フアンズは右で左で剣を使う
「まったく昼間からカメラを担いで、こそこそぱちぱちって・・・親御さんが見たら泣くわよ」
「ほんとそうだよな、リンスカム、お前ニート?」
「お前らだってどうせニートだろうが?!」
「ポランコは地道にこつこつ、オレは夢見る少年だぜ。お前と一緒にするなよ・・・ふふふ」
「フアンズ、お前が夢見る少年だって? 笑わせるな、お前の写真いくらでもあるんだぞ。どこが夢に目を輝かす少年だ、こら」
リンスカム、フアンズの隠し撮りアルバムも持っている。
アルバムの中身を拝見させてもらうと、あらリンスカムのいうとおり、町を虚ろな顔で徘徊するフアンズの数々の所業が納められる。
「この目の輝きが裸電球ていどの男がどこに夢をぶら下げているんだ?!!」
「この暇人が! いつのまにそんな写真の数々…」
「うるせい、お前も暇人だろうが」
見事な同族嫌悪です。
「で、こついのどう裁くかな、ポランコ裁判長」
「そうねえ、被写体のプライベート姿を無断に写真に撮って、それをばらまくって、卑劣で俗な行為だけど、あたしにもフアンズにも精神的被害も金銭的損害もないから、まあ無罪ってとこかしら」
「え?!! 無罪!」
拍子抜けのフアンズ。
「そりゃないよ、裁判長。あなたの最大魔力の『ボルケス』で丸焼きの刑を下してくださいよ!」
「へへへへ、間抜けで助かったぜ」
「それはそうとあんた、ちょっとその手垢まみれのカメラを貸してちょうだいな」
「は? なんでおめーの貸さないといけないんだ」
「あら、中学時代の高嶺の花の頼みが聞けないなんて、あなたそれでも下流に位置して身分?」
「へん。オレは、ミス中学にお前じゃなくて、チココにいれたんだぜ。チココの頼みなら聞いたけど、二位の頼みなんぞ、きかんぜよ」
「あら、あんたもチココ派の一人だったのに…へえ・・・フアンズと同じじゃないの・・・」
「うん、お前も、チココに入れたくちだったのか? お目が高いなあ。ポランコ派も相当いたけどよ、チココの完璧なる清楚には、がさつなポランコなんぞくらむ存在よ。で、そのチココ派のフアンズがポランコとじゃれ合うなんて、どういう風の吹き回しだよ。ふはは、妥協した? 人気の落ちるポランコで妥協した?」
「まあ、失礼ね、この男。ポランコ裁判官が判決を下します。フアンズ検察官、やってしまいなさい」
「オレが? ポランコが罰を下してよ」
ためらうフアンズにポランコは実力行使だ。
「ボルケス」
「あっちあち」
小さなボルケスをフアンズのシートに放ち、熱さに耐えかねたフアンズ、思わずマシンから出てしまう。
「ほら、男でしょ。基本魔法すら使えないろくでなし人間でも、リンスカムていどなら、倒せるでしょ」
ポランコは、フアンズに直接攻撃を促すが、元来、気弱な性分であるフアンズは…。
「え? でも、直に殴ったり蹴ったりするのは、気がひけるなあ」
うじうじするフアンズの背中を、ポランコが文字通り、押す。
「ほら」
「おっとと…」
不意に押されたフアンズはよろけてしまい、リンスカムにゴッツンコ。
悪い偶然が重なって、フアンズとリンスカムの唇が触れ合ったから、さあ大変。
「うへ」
「気持ちわりい」
二人は、すかさず唇を離したが、ポランコは満面の笑みを浮かべている。
「いいの撮れたわ~」
ポランコ所有のケータイカメラでこの場面をばっちりと収めたのだから、さあ大変。
「あ!」
「どうするつもりだ、ポランコ」
「どうもしないわよ、ただリンスカムのしたように、みんなに送るだけ~」
と迅速な作業で、あっというまに接吻画像を添付されたメールを送信。
「あ! なにするんだ、ポランコ!!!」
これにはフアンズも慌てふためく、リンスカムへの私刑執行のはずが、自分もとんでもない不利益を被るのだから、当然か。
「そんなホモと疑われる画像をばらまいて、オレの評判が地に落ちたらどうするんだよ!!」
なにもしない毎日を送るあなたは、すでに世間の評判は地に落ちています。
「そんなの知らないわ、これ見てどう思うかは受け手の自由よ~」
真っ赤な顔で怒るフアンズと違って、リンスカムの様子がおかしい。真っ赤な顔は、同様ながら、どうしてそれは照れた顔であるのだ。
「男もいいかも…」
おいおい、リンスカムが女を知る前に男に目覚めそうだよ。
衝撃スクープ第二弾とうたってばらまかれた、この画像。誰の心を揺さぶるか。
さあそれは、第一弾のスクープと同じ。
「今度は、フアンズがリンスカムと接吻!! フアンズ両方いけるのかちきちょー。ますます許せない」
だから誰だよ、お前。




