無駄金食いの公務員登場
「この辺りよ。注意して、フアンズ」
「注意しろっていわれてもねえ…」
スピードを落として、辺りを伺いながら操縦するフアンズであるが、その時、トラブルが起きた。
「あれ止まっちゃった」
これまで実質初の操縦とは思えないほど、順調な運転ぶりを見せていたが、ここに来て問題発生。
「どうして、動かないんだ…。おかしな、強い意思があれば動くはずなのに…」
「もううすらとんきちねえ…」
「そういうポランコがあっちこっち行かせるから、マシンもやんなっちゃったんじゃないの?」
原因は、マシンの不調でも、フアンズの精神力低下でもなかった、その原因は…。
「うわあああ」
「きゃああああ~~」
突然、後方に傾くマシン。よろける二人、いったいどうした?
「よお、久しぶり…」
「そ、その声は…」
「見せつけてくれるぜ…」
マシンの機体を後ろから羽交い絞めして、進行を防ぐとんでもない超弩級のパワーの持ち主の正体は…。
「お前だったのか、大男の正体は…」
「ふん、なんだその大男って、オレを不審人物みたいにいいやがって」
「十分、不審じゃないか。山間で潜んで、人を襲う山賊まがいなことしてて…。同級生として恥ずかしいぞ」
あらら、本日三人目の同級生とばったり。狭い町が悪いのか。外へと飛び出さず町にこもる若者が問題なのか。昼間からぶらぶらする若者はろくでもないのか。
「フアンズ、お前よりはマシさ」
「ノラスコ、この機体を持ち上げるなんて、相変わらずバカ力だけはあるんだな」
「え? え? ええええ? この声、ノラスコの声なの???」
「そうだよ、気がつかなかった」
「きゃあ~ ノラスコ。きゃあー、お久しぶり~」
「今のノラスコは敵かもしれないのに、その歡迎っぷりはなんだよ」
「あらそうね」
「ノラスコ、お前はこんなところでなにやったんだ? 大方職にあぶれて、山賊のまねごとか」
「け、考えなしのお前と一緒にするな。オレは立派な…おっと…こうして会話を交わすのもなんだな…」
ノラスコは、持ち上げてた機体を地面に下げた。
「よいしょっと…」
ズーン、地鳴りのような音がして機体が地面に落ちる。
「正面で顔を交えて話そうや」
「まさか、ノラスコとの再開がこういうい形になるとはねえ…。一方は、女の子とのドライブを楽しむ。もう一方は、賊に堕ちて、金品巻き上げてのその日暮らし…。いやはや中学の友人にこんな姿で逢いたくなかったなあ」
「何いってるんだ、フアンズ。オレの現状をなんだと思ってるんだ」
「だって、お前も職なしだろ? 進学する頭もないし」
「はい? これみろ、これを」
「なんだよ…」
ノラスコの胸元に光るのは、この町のシンボルを形どったピンバッジ。
「は? だからなんだよ、それも戦利品か」
「かっかかか! ばーか! これは公務員の証左だよ。オレはきっちりと道なりを踏んで公務員になったのさ!」
「ぎょ、お前が公務員…意外だ」
「こうして用心棒となり、日々町の平和を守っているところだ…。力と献身にあふれる重戦士のオレにとって適職だね」
「用心棒? この町は、紛争のない街だぜ。何も起きない。くそつまらん町。そんな町でどんな需要があるんだよ、用心棒の重戦士とやらは…」
「たくさんあるじゃないか。まずそこの横断歩道だ。いまどき押しボタン方式だから、まごつくご老人、子どもがいたら駆けつける」
「それから」
「強い雨風が吹いたら、砂利が道に広がる。それをえちらほっちらと片付ける。一見単純な作業に見えるが、やってみるとやっぱり単純」
「それから」
「……・」
「他にすることないのか。やっぱり税金泥棒だな、公務員とやらは。そんなもんボランディアでやれ!」
「なにをフアンズ! そういうお前はなんなんだ…」
ところでポランコ、会話に加わらずどうしたかと思いきや、くーか、くーかとかわいい寝息を立てて寝ているのであります。
「そうだ! ポランコ! なんでフアンズがポランコとくっついているんだよ!! さっきメールが来てたまげたぞ! くそ!!」
「はい…呼んだ?」
ポランコさん、おはよう。
「別にオレはポランコが好きだったわけでもない! チココ派だったからな! だけど腹がたつことにはかわりはない! ニートでホモのフアンズに、汗水たらして働くこのオレが先をこされるなんてあってはならないんだ!!」
「そう怒んなよ。別にたまたま乗りあせただけだから!」
「そんなことはどうでもいい! とにかくオレはお前を逮捕する!」
「なんだよ、いきなり…逮捕するって、オレ、なんにもしてないじゃん」
「ノーヘル」
「あ」
「ノーシートベルト」
「あ」
「こりゃもう逮捕だ」
「そんなんで逮捕されてたまるか! 第一オレは車を運転しているわけじゃない。これは車じゃなくて機械なんだ! BRMっていってね、生意気な兄がつけた名前だけど…。自動車保険も払ってなくて、車検もいらずで、何が車だ! だから違反じゃないぞ」
「うむむ、屁理屈こねやがって…。お前が何の違反も犯していなくてもどうでもいい! 公務員の裁量でお前を逮捕する!」
「そんな裁量あるかい…。いいぞ、ノラスコ…。久しぶりにやるか」
フアンズはマシンから降り立つ。
「いいぞ。暇を持て余してたところだ」
「公務員が、勤務中に喧嘩とはね…」
おい、フアンズ。君のような軟弱者がノラスコのような馬鹿力男に勝ち目があるの?
「ここまでの戦績はちょうど、5勝5敗の五分、決着と行きましょうか」
あらら、結構勝ってるのね。




