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優柔不断なフアンズ

「……」

 ひくな、フアンズ。これでもアトリは、ひとつのモノに没頭する熱中青年なんだぞ。

「今からですか…?」

 お前は、なんのために家を飛び出したんだ。想造魔銃剣士試験会場に向かうためだろ。

「フアンズ、お前試験受けた事ないんだっけ? いいぞ、想造魔銃剣士試験は。まず堅苦しい事がないのがいい。いつでも気軽に、証明書一つで受験できるんだ。常連さんと妙な親近感を共有できるし、かっこうの時間つぶしにもなるしな」

 やっぱり、アトリお兄さんもお暇なんだ。暇つぶしに毎日受験しているんだ。

「娯楽施設と取らえるのもいいぞ。試験は、毎日、変化があって、受験者を飽きさせない。パチンコやつまらない映画で時間潰すより、よほど有意義だ。さあフアンズよ、未知なる喜びの世界に足を踏み入れよう!!」

 まるで悪徳セールスマンみたいにきれいごと並び立てるね、アトリ兄さん。

 フアンズみたいな自宅内浮浪者は、友人が作れるとか、この手のうたい文句に弱いのだけれど。

「…そういわれると楽しそうなような…」

 アトリのこんな真偽不明のセールストークに、ホダられてしまうフアンズって人がいいのか、気弱なのか。

 まったく、コロコロ移り気だな。行くのか、行かないのか、はっきりしろといいたい。

「どうしようかな」

 確固たる新念があって飛び出した末に、その気がすぐに萎えたと思ったら、また検討モードですか?

「失敗してもいいじゃん。恥ずかしいこともない。初っ端で受かる奴なんて誰もいないんだぞ。経験値積むと思えば悪くないぞ」

「よし…」

「行くのか? 行くのなら、オレのバイクに乗せててやるぞ」

 フアンズ、アトリのバイクと聞いて、また尻込みし始めた。

「アトリさんのバイク…」

 それもわからないでない。なぜなら、ワースが日頃から、アトリの運転の荒さを嘆いているのだから。

 いや、ワースの言葉を借りずとも、アトリのバイクに目をやれば、おのずとそれは分かる。

 アトリのバイクは全体傷だらけで、ツギハギのような補修があちこちに施されているのだ。

 そんなアトリのバイクに二人乗りなど、危険すぎる。気弱なフアンズでなくとも、ためらいを見せるだろう。

「二人乗りはちょっと…」

「そうか? お前もワースみたいなこというな。あいつも、最近、オレの後ろに乗ってくれないんだよ。どうしてだろう…」

 アトリは、自分の運転の粗さが、ワースから遠ざけられる要因であることを、まだわかっていない。

「あ、そうだ。オレ、待ち合わせしてる人がいるんだ。その人、ちょっとせっかちできっちりとした人でさあ。ちょっとでも遅れると、カンカンに怒って、面倒くさいんだよ。それじゃ、フアンズ、試験会場で会おう。先に行ってるぞ。お前が、楽しい試験地獄に一歩を踏み出すことを祈ってるぞ」

 アトリは、そういうと早速バイクに乗りこんだ。ヘルメットをかぶる。キーを入れる。ハンドルを握る。エンジンを吹かす。アクセルをめいっぱい踏み込む。

 人の庭でもお構いなしに、発車からトップスピード。

 ロケットスタート!? って狭い庭で大丈夫?? 運転荒いんでしょ??

「あ」

 そして、やっぱりこける。

 どーん。

 庭先の木の塀に頭からつっこんだのだ。

「よかった、同乗しなくて…」

 アトリはそれでもめげずに、バイクを立て直して、発進する。多少のトラブルにメゲないアトリの精神的強さは、気弱一本槍のフアンズにとっても見習うところもある。

「オレも行くかな…。失敗するのが普通と聞いて、ちょっと気が楽になった」

 なんだい、フアンズ。そんな誰でも知ってるような情報さえ把握してなかったの? 想造魔銃剣士なんて初っ端で受かるなんてまずありえないよ? 百年近くに及ぶ想造魔銃剣士の歴史でも、一発合格者なんて、片手で数えられるくらいしかいないんだから。それも、当代きっての大天才ばかりなんだ。エリートといわれるものでも、だいたい50回は受けないと通らない、それが普通のなんとも厳しい試験なんだ。

 こんなこと想造魔銃剣士n志願者にとって常識だよ? それさえ知らずに、想造魔銃剣士志願とは、まったく呆れるね。

「バスで行こうかなあ」

 また振り出しに戻るのか、まったくもどかしい奴だぜ。

 免許がないフアンズの移動手段は徒歩かバスしかないんだから心を決めろよ。えっちらほっちら歩いていったら、日が暮れるよ。バスしか選択肢がないじゃないか。

「そうだ…あれ使ってみるか…」

 あれ? あれってなんだ

「ビッグレッドマシーンを…」

 え、それ使うの??

「バス代がもったないからなあ、往復で500円はちょっと勿体無い。あれならタダだ…」



 ワースがフアンズに気づかれぬように、こっそりと物陰からフアンズの動向を見守っている。

 フアンズの優柔不断な態度をせせら笑ったり、もどかしがったりしていたワースが身構える。

「ビッグレッドマシーン…BRM…。まさか、あれを使うとは…」


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