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フリージア王国備忘録<特別話>   作者: 天壱
重版感謝

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包みを開き、


「そっか。ハリソン殿も無事自分が用意した物ではないのを引いていると良いね」


そうね……、と苦笑気味に返すプライドの前を、そこで近衛兵のジャックが開けた。

部屋の扉が開かれ、並べられた残り五つの箱を前にレオンは両眉を少し上げた。自分が想像したよりも面白味のある光景に、立ち止まりじっと箱より全体を眺めてしまう。棒立つレオンの横を、小柄な影が二つ勢いよく横切った。


「すごいどれも同じ箱‼︎ねぇヴァルどれにする⁈どれが良い⁈」

「中身全然わかりません!レオンより先に選んで良いんですか⁈」

僕はどれでも良いですよ!と、ケメトがセフェクに続き声を上げる。ぐるぐると箱を端から端まで駆け回る姿に微笑ましくなりながら、プライドから箱を持ったり覗かないように声を掛ける。

プライドから誘われて喜んでプレゼント交換に参加したレオンだが、今回アネモネ王国でも特別な日である今日は、プレゼント回収の為だけに多忙の中訪れていた。


配達人の協力によって。


「どうぞ?ヴァル。君達から選んで良いよ、お陰でこうして当日に取りに来れたのだからね」

「知るか。セフェク、ケメト。テメェらで勝手に選べ」

ケッ、と吐き捨てるヴァルはグラリと身体を揺らしながら今やっと前に出る。配達ついでとレオンからの報酬とを引き換えにアネモネ王国の往復を受けたヴァルだが、こうしてレオンと一緒にこの場にまで付き合うことになったのは面倒だと思う。

しかし、自分も自分でプライドから手紙と報酬の受け取りを終えたらそのままアネモネ王国へさっさとレオンを送り返す方が手間も無い。どうせその後にはレオンが公務に勤しんでいる横で、自分達は報酬の酒と、そしてクリスマスケーキを平らげないといけないのだから。

多忙なレオンが、フリージアまで片道数時間にも関わらず今日この日に外出ができたのも配達人の協力が大きい。片道ならともかく往復など面倒だと最初は断ったヴァルだったが、セフェク達が目を輝かすアネモネ王国菓子職人によるクリスマスケーキを引き合いに出された結果、なし崩しそのものだった。


「でも交換用のはヴァルが用意したんだから箱もヴァルが選ばなきゃ駄目でしょ⁈」

「ヴァル!指差してくれたら僕とセフェクで開けますよ!」

プライドに誘われた際大賛成したセフェクとケメトだったがヴァルが欲しくもないと嫌がった為、結局は三人で一纏めの参加となった。そして引き換えの品を買い出したのもヴァルである。

めんどくせぇと適当にセフェク達が立っている場所から一番近い位置を指差すヴァルを見ながら、本当に彼はちゃんとした品を引き換えに用意してくれたのかしらとプライドはこっそり思う。品を選ぶ際に上限額が上限額だった為、セフェクとケメトでは他の参加者と同じ程度の高額を選び買えるかわからない。

プライドからも「貴方が貰っても迷惑でない品で」と限定した上で、ヴァルにだけは上限だけでなく下限も指定したほどだった。そうでないと城下の果物一つで終わらせる可能性も大いにあるという英断だ。

ヴァルが指した先の箱へ飛び込む二人は、開いて中を確かめればそのままヴァルを待たず包装された品を一人一つずつ手に駆け戻った。ヴァルの佇む前で立ち止まれば、見て!見て!とテーブルも使わず床でベリバリと中身を露わにしていく。


