〈コミカライズ13話更新・感謝話〉店主は諦める。
「悪いが店仕舞いだ。出直してくれ」
夜通し飲み明かした客共も朝日を拝んで出払った。
朝夜が逆の生活なんざとっくに慣れたが、地下に埋まっている所為か扉から漏れる地上の光だけでも目に染みた。
客が散らかし溢し割った酒とグラスの破片を纏めて隅へとモップで穿きながら、突然外から開かれた扉の方向へ背中を向ける。朝っぱらから飲む気かと顔を見る前から呆れて息を吐いた。表向きは酒場を営んじゃいるが、こんな裏通りに入り浸る輩じゃ飲んだくれるのに朝も昼も夜もねぇ。
前の仕事より稼ぎは悪いが、酒場としては客は安定して多い。裏の世界じゃ特にこういう時間外の客も珍しくはなかった。だが、もうこっちが片付けに入っちまっている。前垂れも外して腰に引っ掛け、咥えてた葉巻も潰して捨てた。今夜までもう誰の相手もしたくねぇ。
いつも通り適当に粗方だけ片付けて、昼まで寝てから纏めて夜の準備だ。仕入れもそれに時間を合わせて発注してる。今扉を開いたのも業者ですらねぇことは、背中を向けたままでも明らかだった。
朝か夜もわからねぇほどの酔っ払いか、酒に飢えた飲んだくれか。そう適当に見当をつけている間も、背後の気配は佇んだままだった。
「……ベイル・ラザフォード。違法賭場の経営者が、今は地下で隠れ酒場ですか」
その名を呼ばれた瞬間、考えるより先に肩が強張った。
俺の名前を全て語れる奴なんざ限られている。しかも明らかに俺の過去を知って語る男に、ここに立ち寄ったのが酒欲しさじゃねぇことはすぐにわかった。
モップを放り出し振り返れば頭までフードを被った優男が、じとりと古井戸のような目を俺に向けていた。服の下から数本垂れる薄水色の髪と同色にも見える目が酷く濁っている。
どこかツラを見たような気まですれば、以前の店の上客のどれかかと記憶を辿る。だが、目以外は妙に整ったそのツラには妙に違和感もあった。
誰だ、と顰めた顔のまま単刀直入に聞いてやれば、男は泥の目を向けたまま更にその口を動かした。
「お忘れですか、まぁ無理もないでしょう。裁判でお会いしたのは二年も前ですから」
裁判、という言葉に胸糞悪い記憶が一気に引き戻された。
裁判で俺に判決を叩き落とした薄水色の髪と切れ長な目をした宰相の冷淡な顔が、たった今真新しく脳に焼き付いた。
愕然と口を開けたまま言葉も出なくなる中、瞬きすら視界がチカついたままできなくなる。上客なんざとんでもねぇ、コイツは裁判で俺の罪状を読み上げた野郎だ。
資金も、店も、客の情報も取引も全部をあっという間に探り出して裁判に叩きつけられた。一つの誤魔化しもきかねぇまま、気が付けば裏の繋がりから隠し金まで洗いざらい曝された。あの時裁判に関わっていやがったのが噂の宰相じゃなけりゃあ、あそこまで罰も毟り取られることもなかった。
毎晩のように稼いでいた賭場経営。
黙っていても勝手にある程度の金が流れ込んできていた。カモが転がり込んでこなけりゃあ大した収入じゃなかったがそれでも今より楽だった。裏の連中にも結構な規模で繋がれて、お陰で毟り取られた後も噂と情報で客にも困らねぇ。酒と情報さえ回せりゃあ後は昔の繋がりで仕事の紹介も開いてまぁまぁ小金稼いで生きてけた。
二度と危ねぇ橋も渡りたくねぇ今はこの生活に満足しているが、一度築き上げた財産を崩しやがったのは間違いなく目の前の宰相だ。
当時、俺みたいな小悪党の裁判を取り仕切りやがったのも、コイツが摘発の首謀者だったからだと裁判で知った。
「……宰相様が何の用だ?ここは裁判所じゃねぇぞ」
