写真冒険家リンスカム
「今、何か光らなかった?」
「あい?」
「ちょっと止まって」
「またかい…? たく、この調子じゃ、いつになったらつけるやら」
ポランコはマシンから降りて、光の出先を探す。
「あの、木の陰あたりから、あたしに向かって光が投げかけられた」
「いいじゃん。それくらい気にせず前を見ていこうよ」
「だめだめ。あたし、こういう些細なことも見逃せないたちなの…。ほら、光の出先はやっぱり…」
ポランコが木陰で発見した光の出先の正体は…。
「その長髪メガネのいかにもむかつく顔立ちは!!」
フアンズの驚きの一声からすると、あらら、またお知り合い? 会う人、会う人、皆知り合いって、どれだけ狭い町なんだよ。
そのオタク風の青年。逃げ出そうとするが、ポランコが許しちゃいない。
「リンスカムだっけ? なんであんた木陰でこそこそしてるのよ」
ポランコは、そのリンスカムなる青年の服の袖を引っ張り、逃がさない構えだ。
「あ、リンスカムのやつ、カメラ持ってるぜ…」
「そういうことね」
「ああそういうことだ、おそらくオレらの同乗現場を激写したんだぜ…」
リンスカムの釈明がムリヤリなのだ。
「たまあたまだよ。たまたま。たまたまカメラを下げていたら、よく知った顔が二つ見えたから、思わずパシャリ…としたまでだよ」
「なんだ。それなら情状酌量の余地ありね~」
ポランコさんすっっかり信じてしまうが、フアンズが疑問点を穿り返す。
「騙されれるな。オレたちが通ったのは偶然だろうが、カメラを構えてこそこそしてたのは弁明の余地ないだろうよ」
フアンズの見立て通り、リンスカムなる青年は、カメラを担いでコソコソにやにや、撮った写真を何に使うやら。
「あらそういえばそうね。この平日の昼間から、何がしているのかしら、このろくでなしのお坊ちゃん。親も泣いているわよ」
平日の昼間から遊び呆けていたいるのは、ポランコ、フアンズも同様である。
「どうせ、こいつ。良からぬ写真を撮って、それを良からぬことにつかうんだろうよ」
正義感を振りかざすフアンズであるが、とろけた目で昼間から徘徊するフアンズ自体、リンスカムとさしてかわらないとも言える。
ところが、リンスカム。ひるむどころか、開き直るのだから、たちが悪い。
「そうだよ、それがなにか? お前らの写真も使わせてもらうぜ…うひひ」
「うひひだってよ…そうはいかんぞ、リンスカム」
怒りのフアンズ。正義の鉄槌が下る。
「火炎魔法『ボルケス』!! 悪しき青年リンスカムのカメラを燃やし尽くせ!!」
かっこよく前振りを決めたがいいが、成果の方といいますと…。
ぼっと100円ライターレベルの炎がリンスカムのカメラ回りに現れただけで、燃やし尽くすどころか、カメラの蓋のゴムを、ほんの少しだけと消さしただけ。
「あれ? あれれ?」
タダ一つ使える魔法がこの有様で、どうしてフアンズ、君は想造魔銃剣士試験に立ち向かう?
「へへへ…ボルケスと聞いてちょっとビビったがしょせんはフアンズだな…。中学の時から、まったくかわっていない中途半端ぶりだぜ…。そのフアンズがちょっとだけ人気のあったポランコとできていただなんてなあ…。まったく意外な組み合わせだぜ。こりゃあ、波紋を呼ぶニュースだぜ」
なんという暗い青年。同級生の純愛? をネタにするとは、ポランコよ、頼りにならぬフアンズに成りかわって、リンスカムをとっちめろ。
「ねえ、あんた、ちょっと臭くない?」
服を引っ張ってリンスカムを捕まえるポランコ、ちょっと体臭が気になったようで。
「お風呂ちゃんと入ってる? 服は毎日取り替えている? 制汗剤つけてる?」
「ばかにするな。毎日風呂に入って、服も違う服だ」
「まあ、それで臭うなんて、おしまいじゃない。精根尽き果たして、それでいて結果がこれじゃあ。あんた、死んじゃいなさいよ」
「失礼な…。ふ、まあお前らへの報復はもう済んでいるんだぜ。オレからカメラを取り上げても無駄さ」
「どういうことだ、リンスカム」
「今、撮った写真は、メールに添付して俺たちの同級生にばらまき済みだ」
「なんだって」
「これで一気に広がるぜ。意外な取り合わせにみんなびっくりだ…」
「だからどうした」
たしかにどうしただ。やましいことは何もない。麗しき男女交際(交際してないけど)の写真である。
「へへへへへへ…うひひひひひ」
リンスカムも特に思いつかないようだ。
がしかし、この写真は、密やかなる波紋を巻き起こしていたのである。
とある場所で、リンスカムからのメールを開いた男は、このスクープ写真に嫉妬の炎を渦巻かせていた。
「なに? 密会現場激写!? こえフアンズとポランコじゃーか。くそおおおお、よりによってフアンズが…くそおお…。お、この写真、いまさっきの撮影、しかも、この近隣…。ちょっとからかってやるか…」




