マシンの秘密
ビッグレッドマシーン、通称BRMがフアンズ一家にやってきたのは、偶然のことであった。
海外旅行目当てのワースが、送った懸賞で当たってしまったのが、このマシーン。
説明書きなし、ネットで調べてもまったくヒットしない謎の機械。
「珍しいものが当たった」
と喜んでいたワースの目も次第に曇りがち。
車輪が4つついてて、操縦席もある円状のこの機械。キーを捻れば、発車のはずが、寝てど暮らせど動かない。
しびれをきらしたワースは、
「こんな不良品送るな」
「懸賞に文句いうな」
と逆に切れられて終了。
らちがあかないワースは、やがてこの機械に興味を失った。
「フアンズいるか?」
フアンズに押し付けようとするが、日ごろ、ワースから、ろくな贈り物をもらったことのないフアンズは警戒心たっぷり。
何か裏があるんじゃないの? と勘ぐり、あっさり拒否。
裏もないけれど、ろくな贈り物でないことはたしか。粗大ごみ同然のモノなんだから。
でもフアンズ、不意にこのマシーンに触れることになる。いつものように庭先でぼーとしていたフアンズ、その虚ろな視線が、ある物体に定まる。
「いつから、あんなデカイのあるんだ」
注意力散漫、空間把握力の欠如が著しい君が、気がつかなかっただけで、ホコリをかぶったこの機械は、狭い庭先で、大きな顔をしてだいぶ前からある。
「なんだろう…車のようで車でもない」
ちょっと興味の持ったフアンズ、とりあえず操縦席に乗ってみる。放置しっぱなしのこの機械。席にも、みっちりとホコリが敷かれているが、フアンズは一向に気にせず、着席だ。
免許のないフアンズ。無免許運転の罪が頭にちらつくが、庭先は私有地と結論して、この機械を動かしたい衝動に駆られた。
鍵穴があるけど、キーがない。キーがあるけれど、スイッチらしきものはない。不思議な機械。
ちょうど帰宅するワースに、一連のフアンズの行動が目に止まって、ワース、いつもの、からかいを始める。
「お前に動かされるわけがない」
自分が動かせぬものを、何もかも劣る弟がどうして動かせるといいたげの物言い。
「やめとけ」
フアンズは自転車運転でも、この年で、すっころぶほど鈍い。運動神経はそれなりながら、意識に欠けるのである。
「もし動かせたら、今月のバイト代、全部やるよ」
そういわれちゃあ、フアンズ、意地でも運転したくなる。
それでもキーもなければ、動かしようがない。そのキーのありかというと、ワースの部屋のどこか。
だが、フアンズ、諦めきれない。家庭教師として高額の給料を稼ぐワースのバイト代の魅力は捨てがたい。
「見てろ、ワース…。動け、動け…」
あら、不思議。 強い信念が、機械に伝わると、エンジン音もなく機械は浮いてしまうのだ。
ワースも、これにはびっくり仰天だ。機械が動いた事実よりも、動かしたフアンズの底知れぬ素質に恐怖を覚える。
「またアイツやりやがった」
時に見せる弟の奇跡が、ここでも飛び出たのだ。
ワースは、その後、こっそりとこの機械を運転しようと、とフアンズがつぶやいたように、
「動け」
と念じるが機械は微動だにしない。どうやら、フアンズだけが運転できる機械のようだ。ただし運転出きても、乗りこなせるかは別。
暴れ馬に乗ったように、制御が効かないこの機械を、乗りこなせるには相応の努力が必要のようだ。日頃から、努力などしたことがないフアンズが、すぐに投げ出したのはいうまでもない。
この機械には名前すらなかったのだ。説明書きがなければ、機体のどこを見ても、名前に関する手がかりはない。
そこで兄弟仲良く名前をつけようとなったのだが。
「ビッグレッドマシーンと名づける」
「勝手に名づけるなよ。オレの機械だぞ」
「当てたのは、オレだ」
機体のどこにも赤を使っていないマシンを、どうしてこう名付けたのかワースのセンスが疑われるが、謎のマシンの呼称は、所有者であるワースの一存で決まった。
どこまでも権力を行使する兄である。
「BRM…。乗りこなせるようになったのか…」
ワースは、さらにこう略すが、フアンズはそのセンスが気にくわず、勝手にこうよんでいる。
「動け、ビレドマシン!!」
「アトリのように軒先につっこめ」
どこまでも弟の成長をやっかむ兄の願いは通じず、フアンズを乗せたビッグレッドマシーンは快調に発進する。
「あいついつのまに…」
ワースは、フアンズの影なる努力を勝手に思い浮かべたが、フアンズは特に何もしていない。
運転自体、初乗車以来なのだから。
「まただ。どうしてフアンズは時にとんでもないことをするんだ…。アイツなら想造魔銃剣士に一発でなっても…。いやありえないね…ありえない…」