声を低めながら睨み、気が付けば勝手に口が葉巻を欲しがった。
目の前に現れたお偉いさんに手が湿る。まさか、今度はこの酒場を摘発しようって腹か。わざわざ宰相が足を運ぶほどのことはもうしてねぇぞ?俺からいくら毟り取れば気が済みやがる。
冷たい汗を感じながら懐から葉巻を咥えれば、火をつけるより前に宰相がズカズカと店の奥まで上がり込んできた。
俺から一番近いテーブルの前に立ち止まると、奴も奴で懐から何かを探り出す。宰相ともなりゃあ銃でも持ってきたのかと思わず後ずさるが、そこに出されたのは小袋一つだけだった。じゃらり、と布越しに聞こえる聞きなれた音に中身が何かはすぐに察しが付いた。
「情報を売って頂きたい。こちらの求める情報を、あるだけ全て」
貴方ならばいくらでも手に入るでしょう、と。そう続ける宰相は、やはり俺が酒〝以外〟でも商品を取り扱っていることが推測できているようだった。
はぁ?と、次には肩透かしにでかい声が出た。俺の商売を完全に掴んでいるわけでもなけりゃあ、摘発でもなく買いたいとほざきやがる。
二年前の摘発から考えて罠とも思えねぇ。宰相が直々に餌になるほどのヤバイ橋を渡っているつもりもねぇ。人身売買を含めて取り扱い自体が違法な情報や紹介も扱っちゃいるが、こんな遠回しな探りの入れ方なんざ使われる覚えはねぇ。この宰相が本気になれば、権力で俺の店なんざ一瞬で潰せる。実際、二年前の賭場はたったの一晩だった。
ふざけんな、テメェに売るもんなんざねぇ、さっさとケツ捲って帰れと唾が飛ぶほど怒鳴り散らしてやったが、それでも宰相はその場を動かない。
無防備に晒された小袋だけでもぶんどってやろうかとも考えたが、余計な金には手を出さねぇ方が良いと早々に見切りをつける。
出ていけ、殺されてぇのかと宰相を睨み下ろし、足元の空き瓶を蹴飛ばした。割れた硝子のけたたましい音が響く中、いくら恫喝しても宰相は表情ひとつ動かさねぇ。ゴミみてぇな目で俺に「報酬なら払います」「この倍でも構いません」とばかり言いやがる。一体どんなやべぇ情報を欲しがっているのかは知らねぇが、よりにもよってこの男に売ってやるもんなんざクソもねぇ。
葉巻を咥えたまま、火を探すよりも先に懐から別のものを探る。いくら宰相だからってこんな地下に一人でノコノコ来た時点で身分も何も意味はねぇ。
「特殊能力者の情報を全て。そして今後も一般人から下級層裏稼業人身売買特殊能力と名のつく全ての情報を探って欲しいのです。相場の三倍……いえ、四倍払」
「帰れっつってんのがわかんねぇのか?」
懐から振り構え、宰相の喉元にナイフを突き付ける。
金額なんざどうでも良い、宰相なんざ面倒で不快な危ねぇ奴と関わりたくもねぇし、金よりもテメェの身の方が可愛いに決まってる。
偽物じゃねぇ証拠に刃先を軽く喉元へ押し付けてやれば、簡単に細く血が伝った。こんな優男の痩せた喉じゃ、ここで軽く振っただけでも簡単に殺せる。そう思いながらフードの下を眺めるが、宰相は顔色一つ変えなかった。
もともと昔より薄暗い色をしているとは思ったが、表情すら一つも変えやがらねぇ。唯一動いた薄水色の目だけが首に突き付けたナイフへと向けられ
「……失礼」
ドスッ。
なんの気もねぇ声と同時に、鈍い衝撃が腹に走った。
ぐはっと、息が丸ごと吐き出た瞬間に腹を突かれたんだとやっと頭が理解する。細い身体からは考えられねぇ鋭い一撃だが、腹に刺されたのはナイフでもなんでもない奴の手だった。
拳じゃない鋭く構えた手の突きに内臓も突き破るんじゃねぇかと思う激痛に、ナイフも手から零れて膝を付く。酔っぱらった裏稼業連中相手に殴られるのも巻き添えも慣れた筈の身体が耐えきれなかったことが、自分でも信じられなかった。
