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想造魔銃剣士への道

「よ、ニート」

「ニートじゃねえって」

「じゃあなんだよ」

「兄貴だって、毎日家にいてニートみたいなもんじゃないか」

「バーカ、大学生というのはそういうもんだ。単位が取れさえすれば、緩やかな時間が保証される」

 フアンズの実兄ワースは、一級大学に通う4回生だ。必要単位も取り、進路も定まり、後は卒業のその日まで、だらだら過ごすことがゆるされている身なのである。

 それに比べて、フアンズときたら…。

「オレは…」

「オレはなんだよ。高卒無職だろうが。職もつかず勉強の意欲もないお前のようなものをニートと呼ぶんだ」

「オレ…」

 さあ、困ったぞ。適当に取り繕って、この難局を乗り切るんだ。

「オレには…」

「夢なんてねえだろ。しかしよ、お前だって、一応、平均的平均点スクールを卒業出きたんだろ? なんとかお情けで、出席率がいいからって但しつきがつくけどねえ」

「オレは想造魔銃剣士になるんだ」

「ほおう…」

 想造魔銃剣士になることは、この世界の秩序において成功を約束されたに正しい。

 力があり、速さがあり、強い心があり、それでいて清く正しく、剣と魔法と格闘に秀でた者だけがなれる想造魔銃剣士は、世の若者の憧れの的である。

 生意気ながらエリートのワースだって、想造魔銃剣士を夢見た身。であるが、現実派であるワースは、いつまでも、いたずらに夢を追いかけないのだ。

 一度だって、ワースとの兄弟喧嘩に勝ったことのない劣等生フアンズが、もしも想造魔銃剣士になれたなら、その立場は一気に逆転する。

 フアンズは、一躍、世にあまたといるダメ人間候補生の希望の星となるのだ。

 が…。

「ほお~ 並大抵の努力じゃなりないぜ」

 努力? フアンズには、努力が足りているのかな?

「毎日、昼過ぎまで寝て、起きたと思ったら、朝飯と昼飯を信じられないほど短い間隔で食ったと思ったら、近くの古本屋で夕方まで、漫画を立ち読むする男がどうして努力してる?」

「……」

 フワンズは、ワースの嫌みったらし追い込みに、思わず言葉を失したけれど、夕方からだよね。薄暗くなって、集中力が増す、その時こそ、君の努力の時間だよね?

「夕方からやってるさ…」

 どうして、そこで弱気な言い方をする? それじゃあ夕方からも何もしてないみたいじゃないか。

「夕方から? ほお~」

 ほら、フアンズの通信簿をのぞいては、陰湿な笑みをうかべるワースは、チクチクと攻めて来たぞ。フアンズがよけいな弱みをみせるからじゃないか。

「夕方から部屋でコツコツと」

「ふ~ん。たしか、想造魔銃剣士試験のテキスト代を、母親にねだったよな?」

「……」

 だから、どうしてそこで言葉につまるんだ。丸腰で戦場に立っているようなものじゃないか。

「そのテキスト代でせしめた2000円が、何に消えたかオレは知ってるぜ…。テキストもないのにどうして勉強出来る? 想造魔銃剣士試験は、特殊性の強い試験だ。テキスト購入こそが合格の道といわれているのに、どうやって勉強するんだ?」

「ネット…」

「ネットか。ネットで勉強して合格できてれば、誰も大金払って想造魔銃剣士対策スクールに行かないよな?」

「くそ、なんでも見破りで」

 フアンズは夕方になると、ネットに張り付くのだ。

君も想造魔銃剣士になれる! なっていうそれらしきホームページをブックマークしているけれど、ろくに開かないんだぜ? すぐ自分の好きなジャンルのホームページに目移りしちゃってさあ、君も想造魔銃剣士になれるページは、心構えまでしか読み進んでいない。

 1、中卒、高卒で人生に絶望する、そんなあなたでも、想造魔銃剣士になれる!

 2、無資格、無教養、無自覚でも大丈夫。それでも慣れる想造魔銃剣士への道をこっそり紹介!?

 楽をしたいフアンズはこんなページを読んでは、人生の一発逆転に胸をときめかせているんだ。

 ああ、これはもう末期症状だ。何になるにしても楽に成れる道はないのに、どうして、フアンズは騙される? しかもだよビックリマークの後に、クエスチョンマークがついているじゃないか? 情報発信してる方も、半信半疑で自信がない証拠じゃないか。

 1のハッタリはまだしも、2の無資格、無教養も許すとしても、無自覚はアウトじゃないか? フアンズはよりによって、どうして、このホームページをブックマークしているんだろう。

 ワースがブックマークする想造魔銃剣士対策ページとは大違いだ。

 働きながら想造魔銃剣士になれる方法!

