前に進めよ、フアンズ
家を飛び出たフアンズは、その勢いそのままで、試験場に向かっているはずだが…。
なんだ、まだのたのたと家の軒先にいるじゃないか。どうした? もうおじけついたか。
「バスで行こうか」
なんだい、交通手段に頭を悩ませていたのか。
「それともここで佇むか」
それはないだろ、フアンズ。高校卒業以来、ぶらぶらとしてと叱咤されるフアンズであるが、このフアンズが住む波乱のない町は、暇人に適当な暇つぶしを提供しない。
特に趣味のないフアンズに、行くところなんてもうないのだ。(ゆえにぶらぶらとしているという表現より、ぼ~としているというが近い)
だから、こうしてただ佇むのが日課になりつつある。外の空気を吸うと心が真っ白になるたちのフアンズにとって、佇むという行為は、麻薬に近い。
こうして一時間も佇むと、一日を過ごした錯覚に陥り、それから寝るまで、何もしないでだらだらと過ごす毎日を送っているのだ。
こうして瞑想にふけるフアンズは、まさに迷走しているといってよく、想造魔銃剣士試験に向かうことなんてきっと忘れてしまって、このまま無駄な時間を消化させる危険性もある。
「ふう…。風が心地よい。すごしやすい気候だ。適当に雲が、太陽光を遮断しているのが逆にさわやかさを増している」
蓄積されたデータから、風を知り、雲の動きを予測できるフアンズは、まるで百葉箱である。
「めんどくさくなってきたなあ」
おい、フアンズ。さっきまでの威勢の良さはどこにいったんだ?
想造魔銃剣士認定を持ち帰えり、ワースをぎゃふんといわせるんじゃなかったのか?
「明日にしようか」
先送りは危険。この場合の明日は、えてして、いつまでも訪れない。
「今日は日が悪い」
どうして? すごしやすい一日と自分でいってたじゃないか?
「あ~あ」
フアンズは思い切りのびをした。
このまま家に帰らんばかりの勢いだ。家に帰ったらどうする? ワースの嘲笑が待ち受けているんだぞ。フアンズは、ワースを避けるようにして、部屋まで行き、そこでただただ時間の経過を待つ一日を送るのかな。
「よお、フアンズ」
フアンズを呼びかけるものがいるぞ。誰だ?
「ワースいるか?」
なんだ、ワースの友人か。
フアンズは、首を横に振り、何も言葉を発しない。
ずいぶんと、つっけんどんじゃないか? ワースと口論の末に飛び出たからって、友人には優しくしろよ。
「呼んでこいよ。一緒に想造魔銃剣士試験に行くぞって」
「想造魔銃剣士? うちの根性なしの兄は、もう諦めましたよ」
「まあ就職先も見つかったワースにとって、想造魔銃剣士の深追いは危険だよな…」
このワースの友人、名をアトリという。
ワースを想造魔銃剣士試験に誘うのは、なにも珍しいことではない。
フアンズが時おり、うんざりとした顔を見せるのは、アトリのしつこさに呆れているからでもある。
アトリの受験癖は、すでにマニアの域に達しているのだ。
「ほら、みろ、フアンズ。スタンプカード、あと一個で景品もらえるところまで来たぞ。記念Tシャツ貰えるんだぞ」
カードにはんこが押されるのは、一回の受験に一個。
「100個でTシャツっていうのもどうかと思うけどな」
つまり、アトリは今日、記念すべき100回目の受験を迎えるのである。
「毎日受けれるなら、毎日受ける。これ基本」
想造魔銃剣士試験は、なんと毎日あらゆる場所で行われているのだ。
アトリのような想造魔銃剣士試験廃人が、社会問題化しているのも無理はない。
「今日で連続30日目。回数だけじゃなく、連続でもなんかもらえるそうだぜ」
しかも連続30日目ときた。アトリよ、余計なおせっかいになるが、一度、自分を見つめ直しから、改めて試験に立ち向かったほうがいいのではないか? このままでは落ちにいくと同じだぞ。。
「なら、フアンズ行くか? ワースが連れないから」
おっと、これは思わぬ展開だ。足が前に出ないフアンズにとって、 ていのいい後押しがきた?