衛兵か騎士が変装でもしてやがったかと、血走っただろう目で宰相を見上げたがそこには変わらず泥の目で俺を眺める優男だけだった。零れた葉巻も、落としたナイフもどうでも良くなるほどに突き破られたような痛みの腹を押さえ、必死に空気を探す。
ぱくぱく口を無駄に開いても上手く吸い上げられねぇ。ゲホッガハッと咳混じりに涎を垂れ流しながら呼吸一つに必死になる。粗方拭いた筈の床がまた汚れる。
一体何がどうなってやがる。これが噂の宰相の特殊能力か、と薄い呼吸でわずかに頭が回りかけた瞬間、今度は丸くなっていた背中を踏みつけられた。
ベキャ、と。身体に力が入り切っていねぇだけじゃ説明がつかねぇ力で潰される。この男に何故こんな力があるのか頭が回らなくなる。
背中に差したもう一本を出そうと回せば、目敏く背後手に右手を掴まれ、関節ごと捻り上げられ封じられる。肩ごと走る激痛に声を上げ、指が痙攣する間に二本目のナイフも回収された。息を求め前のめりになっていた額を巻いていた布ごと床に打ち付けられ、零れた髪が垂れた。頭頂から髪を鷲掴まれ、丁寧に今度は顔面から床を舐めるように叩きつけられる。ガン、ガン、ガン、ガン、ガンとまるで紙に判でも押すような無機物感で何度も何度も叩きつけられ、額が割れた。
「特殊能力者の情報を全て。そして今後も一般人から下級層裏稼業人身売買特殊能力と名のつく全ての情報を探って欲しいのです。相場の四倍払います。私の正体は隠し、秘密裏に集めて頂きたい」
単なる噂でも人身売買の商品リストでも構わないと、さっきも言われたような言葉を無感情に並べ立てた。
布が吸いきれなかった分の血が目まで伝ってくるのを感じながら歯を食い縛る。顔を上げて睨んでやりたくてもこの場で顎を上げれば今度が歯が骨ごと砕かれる。訳が分からねぇ、なんで俺がこんなことになってやがる。コイツはただの宰相じゃなかったのか。
「私が欲しいのは貴方が集める情報のみ。この店にも貴方の商売にも今は興味ありません。しかし協力できないというならば、……今ある情報だけでも絞り取らせて頂きます」
淡々となんでもねぇようにつらつら語る宰相の言葉は殆ど頭には入らなかった。
ただ、最後だけ急激に低めた地の底のような声に身の毛がよだった。……瞬間。足に激痛が貫いた。
ぐあああああああああああ⁈と、痛みの正体を考えることもできず喉を裂く。あまりの痛みに転げまわろうとしたら、背中にずしりと重量を落とされ封じられた。城の役人が文字通り俺を敷きやがった。今だけはこんな地下に店を作っちまったことを後悔する。
泣いても叫んでも助けを呼べねぇのは宰相も俺も同じだった。宰相に閉じられた扉の向こうじゃ、地上までも声が届かねぇ。
覚えのある湿り気と全身まで駆け巡る痛みに、絞った目を無理やり開いて探す。さっきまで転がっていた最初のナイフが消えていた。やっぱり刺しやがったのかと、気付いたのは粗方叫び続けた後だった。
「お返しします。まぁ、深くはないので止血すれば死にません。店を回す為には必要な足でしょうが、情報を絞り出すには別段不要ですから。……頭さえ残ればそれで良い」
ぞわりと、全身に怖気が走る。
ナイフを持ち出したのはこっちだが、こんな報復をよりにもよって宰相なんざにされるとは想像もしなかった。〝頭さえ〟という言葉にこれから何をしようとしているのか嫌でも過る。叫ぶのも一瞬忘れるほど喉が干上がれば、ピンと刺されたナイフが小さく肉を抉った。指で弾いた程度の動きでも、ねじ込まれた足には激痛だった。唯一無事な両手で拳を握り、床に叩きつけて痛みに抗えば今度は上からするりと肩を撫でられた。
