表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<特別話>   作者: 天壱
コミカライズ記念

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/144

覬み、


「では、これより試験会場にご案内します」


時間になって暫く、衛兵により号令が響く。

衛兵に連れられ歩くのは連行されているような感覚にもなったが、その歩みはゆっくりだった。未来の宰相、そして現在でも貴族や上層部の補佐として関わる者が多い中、衛兵は一律に私達全員へ敬意を尽くして振舞い続けている。私も列に遅れぬように後者辺りを維持し続けていた。国の中枢へ関わる宰相の選抜。たった一度の試験で決められるとは最初から思ってもいない。第一関門というところだろう。

前方を歩く候補者達も、全員が緊張状態で一言を語らず歩き続けていた。中には職務や立場上で知り合いや関係のある者同士もいた筈だが、誰もが無駄口の一言も叩かない。やはり〝既に始まっている〟と考えるのは私だけではないらしい。

誰もが一度は小さく振り返ったように、私もまた目だけで描く確認する。……フードの男が、最後尾を歩いている。顔どころか髪の毛一本すら見せようとせず俯きがちに〝候補者〟として私達の後を付いてくる。十八の年齢の私よりも高身長の男からの圧は、誰にとっても重く不気味だった。


最初の試験は、知能試験だった。

一人一人区切られた席に座らされ、数枚の試験用紙に書かれた問いに時間内に回答するというわかりやすいものだ。

試験内容には明確に答えの存在するものから己の考え判断を解くもの、実際にあった国内での組織犯罪や内乱の対応処理を自分ならばどのように解決するか、己が宰相となった上でのどのように国へ還元し務め指針を持つかという論文記載も課せられていた。この程度は私以外にも全回答できる者が大半だろう。

内容としてはそれなりに難解だっただろうが、答えがあるものは全て以前の屋敷で読み学んだ内容だ。給料も全て近日の本に費やし続けた甲斐があった。

事件の対応処理についても、宰相としての展望も所詮求められるのは読む側にとっての〝理想回答〟と知れば難しくもない。若く優秀な者を求めている宰相の、希望と現実を見る若者らしい最適解など軽く考えるだけでも百は思いつく。時間内に手さえ動けば全く問題ない。


制限時間となり試験用紙とペンを回収されれば、そこから成績をつけられ落とされたのは予想通りたったの一割だった。

その後二次試験へと移れば、普段は特別な議会でのみ使われるというその部屋は候補者一人ずつ呼ばれたにも関わらず筆記試験会場よりも遥かに広々とした空間だった。

半周近くをぐるりと囲うように上等な椅子が並ぶ中、その最前列へ横並びに面接官らしい男達が複数並んでいた。あくまで城内の使用人である私には彼らが上層部かどうかはわからない。少なくとも私を推薦した彼はいない。……だが、振舞うこととは何ら変わらない。

広々としたそこで、私一人がぽつんと立たされ正面から値踏みをされる。最初に尋ねられたのは名前と、年齢……ではなく〝特殊能力〟の有無だった。


「ジルベール・バトラーと申します。特殊能力はこの通り年齢操作」


そう語りながら、優雅に見せた笑みで己が特殊能力を使う。

年齢の振れ幅を主張するように最初は彼らと同じ程度の年配から老人。そのまま次は子どもの姿へと姿を変え、最後にこれが元の姿と強調するように十八の姿でまた止める。人前で特殊能力を使うのはこれが初めてだった。前の屋敷の主人も、私が特殊能力者だということは知る今の主人もそしてアリングハム伯爵さえも私の能力が何かは知らない。下手に従者のまま手元に置きたがられても困る。特に老人から若者へと若返る姿は彼らにも印象付いたことだろう。

おおおおぉぉ……と、揃い感嘆の声が貰われる中で私は彼らへ落ち着き払う。胸へ手を当て、あくまで謙虚に深々礼をすれば誰もが書類ではなく私へと視線を置いた。

なんと年齢操作とは、確か文献では、まさかもう一人現れるなどと目を輝かせる彼らには私は有力候補というよりも金の卵を産む鶏として映っているに近いと思う。

我が国で上層部となるのに重視されるのは家柄身分ではなく〝特殊能力〟……神が、彼女を救うために与えてくれた唯一無二最大の切り札だ。


フリージア王国の民である何よりの証であり、神に選ばれた証とも呼べる。

希少な特殊能力、優秀な特殊能力に恵まれた者はそれほどの大事を為せと神に託されたと同義だと考える者は少なくない。この一人ずつの面談でありながら閉め切られた空間での面接も、他の候補者の出方を伺えないようにする為よりもこちらの配慮が主要だろう。その希少さ故に、己が特殊能力を必要最低限まで隠す上層部も少なくないらしい。