「クリスマスの置き物‼︎これあのお店の前に飾ってあったやつ‼︎」

「こっちはツリーですよ!星を乗せれますからあとで飾りましょう‼︎」

「どいつも邪魔か塵にしかならねぇな……」

期待以下の結果に舌打ちを溢しながら、大興奮のセフェクとケメトに背中を丸める。

二人がそれぞれ両手に掲げるのは、クリスマスを彩るに相応しい可愛らしい置き物だった。ケメトが示すのはクリスマスツリーの置き物だ。パッと見では本物かと錯覚するほどの作りで、大きさはケメトでも持てるほど小ぶりな全長も30センチ程度のものだが、その上にはきちんと星の飾りを据える場所がある。シンプルだが、だからこそ年齢関係なく飾りようもある品だ。

更にセフェクが両手でヴァルに突きつける品は、彼女にとっては本当にサンタが来たような気持ちになる。ヴァルと王都を通り過ぎる際、店頭の窓の向こうで何度も目を奪われた品でもある。可愛らしいお菓子の家に、フリージアには降らない雪の化粧が施された置き物はクリスマスだからこその幻想の固まりだった。

何よ!とヴァルからの批判にきつめの眼差しを吊り上げ睨むセフェクだが、今は両手が塞がり水を放てない。代わりに、絶対手放さないと意思表示すべくお菓子の家を抱きしめてみせる。

しかしヴァルからすれば、本気で手に入って嬉しくない品である。せめて食べ物であれば良かったが、家も棲家も持たない自分にとっては冗談抜きで邪魔でしかない。わざわざ使いようのない物をただ置く為に必要とするという感覚もわからない。


「テメェら全部寮の部屋に持ってけ」

絶対に配達で持ち運ぶな、と。その確固たる意志で告げたヴァルの言葉に二人は揃って「やった!」と飛び上がった。

私こっち!僕これ良いですか⁉︎とそれぞれ抱えたままの品を手に声を上げる二人を前に「うぜぇ」とうんざり溢すヴァルは、今は二人に寮があって良かったと心から思う。そういう無駄な物も、今後は置き場に困らない。二人に寮がなかったら本気で捨てさせるかもしくはいきつけの酒場かレオンの部屋に置かせるかしか道がない。


大喜びの二人から顔ごと背け、レオンを睨む。自分達の用事が終わった以上、さっさとテメェも選べと眼光に込める。

ヴァルの促しを受け、軽く肩をすくめて返したレオンは「それじゃ」ととうとう足を踏み出す。現状で一番部屋の端に値する箱へと歩み寄り、ポンと叩いた。

これにしようかな、と滑らかな笑みで断言するレオンは、そのまま速やかに箱を開く。

プライドだけでなく、レオンの箱の中身にさっきまで自分達のプレゼント一色だったセフェクとケメトも振り返った。一緒に中を覗き込みたい気持ちをぐっと堪え、レオンが中身を確認するまで待つ。

箱を開いたレオンは、その中に手を伸ばす前に「へぇ」と瞼を開いた。


「どうだったレオン⁈自分の⁈違う人の⁈」

「僕とセフェクも見に行って良いですか⁈」

今にも箱の中を覗き込みに走りたいセフェクとケメトが呼び掛ける中、レオンはかがめていた背中を一度伸ばした。そのまま中身を取り出す前に、二人へと振り返る。


「取り敢えず、セフェクとケメトはそこを動かない方が良いかな。僕のではなかったけれど」

来ないで、と。手でもしっかり二人を押し留める。

まさかのレオンからの返答にセフェクとケメトも目を丸くする中、プライド達も顔色が変わる。そんな危険物があるのかと、プライドが怯むように半歩下がる中、近衛騎士のアランとカラムが前に出た。ヴァルも顔を顰めながら手を伸ばし、セフェクとケメトの肩をそれぞれ掴み手元へ引き込んだ。レオン本人が冷静な為、まだ騒ぎには至らないがそれでもピンとした緊張感が張り詰める。