「肩から、……でも構いませんが。その前に一度くらい吐いて頂けませんか。それもできないというのならば、もはや貴方に用はありません」
淡々と語りながら、肩を撫でていた手がするすると気味悪く上がっていく。
首の付け根から蛇のように上がり、涎と血で汚れた顎を伝い頬を指が撫でる。女でもねぇのに細いその指の感触に身の毛がよだてば、いつの間にか叫ぶのも忘れていた。代わりに細い音が漏れ、宰相の指の感覚一つ一つが妙にはっきり研ぎ澄まされた。頬骨に、そして頭を撫でるようにして耳の上に同時に引っ掛けられた感触に全身が張り詰め息も止まる。
「後は手に少し力を入れて頭の向きを逆方向へ変えれば良いだけです。……試してみますか?」
コイツはイカれてる。
脅迫で終わらねぇ、宣言だと理解した。
わかった渡す、言う通りにする、情報もあるだけ全部くれてやると、思いつくまま命乞い代わりに捲し立てる。今少しでもこの男の機嫌が削げたら次の瞬間には俺の首が細い手に折られると確信する。
ぜぇはぁと唾のついた息と一緒に吐き出し訴えれば、布でも引くようにすんなりまとわりついた腕は抜かれた。代わりに再び肩を摩り上げたまま、俺に全体重を乗せた優男は「それで、情報は」と低い声で注文を落とした。
痛みで上手く働かねぇ頭を必死に絞り、思いつくだけ特殊能力者の情報に舌を回す。
激痛を紛わせるように早口になれば、何度かは舌を噛んだ。それでも構わず吐き続け、最後は根も葉もねぇ噂まで捲し立てた。足りないなら今後は優先的に探す、商品リストも渡してやるから勝手に特殊能力持ちを探してくれと、腹から息が消えるほどに叫びきればやっと背中の重量から解放された。
商品リストはと波のない声で聞かれ、もう摘発の罠かどうかも考え付かずカウンター向こうの隠し場所を伝える。
一番の値打ちものでもあるリスト置き場を、口だけじゃ説明できず床を這いつくばって取りに向かえば、突然また足に激痛が走った。
ぐあ⁈と今度は一声の叫びで切れたが、何の断りもなくナイフを抜かれた足はその後も全身脈打ちまわった。這う手が止まり、額の布を上から抜き取られる。まだ何か絞る気かと首だけ向けて振り返れば、まさかの刺した本人が俺の足を止血していた。布で縛り上げられ、取り合えず出血死する心配がなくなれば今度は腕を回され肩を貸される。
どこでしょうか、とテメェよりでかい筈の俺の身体を支えながらカウンターの向こうへ歩く宰相に今更疑問も浮かばない。随分と丁寧に降ろされ、自由のきく手で隠し場所から商品リストを取り出し根こそぎ渡す。過去のもいれて結構な束だったが、その場で全て目を通した宰相は「もう結構です」と俺にものの数分で突き返してきた。
「期待以上の情報量です。やはりこちらで正解でした。また来月この時間にお邪魔しますので引き続き情報の仕入れをお願いします」
もうナイフどころか、歯向かう言葉もでねぇ。馬鹿みたいに何度も頷き、肯定の言葉だけをいくつも短く野郎に返す。こうなればテメェの意地よりも命だ。この場で首を折られるくらいなら、宰相に諂ってやる方が良い。
瞬きを最後にしたのがいつかもわからないまま乾いた眼球で見返す。一度俺を置いた宰相はさっきの小袋を手に戻って来た。
ガチャン、とさっきと同じ音が俺の眼前に落とされる。宰相の手元から落とされた反動で、小袋の中から金貨が数枚みえた。
「約束通りの報酬です。慰謝料も追加しておきましょう」
