何も履かない女と謎の大男
「じゃあねええ~」
ポランコが軽快に別れの挨拶をする時、リンスカムは木にくくられていた。
私刑執行で気の済んだはずのポランコであったが、リンスカムが、マシンに乗り込むポランコを下から接写しようとしたから、さあ大変。
かわいいミニのスカートを履いたポランコは、そんな写真を撮られるがままにいられるわけがない。
七発の『ボルケス』が飛び交って、リンスカムを黒焦げにしただけで気がすまず、ついにはリンスカムを、ぐるぐると縛って木にくくりつけたのである。
「ふう…。このくらいにしておこうかしら」
「ポランコ、お前、これで今日、何発ボルケス唱えた? 優に10発は超えているぞ。それで魔力が切れないなんて。相当、魔力携えているんだなあ…」
フアンズが感心するように、こうみえてポランコは優秀な魔力の保持者なのである。
リンスカムはそれでもメゲない。
「カメラないと死んだといっしょでしょ」
とのポランコの裁量によりカメラだけは無事だったのだ。
体の自由は効かないが、手だけは動かせれるリンスカム、執念深く、カメラの画像チェック。なにせ、ポランコの下からの接写画像が納められているのだ。
ハアハアドキドキ、鼓動が荒くなるのもムリなからずか。
「残ってる、残ってる…。さてさてポランコのパンツの色は…。え! あ! これは…」
リンスカムの見た驚くべき画像とは…。
「ははははは、はいねええ…」
だからといってリンスカム、この画像をばらまくほど、鬼畜じゃない。永久保存のフォルダに画像を移すと、青空を輝かしい顔で見上げた。
一方フアンズ一向は…。
「このへん注意したほうがいいわよ」
「え、なんで」
「奇妙なおおおおとこがでるって噂なのよ」
「おおおとこだろ?」
「え、おおおおおおとこでしょ」
「さっきより、おが増えてるぞ。おおとこだろうが」
「あんたは、減ってるわよ。おおおおおおおおおおおおとこが出没するの」
「もういいよ…」
ポランコが伸ばすアンテナはどんな些細な情報も拾い上げる。
高速インターの出入口、町の外れのこの辺りに、妙な大男が出現するという噂が立っているのだ。
夜な夜ななら、出歩かなければすむが、問題は昼間っから出現すること。昼間の外出を控えるわけにはいかないから、どうしたって遭遇してしまう。
それでは、この大男と出会ったとされる38歳、二人の子持ち主婦の意見を聞いてみよう。
「いきなり物陰から出てきてびっくりしたけど、それが良い人なのよ。何かご都合の悪い点はありませんか? って丁寧に接してくれて…」
なるほど、大男には優しい一面もあるのか。それとも金目のモノがないと見切りやり過ごしたのか。
では、次に銀行からおろしたばかりの大金の入ったバックを持ち歩いていた初老の自営業の男の意見も聞いてみよう。
「いやあびっくりしたねえ…風貌が風貌だけに、強盗犯と思ったら、家までお運びしますよって護衛を買ってでて来れたんだ。なに? 不審に思わなかったかって? そりゃ最初は警戒したさあ。でも、アレを店られちゃあ信用しないとならないよねえ…あたしなんかみたいな年寄りはさあ」
このとおり、山間に潜み不意をつく大男の割にその評判はかねがねいい。しかも信頼に値するジッブウであると、初老の男性は語っている。
さあ一体全体何者なの、この大男の正体は
「この辺りよ。注意して、フアンズ」
「注意しろっていわれてもねえ…」
スピードを落として、辺りを伺いながら操縦するフアンズであるが、その時、トラブルが起きた。
「あれ止まっちゃった」
これまで実質初の操縦とは思えないほど、順調な運転ぶりを見せていたが、ここに来て問題発生。
「どうして、動かないんだ…。おかしな、強い意思があれば動くはずなのに…」
「もううすらとんきちねえ…」
「そういうポランコがあっちこっち行かせるから、マシンもやんなっちゃったんじゃないの?」
原因は、マシンの不調でも、フアンズの精神力低下でもなかった、その原因は…。
「うわあああ」
「きゃああああ~~」
突然、後方に傾くマシン。よろける二人、いったいどうした?
「よお、久しぶり…」
「そ、その声は…」
「見せつけてくれるぜ…」
マシンの機体を後ろから羽交い絞めして、進行を防ぐとんでもない超弩級のパワーの持ち主の正体は…。
「お前だったのか、大男の正体は…」
「ふん、なんだその大男って、オレを不審人物みたいにいいやがって」
「十分、不審じゃないか。山間で潜んで、人を襲う山賊まがいなことしてて…。同級生として恥ずかしいぞ」
あらら、本日三人目の同級生とばったり。狭い町が悪いのか。外へと飛び出さず町にこもる若者が問題なのか。昼間からぶらぶらする若者はろくでもないのか。
「フアンズ、お前よりはマシさ」




