300.特殊話・疑ぐり王女は開き、
三百話達成記念。本編と一応関係はありません。
IFストーリー。
〝もし、占いをしてみたら〟
※占い自体はこの世界にもあります。
時間軸は〝暴虐王女と婚約者〟と〝非道王女と同盟交渉〟の間です。
「ああそうそう、プライド。この前のアレ、結果が届いたよ。」
レオンがフリージア王国に訪問に来てくれた。
客間にお茶を出してくれた専属侍女のマリーとロッテに御礼を言いながら、私は向かいのソファーに寛いだレオンを見返す。私の隣に座るティアラとステイルが気がついたように声を漏らした。
「アレって、…この前アネモネ王国にお邪魔した時の?」
紅茶を一口飲みながらレオンに返す。そう、それだよ。と滑らかに笑んだレオンは、懐から十枚の封筒を取り出した。パサリ、とテーブルに置かれた封筒にティアラが目を輝かせる。
「アーサー!カラム隊長の分もありますよっ!」
「…ジルベール、…宰相の分もありますね。」
ティアラに続き、ステイルも封筒を一つ摘んだ。自分のよりもジルベール宰相の方が気になるらしく、封筒を片手に俄かに笑った。
他にもバラバラと十枚の封筒と宛名を一枚一枚確認していく。
「ヴァル。セフェク、ケメトの分もあるよ。」
見るだろ?とレオンはその内三枚の封筒を摘むと客間の隅にいるヴァル達へと笑いかける。
レオンに突然声を掛けられ、ヴァルが面倒そうに床へ寝転んだ状態から顔を上げた。
セフェクとケメトは気になるのか、レオンの手の中の封筒に釘付けになりながらヴァルの服を引っ張った。二人に急かされ、だるそうに荷袋の紐を掴みながら起き上がるヴァルは若干嫌々にも見える。
ヴァルは昨日の夜、またレオンの城に飲みに行っていたらしく、レオンを馬車ごと乗せて送りに来てくれた。…道行き途中で捕まえた盗賊を連行するついでに。
その後すぐヴァルは他の国へ配達に行こうとしたけれど強引にレオンに連れてこられたらしい。
「要らないなら僕が代わりに読もうか?」
くすっ、と笑うレオンにヴァルが吐き出すように呻いた。舌打ちをしながらドスドスと足音を立て、レオンに手を伸ばす。
もしかしたらこの封筒を餌に引っ張って来られたのかもしれない。なかなかレオンもヴァルへの扱いが慣れている。
レオンから乱暴に封筒を奪い取ったヴァルは、苛立たしげに宛名を確認した。ヴァル、ケメト、セフェクという文字を見ると部屋の隅に戻るのも面倒そうにその場の床に座り込んだ。レオンの座っているソファーを背もたれにし、両脇に座るセフェクとケメトに封筒を一枚ずつ手渡した。
「ねぇ!私達の分も読んでよ!私もケメトもまだちゃんとは読めないんだから‼︎」
セフェクが手渡された便箋を再びヴァルへと押し返す。ケメトも「僕も読んでほしいです!」と声を上げている。
ケメトはティアラに時々勉強を教えて貰っているらしいけれど、それでもやっぱりまだ完全とは言い難いらしい。最近はケメトに触発されて、セフェクも文字の読み書きを勉強し始めたとティアラが話していた。歳下のケメトの方が読み書きは一枚上手とのことだ。
ヴァルはセフェクとケメトから再び封筒を受け取ると、またうんざりと息を吐いた。ヴァルもできるのは文字を読むことだけだけど、スラスラは読めるから今も二人の分は読んであげているらしい。二人から乱暴に封筒を受け取ると、雑に口を破いた。
「お姉様っ!私達も一緒に読みましょう!」
楽しみですねっ、とティアラが嬉しそうに手紙を開いた。ステイルがアーサーとカラム隊長の分を手に取り、背後に控えるアーサーへ纏めて手渡した。アネモネ王国へ訪問した時と違い、いまの近衛騎士はアーサーとエリック副隊長だ。
ええそうね、と返しながら私も自分宛の便箋を手に取った。
「楽しみね、アネモネ王国の占いだなんて。」
私の言葉に、レオンが嬉しそうに静かな笑みで返してくれた。
最近、アネモネ王国では占いが民の間で流行っているらしい。あくまで道楽の領域だし、話を聞くと前世でいう軽い星占いや性格診断に近い感じだった。