怪我の治療費と数日の安静費用です。と、当然のように言いながら宰相は懐からさらにもう一つ小袋を取り出して俺の眼前に並べた。
床に座り、棚に背中を預けたまま息もせいぜいのまま宰相の顔の代わりにそれを睨む。どう安く見積もっても、情報料の相場十倍はある金がそこにあった。
「それでは」と、軽い一言で宰相は身なりを整えると踵を返して入って来た方向へ消えていった。ガチャン、と扉が閉まる音に心の底から安堵し息を深く吐く。
ある程度は裏稼業で生きている分、手荒な真似をされているのも慣れている。刺されるのも叩き伏せられるのもそれ自体は初めてじゃない。裁判後の刑罰だって大したもんだ。
だがここまで嬲り者にしておいて、何事もなく話しやがったあの宰相はやはりイカれた奴だと確信する。こっち側に近付いている。
このまま情報を吐いて殺されてもおかしくないと思ったが、代金に今後の繋がりまでできちまった。人の財産奪った上にここまでやってくれた奴になんざとも思うが、目の前の払いは悪くない。何より、あの男を敵に回すほうがよっぽど寿命を短くするだけだった。
気が抜けて殆ど力の入らない手で、指先を伸ばす。小袋の一つの口を引っ掻ければ、チャリンと金貨がまた零れて落ちた。
金を払ってくれる分は上客だと。……薄れていく意識の中でテメェを慰めるようにそう思った。
……
「折角ここまで俺達を呼び出したんだ。その小袋は置いていけ」
その瞬間、俺は撤退を決める。
潮時だ。雲行きが怪しくなった裏稼業連中とジルベールに背を向け、面倒ごとになる前に捨てていく。
ツテで紹介したのは俺だが、もともと客に情も持っちゃいない。何より血の気の多い連中に巻き込まれるのも、そしてあのジルベールにやられるのも嫌だった。どっちを敵に回しても俺には面倒でしかない。
ジルベールにも連中にも面倒ごとになったら引かせてもらうと断った以上、ここで遠慮する理由はどこにもない。どっちが勝っても血を見るのは目に見えている。
「ふざけるな、この金は褒賞だ。役立たずに払う金など無い」
いつもと違う時間に来たから何かと思ったが、まさかそんな噂しかない幻想みたいな能力者を探していたとは。どうりで根刮ぎ探しても見つからねぇわけだ。
今日まで数えきれないほど特殊能力者の情報を片っ端から流してきたが、あの男が満足する日は一度もなかった。連中の言う「妖精」もわりかし的を得ている。俺も噂だけなら何度か似たような情報も聞いたが、そんな都合の良い特殊能力者がいるわけがない。
怪我を癒せる特殊能力があるなら病もと夢見た馬鹿が吹聴した夢物語だ。そんな話に国の宰相が振り回されていたこと自体驚きだが、……まぁそれを置いても。
『ベイル、今すぐ集められるだけ人を。報酬は先に払います。手段を選ばずとにかく数を』
ありゃあもう駄目だ。
二度目に会った時よりも更に淀みも増して亡霊のような目になった顔を思い出しながらそう思う。
払いの良い客だった分は残念だが、まぁそれだけだ。血眼になって探していたのが馬鹿の夢物語だったんなら目的を果たすのも先ず無理だ。
あんなに切羽詰まったツラで現れたということはそろそろ潮時だろう。あのまま裏稼業連中に殺されるか、勝手に破滅するかだ。どちらにせよ坂を転がり落ちるのと変わらねぇ。
もう会うこともないかもな、と他人事として思う。あんな目をした奴が長生きできたのを見たことがない。もともと宰相のくせに裏稼業と繋がった男だ、堕ちるところまで堕ちて終わるのも遅かれ早かれ目に見えていた。ああなった人間が上がってこれるのは先ず不可能だ。
救世主でも現れない限り、決まってる。




