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金曜日の夜は、女子トークに花が咲く

作者: 鹿島涼

金曜日の夜、気の置けない女友達3人での女子会は、瑞稀のワンルームで始まった。

瑞稀初め、美緒も和穂も30歳を過ぎて自然とお酒の量は多くなっているけれども。

ビールを飲みながら、テレビを見ていた美緒が叫んだ。


「あ、加藤先輩!」


テレビに映し出されたバラエティー番組には、今最も人気のある加藤壮馬がゲストとして司会の質問に答えていた。

加藤先輩と美緒が叫んだのは、加藤壮馬が瑞稀達3人と同じ学校の、1歳年上の先輩だったからだ。

最近始まったドラマの番宣も兼ねているんだろう、スタジオでは終始笑顔で、和かに芸人のツッコミに応えている。


瑞稀が一気にビールを飲み干した。

「うぁー思い出してしまった..。学生時代の苦い歴史を。」


加藤壮馬は瑞稀と同じ吹奏学部で、瑞稀より1年上先輩だった。今でこそアクションまで幅広い役柄をこなす壮馬だが、昔は目立たない物静かな男子学生という感じだったのだ。瑞稀は壮馬とは話したことはなかったが、その優しげな物腰と美しい整った顔に、密かに憧れていた。だから卒業間近に告白を決意したのだった。


壮馬の新しい出演ドラマが恋愛物で、その繋がりからか学生時代の恋愛話に話が及んだ。

「壮馬さんは学生時代にも大層おモテになったんでしょう。何かモテエピソードってありますか?」


「いえいえ、自分は目立たない生徒で、全然モテなかったんです。

あ、でも一回だけ卒業式の前日にラブレターを貰いました。」


瑞稀は口からビールを吹き出さんばかりに驚いた。


「ちょっと、そのラブレター出した子って瑞稀でしょう!?」

美緒は瑞稀と和穂の顔を、交互に見ながら叫んだ。


壮馬はテレビでコメントを続ける。


「貰ったのは嬉しかったんですけど、差出人の名前がなくて..ただ校舎裏のハナミズキの木の下で待っています。と書いてあるだけでした。僕はハナミズキという木は知らなかったんです。ネットで調べて、ああ、こんな木かと分かったんですが、校舎裏の中庭には木が沢山あって...。不安なので、そこにいた生徒会の女子に聞いてみました。でもその子が教えてくれた木の下には誰もいなくて、悪戯だったのかなって思ってそれっきり。」


人気俳優の残念な恋愛エピソードに、司会者も芸人も総ツッコミだった。

壮馬はそれに懲りずに話を続ける。



挿絵(By みてみん)



「これには後日談があって。最近母校に仕事で行く機会があって、偶然知ったのですが、僕が下で待っていた木が、実はハナミズキじゃなかったんですよね。ハナミズキによく似た花をつけるヤマボウシって木だったんです。じゃあハナミズキの木の下では、本当は誰か僕を待っていてくれたのかなって。もしそうならその子には悪いことしたなあって思います。」


司会者は壮馬の話を次の言葉で締めくくった。


「じゃあもしかしたら、その恋愛が成就することもあったのかもしれないんですよねえ。そのラブレターを出した人が今この話を聞いていたら、加藤壮馬さんは決してすっぽかした訳じゃないよーって伝えてあげてください(笑)。」


瑞稀は自分が出したラブレターの顛末を今初めて知った。

てっきりすっぽかされたかと思っていたのだ。


美緒は一連のこの告白を瑞稀から聞かされていたので、


「っていうかさあ、何度も言ったけどハナミズキの木の下で待ってます、って何?(笑)。瑞稀の名前に掛けているのは聞いたけどさあ、意味分かんない。和穂も知っているでしょう、瑞稀ってほんっと乙女だったよねえ。」


瑞稀は美緒の歯に布を着せぬ言葉に何も反論できない。

確かにあの頃は少女漫画の読み過ぎだったのか、乙女心を拗らせまくっていて黒歴史を量産していた時代。なぜハナミズキの下で待っているなんて書いたのか、自分の名前に掛けたことも一因としてあるが、ハナミズキの花言葉は"返答"ーー。そんな甘いロマンチックなことを考えていた、自分が恥ずかしくてならない。


どちらかといえばドライに見える、美緒と瑞稀のやりとりの聞き役に回る事が多い和穂が、おもむろに口を開いた。


「ごめん、瑞稀!これ私のせいだわ。」


「え、何が?」

瑞稀と美緒はキョトンとしている。


「加藤先輩に間違えた木を教えたの私みたい。」


和穂は学生の時から男性に興味がなかったので本人もすっかり忘れていたが、生徒会の一員として卒業式の準備を手伝っているときに、男子生徒に"ハナミズキの木はどこにあるのか"と質問されたことがあった事を思い出した。和穂はハナミズキによく似たヤマボウシの木を男子生徒に教えてしまったのだった。その男子生徒というのが加藤壮馬だった。


12年ぶりに新たな真実が発覚し、瑞稀は悔しそうに唸った。

「じゃあ、私もしかしたらワンチャンあったかもしれないってこと?加藤壮馬と!」


「いや、それは..ないと思う。それに加藤先輩..昔のイメージと全然変わっちゃって、女癖悪い話しか聞かないじゃない。こないだも二股騒動がスクープされてたし。瑞稀がもて遊ばれなくてよかったよ。」


悔しがる瑞稀をよそに、美緒と和穂は学生時代のエピソードに花を咲かせている。ヤマボウシの花言葉は"友情"ーー。

幾つになっても女子トークには終わりが見えない。こうして今日も、3人の女の長い夜は更けていくのだった。

3つのお題「俳優・手紙・木」のキーワードを元にした短編です。

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