私達がアネモネ王国に訪問した際、レオンは巷で有名な占い師さんを呼んでくれていた。診断には日が必要とのことで、文字だけ書いて終わりだったけれど。まさかのタロットカードとか水晶とかではなく、文字診断だった時は驚いた。タロットや水晶やトランプとか色々占い方法はあったらしいけれど、一番当たるというのがこれらしい。
指定された文をそのまま書くだけでやり方も簡単だったけれど、ロマンティックさに欠けていたのはちょこっとだけ残念だった。
この世界では基本的に占いで出るのは、その人の性格診断と経歴。前世で言えばSNSでわかっちゃうような内容だけど、それもないこの世界でならズルもできないから余計に当たるかどうかわくわくする。
ヴァル達もということは、彼らもアネモネ王国に行った時にレオンに占いを勧めてもらったようだ。
指定された文を見たまま書き写すだけだったし、確かにあれなら文字を書けない三人でも占えたのだろう。ジルベール宰相なんて、占いの結果でわかる項目を聞いた途端ステイルが「折角ならばジルベール宰相にも」と瞬間移動でわざわざ書かせに行っていた。
あとで私からジルベール宰相に謝ったけれど「まぁ、あくまで道楽のひとつですから」と言ってくれた。あまり占いに興味は無いらしく、結果を読むのもご自由にと笑っていた。
「折角ならみんなで見せ合いましょうっ。」
ティアラが占い結果を書かれた便箋を取り出しながら、この場の全員を見回した。いかがですか?と目を輝かせるティアラに、レオンも「良いね」と滑らかな笑みで賛成した。
確かに占い結果の見せ合いなんて楽しそうだ。アーサーも構いませんけど、と頷いてくれた。カラム隊長も以前「先に見ていただいても構いません」と言ってくれていた。カラム隊長もジルベール宰相と同じであまり信じていない。…いや、単に占い結果を見られても困らないだけかもしれない。
カラム隊長の代理でエリック副隊長が結果を確認することになり、皆で見せ合いっこが始まった。…結果。
「………………………………。」
全員が、沈黙した。
…どうしよう、これ人前に見せるのすごく躊躇いたい。私もそうだけど、読み終わって皆を見回すとそれぞれ表情がバラバラだった。
ヴァルも最初に開いたセフェクとケメトの後、自分の結果を見た途端眉間に皺を寄せていた。ステイルも自分のとジルベール宰相の結果を見て、すごく不満そうに便箋二枚を睨んでいる。
アーサーとエリック副隊長も診断結果をお互い覗き込んでいた。エリック副隊長の手の便箋に、二人で首を捻っていた。アーサーはエリック副隊長に自分のを見られた後、必死に首を横に振っていたけれど。
「…どうだった?」
レオンが自分の結果を読み終わった後、首を傾げて見回した。私達の顔色を見てか「まぁ、当たっても当たらなくても気にしないで」と笑ってくれる。
確かにあくまで遊びの一つだし、前世のおみくじみたいに今後の展開は書かれていないから気にすることではないのだけれど!すると最初にティアラが「私は…」と小さく呟きながら、自分の内容を読み上げてくれた。
『貴方は美しい心の人間です。とても勉強熱心で、真面目ですが同時に寂しい想いもしたでしょう。ですが今は純粋無垢なその性格で友人にも恵まれ、現状にも満足しています。今が最も正しい在り方だともいえます。』
おお!合ってる‼︎ちゃんとティアラが六歳になるまでは一人で育ったことにも当てはまっているし、性格天使であることすらぴったりだ。やっぱり占い師さんは本物なのかと思うと、余計に私の結果発表が怖い。
ティアラの結果にステイルも「確かに合ってるな」と呟いた。それでもステイルの目線は未だ納得いかないように自分とジルベール宰相の結果を睨んでいた。ティアラが「兄様は⁇」と私越しにステイルを覗き込んだ。ステイルは自分の結果の方をティアラに手渡すと、先にジルベール宰相の方を読みだした。…なかなか不満そうな表情で。