上層部となるのに特殊能力はあくまで〝重視〟と言うが、しかし実際は現上層部殆ど全員が特殊能力を持っているという。それを扱い、王族に与えられた職務へ有効活用する上層部も少なくない。特殊能力を含めて本人の実力だ。

特に今回の宰相選抜では、優れただけでなく希少な特殊能力は必須だろう。……宰相が直接補佐せねばならぬのは、特殊能力者すら持たない国外の人間なのだから。


「悠久の時を与えられしこの身を尊き国へ捧げるべく、こうして参じさせて頂きました」

言い切れば、「素晴らしい!」と一人が声高に手を叩いた。

目をらんらんと輝かせ、私の経歴を尋ね出す。他の候補者達と違い、私が上層部でもその補佐官や従者でもない為に余計興味を引いたのだろう。「アリングハム伯爵の推薦か」と言われた時は少し心臓が脈打ったが、それだけだ。城では従者を?、勿体ないと褒めちぎられながら次々と尋ねられるのは特殊能力の詳細が大半だった。

いつ目覚めたのか、どこまでできるのか、他者への年齢操作も可能なのか、寿命は、と。そう語られるままに今は都合の良く聞こえる言葉と耳触りの良い言葉のみで答える。馬鹿正直にそのまま事実を言う必要などどこにもない。

「試したことはありませんが」「調査したところによれば」「しかし可能性はあるかと」と。そう続ければ、誰もが互いに顔を見合わせ顔を輝かせた。たとえ後からできずと断言しても、宰相にさえなってしまえばこちらのものだ。「私めを必要として下されば、この能力を微力ながら王族の方々以外に振るまうことも惜しみません」と夢を見せてみる。当然、彼らより上の立場である宰相にさえなればそんな口約束守る必要もない。

途中、私の年齢について「本当は老人ではないのか」と勘繰る者もいたが、その程度は軽く受け流せた。老いていようと子どもであろうと、私に年齢などあってないようなものだと印象付ける。

そうすれば他の面接官からも「まぁ良いではありませんか」「彼がニコラス宰相の求めるように若い身で働けることは変わらない」と笑みと共に語られた。……しかし。


「ジルベール、貴殿は確かに素晴らしい。現段階でどの候補者達をも遥かに凌駕している。しかし、これほどの頭脳を持つ貴殿は城で働くまで一体何を?」

あくまで年齢は十八歳。一年前に成人してから城の使用人見習いと語った後にも関わらず面接官の一人から問われたそれは確実に探りが込められていた。やはり宰相を選抜する面接官を担うだけあり、特殊能力だけで誰にも手を広げられるわけではない。

自然な笑みを意識したまま、私は思考を回す。城でならばともかく、貴族や屋敷の使用人として下働きであれば未成人が働くことも決して珍しくない。しかしこのような恵まれた特殊能力を持ちながら何故下働きで甘んじていたのか、そして隠していたのであれば何故今更になってそれを明かしてまで宰相となろうと考えたのかどちらにせよ問いは深くなる。そして本当の経歴は、…………言えるわけもない。


「地方の下級貴族である父からの勧めでとある貴族の元、従者を見習いからを務めさせて頂いておりました。若輩ながら補佐の任もある程度は慣れております。以前の主人にもこの特殊能力は明かしておりませんでした。……己はもっと大任を使わされるべきと、自負がありましたので」

汚らしく貧しい下級層の生まれに、卑しく盗みと懇願の日々に浸っていたことを明かすぐらいなら潔白色の嘘で全てを塗り隠そう。

私は彼女の為に全てを捨てた。そして彼女を取り戻すべく生まれ変わったのだから。

偽りなど軽いもの。下級貴族などその家名全て知る者などいるわけがない。どうせ私の生きた証を知る者などこの世のどこにもいない。下級層の出生は恥でこそあるが、こうして偽るには都合がいい。

家族も友人も何も持ってはいない。私にあるのはマリアだけだ。


「護身の術にもそれなりの自信はあります。己が身も、そしてそれ以上に尊き方々も必ずやこの手で御守り致します」

必要であればこの場でお披露目致しましょうと、流れるように話を変える。

護身の技術もあくまで最低限必要とされる項目の一つだが、己で身を守れることもまた強みの一つ。これ以上の探りを入れられる前にと提案してみせれば、面白いとまた別の一人が手を振った。室内の護衛である衛兵を呼び、早速私の相手をさせることにする。

模擬剣を用意させようかと問われ、断った。私には素手の方が都合も良い。……本ばかりに金をつぎ込んだ私には、剣など屋敷で借りることしかできなかった。

しかし必須の心得とはいえ、武器もなく城の衛兵と渡り合える者などそれこそ候補者の中でも多くはない筈。護身術には長けていても、あくまで全員が椅子に座って判断する思考型の人間達だ。

前に出された衛兵へ礼をし、合図と共に構えられた槍を払い落とし無力化する。たったそれだけで、もう誰も私の出生を気に掛ける者などいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