ポランコさん登場
順調に発進されたフアンズであるが、ワースの目が届かなぬ場所までいくと、急に暴れ馬を調教しきれなくなる。
「うわ!!!! そっちじゃないって!!!」
ビレドマシンを動かすコツは、強く念じることだけ。操縦者が右と念じれば、ハンドルが左を切っていても、右にいく。操縦者の意思が薄弱ならば、制御不能。
「右だって!!!」
口で行っても効かない。必要なのは、強い信念なのだから。
「そっちじゃない。うわー!!」
どかーん。
フアンズは民家のブロック塀に正面から突っ込む。出しすぎのスピードから考えて、マシンは大破。民家に多大なら損害賠償請求…。のはずなのだが…。
「あれ?」
どうしてか、マシンも塀も無傷。
なら、フアンズも無傷のはずであるが、そううまくことは運ばない。
頭から流血。だらだらと流れる血を右手で拭うと、フアンズ悲鳴をあげる。
「うぎゃああ!!! 血だよ、血~~」
血の流れる量のわりに、痛みがないのが、不幸中の幸いか。
「しかし、変だなあ~。マシンも塀も無事でオレだけ負傷って…。まあいいや考えようによっちゃあ。賠償もいらないし、マシンを修理する必要もない。オレだけで済んだと思うことにしとこ」
フアンズは、ネガティブな性格に思われがちだが、時に前を向いて倒れるのだ。
「痛いのにはかわりがないなあ…。誰か回復魔法使える奴いないかなあ」
回復魔法『ホランド』は初期の基本的魔法である。フアンズのように総合高校を卒業したならば、できて当然。というか、できなければ、卒業単位が降りない必修科目なのである。
一応卒業証書を持っているフアンズ。本来なら、当たり前の顔をして、ホランドくらい唱えて当然なのである。
「オレ、ホランドの試験どうやって通ったんだっけ…」
一応、試験は突破したようであるが。
「久しぶりに唱えてみるか、いけ、ホランド!! オレの傷を直せ」
フアンズは、ちょっと恥ずかしそうにホランドを唱えたが、結果は出ない。
「おかしいな。どうして、こんなオレに単位をくれたんだ。保健の先生…」
日本人が英語をしゃべれなくとも、点数と出席満たせば、英語の単位がおりると同じ。ホランドを唱えられなくても、ホランドの単位がおりる仕組みなんじゃないか?
「出席も足りないし…。保健の授業、昼過ぎだから、昼飯食うと、眠くなっちゃって、そのまま寝過ごして、気づいたら、授業終わってた、このパターンが多かったのに」
何? それじゃあ、どうしてホランドの単位がおりたんだ?
「補習に呼ばれて、それでもオレだけどうしたって、ホランドができずに、つに教室にはオレと先生の二人きり」
おやまあ、またフアンズの触れられたくない古傷をえぐちゃった?
「先生がカワイイからさ。それも悪い思いでじゃないけど」
なんだい、けっこう嬉しいシュチュエーションじゃないか。
「いつまでたってもできない劣等生のオレに、真剣に向きあってくれた先生の目が、またオレの胸をしめつけた。うるんだあの大きい瞳が…はあ」
いたせり尽くせりの展開じゃないか。それでどう切り抜けた?
「先生手首切っちゃったんだ…。オレは唖然としたけど、「フアンズくん。あなたのホランドで私の流血を止めて!!」なんて、いわれたらさあ…こっちだって…」
そうか。先生の文字通りの体当たりの教育が、フアンズの能力を引き出したのか。
「でもいくらやってもできないんだ」
あれ? 違うのか。
「先生もこれ以上の流血は命が危ないからさ、自分でホランド唱えちゃったんだよね」
なんだ、結局、できてないんだよね。
「ここまでしてできないなら、仕方がない。努力に免じて単位をあげるわってなんとか切り抜けたんだっけ…。あの先生…元気かな…。もうすぐ40だっけ…」
40歳? 口ぶりからすると、着任したての若い先生を想像したのに、君は熟女好きなのか。
ホランドさえできず、痛みに頭を抱えるフアンズに救世主が現れた。
「あら、フアンズじゃないの…」
どこからもなくかわいらしい声がする。
「げ!」
その声の主に若干引き気味のフアンズ。何があった?