『貴方は生まれもっての善人です。昔から優しく、人のことばかりを考えてしまいます。もっと自分本位でも良いくらいです。今は愛し愛してくれる人達に囲まれ、幸福な日々だと思っています。』
やっぱり当たっている。昔から奥さんのマリアの為に必死で勉強して宰相になったジルベール宰相らしい。今はマリアとステラに囲まれて幸せ家族だし、ここまで合ってると少し怖いくらいだ。
「流石ジルベール宰相。清廉な経歴だね。」
レオンが感心するように声を漏らした。
それに反し、ステイルの表情が苦々しくなった。「ええ、そうですね…」とレオンの手前、あまり暴言を口にできないのだろうけれど、凄く不満そうだ。その後すぐに隣の私とティアラにだけ聞こえる声で「あれ以上自分本位では困りますが」と悪態をついていた。それを聞くとティアラはソファーから立ち上がり、ステイルに駆け寄ると肩でステイルを軽く突くように押した後、そのまま「兄様は…」とステイルの占い結果を読み上げ始めた。
『貴方はとても頭の良い人間です。昔から賢く、計算高い一面もありますが、その為周りの人にも頼られます。ただし、代わりに少し自分のことに関しては鈍いようです。たまには周りを見回してみて下さい。』
流石ステイル‼︎ばっちり合ってる。
占いとはいえ、文字だけでステイルの計算高さまで読めちゃうなんてすご過ぎる。でもステイルは未だ不服そうだ。ティアラに読まれた間も腕を組んで再び自分のとジルベール宰相のとを見比べている。
ティアラが「合ってるじゃない」と言ったら、一言同意した後に、自分の占い結果をティアラから回収していた。
「……ちゃんと周りのことくらい、わかっています。」
ぼそり、と独り言のように呟くステイルはティアラと私、そしてアーサーを目だけで示した。
どうやら最後のワンポイントアドバイスが気に食わなかったらしい。
確かに私もステイルが私達を気にかけてくれていることは理解している。宥めるように私からステイルの背中を摩り「わかっているわ」と声を掛けると、少し笑みで返してくれた。…その後「でも、兄様が自分に鈍いっていうのは当たってると思うわ」とティアラに言われると少しむくれるような表情をしていたけれど。
「まぁ、あくまで道楽の一種だから気にしないで下さい。僕もこんな感じでしたから。」
レオンがステイルを慰めるように声を掛けると、指先で優雅に挟んだ自分の占い結果を読み上げてくれた。
『貴方はとても優しい人間です。ただし、人に甘過ぎる面は欠点にもなり得ます。暗い過去も糧として立ち上がれる強さがあります。いまはその魅力で多くの人を虜にしています。』
……ごめん、レオン。すごく合ってる。
心の中でそう思いながら黙ってしまうと、レオンの方が自分から「まるで女誑しみたいだよね」と肩を竦めて笑った。
すごく褒められているのは間違いないのだけれど、魅力とか虜とか完全にお色気キャラのレオンそのものだ。
…というかステイルの結果といい、レオンといいまさかこれ…。
ふと、凄く凄く不吉な予感がしてしまう。苦笑いだけで堪えていると、ヴァルがゲラゲラと「大当たりじゃねぇか」とレオンへ笑い声を上げた。そのまま自分の占い結果をピラピラとはためかせて見せる。
「どいつもこいつも誉めりゃあ良い内容じゃねぇか。お偉いさん向きの都合の良い内容だ。」
…確かに。
ヴァルの言葉に少し私も納得してしまう。前世でも、占いは誰にでも当てはまる内容だって聞いたことがあるし。…いや、でも私は。
そう思っていると、レオンが先に「そうだね」と軽く返してそのままヴァルの結果はと尋ねた。
セフェクとケメトもまだヴァルが読み上げてくれないから自分達の結果を知らないらしく、早く早くとヴァルを左右からせっついている。