「レ、レオン……?一体何が入っていたのかしら…?」

顔が引き攣り気味のまま尋ねるプライドに、レオンは一度笑みで返す。

大丈夫だよ、と滑らかに笑ながら改めて背中を丸めた彼は再び手を伸ばし今度こそそれを取り出せば。


キャアアアアアアアアアアッ‼︎‼︎⁉︎と、誰よりも先にプライドが声を上げた。


あまりに想像しなかった品に、自分でも驚くほどの悲鳴が上がってしまう。それでも足りず、前に立ってくれていたアランとカラムの背中の衣服に思い切りしがみついて背中を丸めてしまう。

寧ろセフェクとケメトの方がまた落ち着いていた。セフェクは流石にびくりと肩を上下しヴァルに背中でくっついたが、ケメトとヴァルはただただ目を丸く虚をつかれたように揃って口を開けただけだ。レオンが両手に平然と持ち上げ、包みから顔を出したままの




豚の頭に。




「ごめん、プライドの方が苦手だったかい?」

いやあああああああ‼︎‼︎と不意打ち効果で若干半泣きになりかけるプライドは、レオンの問いに返事どころかまだ直視できない。

戦いの中で血飛沫や怪我、凄惨な場面には昔から免疫があるプライドだが、人間以外は別だった。エグいよりも気持ち悪い、怖いという感想が先立ち今すぐに記憶を消したい。平然とそれを持てるレオンにわけがわからない。

プライドのあまりの拒絶具合に、耳が痛そうに顔を歪めていたヴァルも振り返ってはニヤリと笑う。存外、自分よりレオンの方が当たりを引いたとその反応だけで思いながら、ケメトとセフェクを掴む手を離した。

全く危険性自体はないそれに、ケラケラと笑いまで溢してしまう。「大当たりじゃねぇか」と言ってやれば、レオンも小さく笑みながら肯定を一言返した。プレゼント担当の侍女に、この品は近日に確保されたものか確認すればつい昨日だと言われ安心する。取り敢えず腐りかけを贈るほどの粗雑でもない。


「脂も乗っているし、良い〝料理〟だね。残りの調理は城の料理人に任すよ」

火は通っているから腐ってはいないしと。それも確認しつつレオンは箱へそれを元通りに戻した。

豚の頭の丸焼きは、王侯貴族でも嗜むご馳走だ。プライドも心の準備さえできていればパーティーや夕食でも目にしたことがある。しかし今は本当に不意打ちで、更にはレオンが掲げる豚の頭と目が合った錯覚まで覚えてしまった。

ハァ〜〜と長く呼吸を繰り返すプライドは、バクバク喚く胸を押さえつけながらなんとか心を落ち着ける。大丈夫、あれは料理、料理、と自分に言い聞かせつつ、皿にも盛られず野菜や果物にもソースにも飾られない剥き出しの丸焼きはやはり豚の焼死体感がまだ網膜に残っている。この後、レオンの城の料理人により仕上げられれば、きちんと見られるのだろうと思う。


自国の貿易にも携わり商品を手に取り試すことが日常のレオンにとって、豚の丸焼きや生首といった〝食品〟も見慣れている。何ら怖くない。

まさかクリスマスにメイン料理が丸ごと贈り物なんてと、今まで貰ったクリスマスプレゼントの何よりも意外性のあった品は寧ろ好感だった。しかも箱の底には申し訳程度にクリスマスらしい靴下が二足というのもなかなか興がある。


「うん。とても面白かったよ。また来年も誘ってくれると嬉しいな」


ありがとう、と。その箱を自身のアネモネ従者の騎士に預け、プライドにハンカチを差し出すとそのまま軽やかな足取りで去っていった。

貰ったハンカチを手に、肩が限界まで強張りながら既に涙目になっていたことにプライドも今気付く。

さらにその後に続くヴァルからはニヤニヤと楽しげな目で見られ、更にセフェクとケメトからも「良いクリスマスを過ごして下さい!」と優しい眼差しまで受ければあまりに不甲斐なくなりじわりと顔が赤くなる。


目を片目ずつ押さえながら、隠すようにコソコソと小さくなるプライドに、アランとカラムも敢えて気付かない振りを徹し続けた。


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