口下手ラブレター
君のかわいい顔が好き。
心をくすぐるようなかわいい声とか、咲った時の口許の美しさとか、ふわふわしたかわいい雰囲気も、一人称が「ぼく」なところも、むっと拗ねたような表情も、どや顔だって、ぜんぶ好きだ。
僕を見る目の愛らしさに、僕の名を紡ぐ声の愛しさに、どうしようもなく嬉しくなってしまう。
君の歌声を聴いてみたかった。下手でもなんでも、きっと好きになるよ。
君がかわいいところを見せようとしなくても、僕は勝手に君のかわいいを見つけるよ。かわいくないところも見せてくれ。
すべての歯車が動きはじめたのはいつだったのか。好きになるつもりなんてなかった。ただ、可愛らしい人だなと見蕩れて、いつかそういえば可愛い人がいたなと思い出す、それだけのはずだった。そうするつもりだった。それがどうだ、見事に落ちてるじゃないか。恋なんて何年ぶりだ。
人を好きになるというのは楽しくて同時に空しいものだ。楽しかったから、その分だけ悲しくなる。
恋というのは僕にはいつだってひとりのものだった。本当の意味で叶ったことはない。
99.9%望みがなくても、残り0.1%に期待してしまう悲しい人間なんだ、僕は。
君のやさしさに甘えてしまった。ほんとうのことは最初からわかっていたはずなのに、0.1%に期待してしまった。
君は僕のこころがどれだけ乱されているかを知らない。感情によってどれほど胸焼けしているのかも知らない。
だけど、どれだけ空しくても好きになったことにまったく後悔はない。楽しかったよ、ひとりで浮かれていただけでも。嬉しかったよ、君と同じ時間を過ごせただけで。
なのに僕は大事なことを言葉にできないまま、ただ見蕩れ、照れることしかできなかった。口下手は罪ではないが、遣る瀬ない。いつも言葉が出てこない。あるいは言葉の選択を間違える。わかってほしい。どんなときも君は素敵だった。
君は僕を見ていないね。見えてはいるけど、見てはいない。僕には君しか見えていないというのに。君には僕が薄ぼんやりとしか見えていないのだとわかってしまうのが切ない。
そして同時に、名前を呼んでくれるだけで嬉しいのだから、僕はちょろい。そして臆病なんだ。たったひと言さえ声にならないのだから。
こんな風に書いたら、もしかすると僕が好きな人の手のひらの上で転がされてるように思えるかもしれない。
でもほんとうは、転がされてるんじゃなくて、僕が勝手に転がってるだけなんだよな。
すべての始まりは結末を持っている。ここにあるのは簡単に直観できる未来だ。夏の終わりとともに君は姿を消すのだろう。予告された終末。僕はノアの舟には乗れない。
だから最後に、これだけを
覚えておいて 僕の孤独と自由はいつでも 君のもとへ駆けるためのものだってことを
この言葉は今、君のものとなる。一人称の物語はここで終る。
君はかわいくて素敵だ。君はおいしいものをたべて、好きなものに囲まれて、君が必要とする人がそばにいればいい。世界に君が望む幸せがあればいい。君の幸せが続けばそれでいい。