ヴァルは三枚の内、最初にセフェクの方をと読み上げ…ずにレオンへと押し付けた。テメェが読め、と言われてレオンが受け取ると、セフェクが「ヴァルが読みなさいよ!」と凄く怒ってた。多分ヴァルのことだから、敬語の文章を人前で読むのが嫌だったのだろう。封筒ごと三枚を纏めて突き渡されたレオンは、一枚ずつ便箋を開いていった。最初にセフェクのをレオンが開くと、セフェクは文句ありげにレオンを睨みながらも耳を傾けた。
『貴方は真っ直ぐな人間です。強く、優しく、眩しい生き方をしています。辛いこともありましたが、今は尊敬して頼ってくれる人や親しんでくれる人達に囲まれています。どうかその気持ちに応えて下さい。』
セフェクの結果に、ケメトが嬉しそうに「僕は尊敬してますよ!」と声を上げた。セフェクがそれに少し嬉しそうに返事をすると、意味深に今度はヴァルを見上げた。何か一言欲しそうだけれど、ヴァルは目を逸らしたまま気付かない振りをしていた。
レオンが代わりに「ケメトやヴァルのことなら合ってるかな」とセフェクへ言葉を掛けると、ヴァルが言い返す前にケメトの結果を読みだした。
『貴方は心が広く、調和の取れる人間です。幼い頃から良き兄弟姉妹に恵まれた為、人との関係を取り持ち、その気持ちを汲むことにも長けています。その美しい心を、これからも大切にしていって下さい。』
ケメトの過去は知らないけれど、確かに納得してしまう。こうして今もヴァルとセフェクの間を取り持っているし、セフェクという立派なお姉さんにも恵まれている。思わず大きく頷いてしまうと、私以外にも何人かが頷いていた。
するとヴァルが「ガキ共は問題ねぇが」と言って、レオンに自分のも読んでみろと促した。
レオンはヴァルの便箋も開き、読む前に軽く目を通し……沈黙した。
あれ、と思ってレオンとヴァルを見比べると、レオンの正直な反応が愉快だったのか、読まれる前からヴァルがニヤニヤと馬鹿にするような笑いを浮かべた。
どうしたの?と私が聞くと、レオンは少し目を丸くしたままヴァルの占い結果を読み上げた。
『貴方は優し過ぎるほど心の優しい人間です。昔から自分よりも他者のことばかりを想って生きてきました。ですが、優しさゆえに隠し事も多いようです。辛いことは身近な人に相談して下さい。』
……おおっと…?
思わず今度はレオンだけでなく、全員が沈黙してしまう。
ヴァルだけが私達の反応が楽しいようでゲラゲラと一人で笑っていた。ここまで笑って否定されると疑う余地もない。
色々ツッコミ所は多いけれど、取り敢えず今の彼はさておき「昔から自分よりも他者」というのだけは流石にフォローのしようがない。ケメトが首を捻りながら心配そうにヴァルへ「何か僕らに隠し事があるんですか?」と聞いた途端、ヴァルが軽く咽せたけど。
隷属の契約のことなら、隠し事は当たってる部分もあるかもしれない。
「俺のは大外れだ。どうせ何でも持ち上げりゃあ当てはまると思ってんだろ。」
ケッ、と最後には馬鹿にするように吐き捨てたヴァルは、三枚の占い結果を回収すると再び床に転がった。手の中の三枚が一瞬で消えたレオンが可笑しそうにヴァル達を眺めている。
「まぁ、当たるも当たらないも楽しむものだから。」
良いじゃないか、と言うレオンを無視し、ヴァルは占い結果を一枚ずつセフェクとケメトに今度こそ手渡した。二人とも受けとってすぐ自分でも読もうと文面を指でなぞっていた。
「そうですよね⁈当たってないのもありますよね…⁈」
突然、慌てた様子でアーサーが声を上げた。顔を向ければ焦ったような、少し安心したような表情で眉を上げながら話している。どうしたのだろう、隣にいるエリック副隊長も苦笑いしながらカラム隊長の占い結果とアーサー占い結果とを交互に見比べている。
「アーサーとカラム隊長はどうだったのですか?」
ティアラが気になった様子で首を傾げる。私も気になってソファーから身体を真後ろの二人へ向けた。
アーサーはギクッと肩を上下させると、すごく見せにくそうに便箋で一度だけ顔を隠した。それでも皆の注目を受けた流れに逆らえず、おずおずと読み上げてくれる。
