に身を潜めていた。

 市街戦用の迷彩服を身に纏い、スナイパーライフルを構え、スコープ越しに見えるのは、人質を取ってオフィスビルに立てこもる集団。

 リーダー格らしき男は、不気味な仮面で顔を隠し、窓際で葉巻をくゆらせている。その姿は、まるで地獄からの使者だった。

 こいつは只者ではない。突入すれば、少なからず犠牲者が出てしまうかもしれない。

「隊長、一つやらせてくれ」

 そう思った俺は無線で呟く。

「何をするつもりだ?」

 犠牲者を出さないことが不可能に近いだろう作戦前、隊長の声には、わずかな苛立ちが混じっていた。

「奴らの戦意を喪失させる。一発で」

 俺は、数秒かけてゆっくりと息を吸い込み、心拍数を落ち着かせる。まるで瞑想する坊さんのようだった。

 スコープの中心に、男の仮面が捉えられた。それは、獲物を狙う鷹の目。

 照準がずれないように静かに息を止め、骨格を意識して銃を構える。

 そして、俺は引き金を引く。

 次の瞬間、男の仮面は粉々に砕け散り、歪んだ素顔が露わになる。

 その見事で正確無比な射撃に、立てこもり犯たちは凍りつき、銃を握る手は震え始めた。

「全員武器を捨てて投降しろ! 君たちはすでに照準の中だ!」

 すべてを察した隊長の声が、拡声器を通してビル内に響き渡る。それは、まるで最後通告のようだった。 

 数分後、犯人たちは武器を床に投げ出し、一人、また一人と両手を上げて投降していく。中には、恐怖のあまり泣き崩れる者もいた。

 その結果、誰一人命を落とすことなく、作戦は成功した。

 オフィスビルの人質たちは無事に解放され、安堵の表情で警察官に抱きしめられていた。

 俺は、静かにライフルを片付け、屋上から降りる。

 夕日が街を赤く染めていく。それは、勝利の色だった。



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