 仕事と勉強を両立し晴れて想造魔銃剣士になれた◯◯さんの体験談!

 いやあ~死ぬ気で取り組みました。睡眠時間、二時間、三時間は当たり前、時には、気づいたら朝。寝ずに仕事に出かけましたよ。

 想造魔銃剣士のハードルの高さが、伺い取れるページである。

 このように努力なしで成功はない想造魔銃剣士試験。

 それでどうして、フアンズは想造魔銃剣士になれる?

「その成果を身せてやるよ!!」

「へえ」

 フアンズは根拠のない啖呵を切った!!

 それでもワースは冷静だ。この程度の口から出任せのハッタリには、びくともしないぞ。

 フアンズには過去がある。

 ワースと共有するその過去は、フアンズの記憶装置の奥底に鍵をかけて厳重に保管してある痛すぎるもの。

 フアンズの切っていた啖呵がすべて現実になっていたら、今頃、フアンズ、想造魔銃剣士当然として、世界の支配者になっているのだから。

「いいか、フアンズ。頭を冷やせ。生きる道が見つからなくて、焦る気持ちはよく分かるが、お前はまだ19歳だ。地道に取り組めば、きっと心地よい人生が待ち受けていはずだ」

 おっとワースは嫌み一辺倒だけではなく、弟思いの一面を見せたぞ。ワースはだからできた兄と、近所で噂されるのだ。

 だからフアンズは兄との対比で、より損をするのだ。

「いーだ」

 フアンズは兄の見せた一片の優しささえ汲み取れない。いつまでも子供のフアンズは、かたくなに兄のいうことを聞こうとしない。

 ワースが、地道にいけといえば、ひねくれたフアンズは、いばらの道を取るのだ。

 もちろん、フアンズに勝算はどこにもなく、ただ毒にやられてのたり死ぬために行くようなものだ。

「目にものを見せてやる!!」

 フアンズは、家を飛び出した。

「まったくアイツは何時まで経ってもああだぜ…」

 ワースはため息を漏らすのだが、そのワース、ひそかにフアンズに恐怖をいだいている。

「でもアイツはやりかねん…。時に奇跡を起こす奴だ」

 ワースに何もかも劣ると思われるフアンズであるが、稀に見せるフアンズの可能性の断片をワースは何度も見てきた。

 その一つを紹介しよう。

 あれは、ワースが15歳、フアンズが12歳の時の夏休みのこと。二人だけでキャンプに出かけた先でとんでもない目にあったのだ。

 ワースとフアンズの寝所が、野犬の群れに見つかってしまったのである。

 いくらワースが追い払っても、襲いかかる野犬の群れに、このままでは食い殺されると覚悟したワースであったが、その時、奇跡が起こった。

 まだ小学生であったフアンズが、ならってもいない火炎魔法『ボルケス』を唱え、炎の勢いで野犬を追い払ったのだ。

 不思議なことに、フアンズがボルケスを唱えれたのは、それ一度切り。(初期魔法であるボルケスは、フアンズの出た高校の必修科目。なんとか使用可能になったが…)

 まさに窮地に飛び出た、フアンズの火事場の馬鹿力であった。

 それを皮切りにフアンズは、時おり奇跡を見せてきた。

 ワースが、フアンズに対し優越感を持ちながら、密やかな脅威を感じるのはそのためである。

「いけね、忘れた」

 どこに目的があって飛び出したわからぬフアンズであったが、忘れ物を取りに戻ってきた。

 ワースは、今のひとり言をフアンズに聞かれてはいないか、気が気でなかったが、無頓着のフアンズ、聞き耳を立てるほど抜け目がない奴じゃあない。

「証明書…。証明書…。個人証明書」

「証明書がどうしているんだ!?」

「想造魔銃剣士試験を受けるために決まっているじゃないか」

 想造魔銃剣士試験は、そんなに気軽に受けれるものなのか? それは後述する。

「はあ? だから何度もいってるだろ。無茶はやめろ。努力したものだけが…」

 フアンズは、ワースのひとり言に耳をそばだてなけれな、お説教も聞いちゃいない。

 証明書を引き出しから見つけると、さっきより勢いをつけて、部屋を飛び出した。

「想造魔銃剣士受けるのか…」

 なんの努力も勉強も対策もしていないフアンズが合格する可能性は、限りなくゼロ。だがゼロと云いきれないところが、フアンズに潜む潜在能力なのである。

「立場逆転…まさかね…」

 それは、フアンズの数々の奇跡を見てきたワースが一番よく知っている。

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