『貴方は演技の上手い人間です。昔から誰からも好かれる人を見事に演じ、そして自分でもそんな一面を内心では自覚しています。理解者もいます。もっと自分に素直になれれば、内側に入る人間も増やせるでしょう。』
「ッ俺そんなつもり全ッ然ありませんから‼︎」
読み上げてすぐ、弁明するように声を上げたアーサーは若干血の気が引いていた。さっきまで皆がそれなりに当てはまっていたから余計に焦るのも当然だ。
エリック副隊長がアーサーの背中を軽く叩きながら「わかったわかった」と宥めるように笑ってくれたけれど、ステイルは腹を抱えて堪えるように肩を震わせ始めた。俯いて隠しているけれど確実に大爆笑だ。アーサーがそういう人じゃないとわかっているからこその爆笑なのだろうけれど、アーサーは本気で必死だった。私と目が合った途端、再び激しく首を横に振って訴えている。うん、私も今のアーサーがそうではないことぐらいはわかる。…でも、これ。
もしかして前世のゲームの登場人物設定なんじゃ。
だってレオンやティアラやジルベール宰相はもともとあまり変わらないけれど、ステイルとか説明がゲームの義兄ステイルっぽいし‼︎アーサーも確かゲームだと理想の騎士を演じてるキャラだったし‼︎
今の現状はさておき、もう性格診断は元々のゲームの設定な気がしてならない。怖い、占い怖い‼︎
まさかこの占い師さんも前世の記憶とかゲームを知ってる人なのではと思えてきた。思わずレオンに占い師さんは私達の名前も伝えているのかと聞いてしまう。でも、…それはしていないらしい。一応王族とかのプライバシーもあるので、全員仮名だけでレオンも自分のはどれか伏せて占ってもらったと。…それがわかると余計に今こうしていくつも当たってるのが怖い。
「なら、アーサーのもヴァルと一緒でハズレかな。なら、カラムの結果は?」
レオンがアーサーから逸らすように話題を変えてくれる。流石レオン。
アーサーは自分から話題が変わったのも束の間、カラム隊長という言葉に自分の唇を引き結んだ。
青色の目を丸くして、エリック副隊長をじっとみつめた。エリック副隊長がその視線に返すように「まぁ、…言って良いとカラム隊長も仰ってたから」と呟くと、再びカラム隊長の占い結果を開いた。読み上げる前に「自分も、アーサーもこの占い結果は判断できませんでした」と言いにくそうに前置きをしながら。
『貴方は強い人間です。悲惨な経験も多く、沢山苦しんできたでしょう。今はそれが報われているともいえます。少しまだ意地を張っているところもありますが、これからも大事な人を大切にしていって下さい。』
……カラム隊長、一体何が。
なんだか、なんだかカラム隊長の知られざる過去が明るみに‼︎‼︎
最初の強い人は合っているけれど、それ以外がエリート騎士のカラム隊長から想像もつかな過ぎて凄く反応に困る。いやでもやっぱり騎士隊長になるまでにはカラム隊長も色々大変な想いもしたのだろう。
アーサーもエリック副隊長もけっこう困惑しているらしい。立場上、王子のレオンの前で全く当たりませんよとも言えないのもあるだろう。
「それは…確かに本人に確認してみない限りはわからないね。」
レオンが口元に指を添えながら、冷静に言葉を返した。するとアーサーが「確認して良いことなんでしょうか…⁈」とまた真剣に顔色を変えた。
確かに、わりとカラム隊長のプライベートなことかもしれない。
エリック副隊長が首を二度ほど捻ると「読まなかったことにして渡してから聞いてみるか」と呟いた。そのまま封筒の中に丁寧に占い結果をしまい直してしまう。…うん、英断。
もし当たっていた場合は私達も本人が言うまでは胸に秘めておかなければ。
そう思っていると、ステイルがソファーから身を起こして私を覗き込んできた。
「姉君は、どのような結果でしたか?」
ぎくっ、と。思わず今度は私の肩が揺れる。どうしよう、凄く見せにくい。
私の反応が少し気になったのか、ステイルが目をぱちくりさせた。ティアラも凄く気になるように「どうなさったのですか?」と聞いてくれる。気がつけば振り向かずとも皆の視線がじんわりと集まってくるのを熱で感じた。
皆が教えてくれたのに私だけが隠すわけにもいかない。アーサーとカラム隊長ので、占いが外れてる可能性も出てきたし!と少し祈る気持ちで私は恐る恐る自分の占い結果を読み上げた。若干、罪状告白のような気分で。
『あまり褒められた生き方ではありません。違反や間違った選択も多く、その所為で貴方を嫌う人間や敵も多くいます。そして、貴方もそれで良いと思っています。心を許した相手には無償の愛情を注げている姿は、欠点にも長所にもなり得ます。』
…完全に、極悪ラスボスプライドの罪状だ。
そう思い、読み終わった後に顔を上げる気力も出ずに項垂れてしまう。誕生日占いとかなら仕方ないという部分もあるけれど、文字診断でこの結果が出たと思うと落ち込んでしまう。いやゲームのプライドが心を許した相手なんて知らないけれど。もし注いでいたとしたら確実に屈折して歪んだ愛情しか注げていないだろう。
皆も完全沈黙してしまうから、余計に気まずい。
否定も肯定もされないのが逆に怖い。どうしよう、次期女王として不安しか残らない結果なのだけれど‼︎しかも、現段階でこれが大当たりとかだったらこの場にいる方々に嫌われている可能性も出てきて余計に落ち込む。
しばらくの沈黙の後、最初にそれを破ってくれたのはステイルだった。
「…………唯一、欠点と長所だけは当たりでしょうが。」
凄く重々しく声を放ってくれ、顔を上げてみると凄くステイルが眉間に皺を寄せていた。ティアラが応じるように、こくこくと頷いている。
「うん…。…ごめん、プライド。やっぱり占いだから、大きく外れることもあるみたいだ。」
楽しみにしてくれてたのにごめん、とレオンが眉を垂らして謝ってくれた。貰って良いかい?と言われて手を伸ばしてきたので、私の結果用紙を手渡すと中身を吟味した後、凄く極限まで細かく紙を折り畳んでしまった。親指大くらいの大きさまで畳まれた後、今度は「あとは僕が」と言ってステイルが伸ばした手のひらにそれを手渡した。次の瞬間には瞬間移動で消されちゃったけれど、……どこに行ったのだろう。
気を遣ってくれたのかなと思いながら、今度は背後を振り返る。ステイル達の反応が何か妙で心配になり「外れてる…⁇」と小声で近衛騎士二人にも尋ねてしまう。アーサーもエリック副隊長も二人して肯定するように無言で首を縦に何度も振ってくれていた。どうしよう、皆して優し過ぎて泣きたくなる。
「御安心下さい、姉君。億が一にも当たっていようと、敵など僕達が全員払いのけますので。」
わりと部屋に響くほどのはっきりとした声がステイルから放たれた。若干ドスの利いたような低さも交えていて、黒い覇気まで感じられる。なんか!なんかすっごく怒ってる‼︎
「そうだね。僕も、ちゃんとその時は責任取るよ。…できる限り、ね。」
レオンまで⁈
何故かレオンまでもがステイルに同調するように言葉を続けて笑った。にこり、と静かに笑んだ顔の瞳が妖艶に光っていて少し怖い。外れてるって言ってたのに⁈しかも責任って何⁈占いを頼んでくれたのは確かにレオンだけど、そんなことで結果にまで責任取らなくても‼︎
なんだろう、気がつけばステイルやレオン以外も部屋中から何か怖い気配が立ち込めている‼︎
外れてると言われたわりに、これは本当は私の占い結果が当たっているという意味なのではないだろうか。確かに私けっこう王族のルール違反の常習犯なところあるし‼︎しかも少なくとも八歳までは色々黒歴史制作してるし!それにこんな私だから敵がいても仕方ないとも思ってる。………あれ。どうしよう、私やっぱりゲームの外道プライドと大してあまり変わらないのでは。
なんだか私の所為で凄く凄く気まずい空気になってしまいながらも、その日のレオンの訪問は終わった。
占いも本当に馬鹿にできないなとしみじみ思いながら、私達は馬車までレオンを見送った。