口答伝承
「イヤー大したもんだな」
俺達が根城にしていた街は、今や見る影もなく。
辺には、一面の湖が広がっている。それは美しく
覗き込めば、透き通った水の中に、街が沈んでいるのが分かる。
あの日から3ヶ月間雨は降り続けた‥
街の人間は、人工的に作られた小高い山の上に移り住んでいる。これから、数ヶ月かけてゆっくりと水が引いて行くのだという。
「見た目には綺麗だが生活には不便しかなさそうだな」
「そんな事ないさ退屈するよりかはこういった刺激が有ったほうがいい!同じ場所に居続けると言う方が不便さ」
花形は退屈というものを極端に嫌う。だから極道なんてやってたのだろうか?
まあ、人の事情に踏み込むのは失礼だ。
それが花形の性格と言うことらしい。
この辺りからだろうか、花形の体に異変が起きていた‥
以前は、それなりに線が太かった身体が、やけに細くなっている。それも、痩せているとか、病的な感じてはなく、骨格が変化しているような感じなのだ‥そして、元々俺と対して身長の差も無かったはずなのに、やけに小さくなっている。
「なあ花形‥」
「あ?」
「お前‥最近変じゃあないか?」
「‥‥」
「身体の調子がおかしいとか?」
「‥‥」
「変なものでも食べたとか?」
「‥‥」
何も答えるつもりは無いようだ。どうやら、自分自身の異変には、自分が一番気付くというわけだ
それから数日、明らかにおかしい。
細かっただけの花形の身体は、丸みを帯びてきているのだ、まるで女のようになっていて、こころなしか、髪質や、顔つきまで、女性のような感じになってきていた。
「やっぱりおかしいぜお前‥何処でちんちん切って来たんだ?」
「知るかよ!俺だって分かんねぇよ」
この頃には声まで中性的なものに変わって来ていた‥
俺はひとつ気になっていた事があった。
以前酒場で聞いた、【キャプテン・ジョンの呪い】というものだ、彼は多くの財宝をこの世に残して死んだ。死後の世界に、財産など持っていけるわけもなく、彼の無念は残された財宝に呪いを掛けたのだ‥その呪いは、財宝を盗んだ人間の容姿を醜くするというものだ‥しかし、花形の容姿が醜いとは思えない‥まあ、あくまで気掛かりになっているだけで、
そういう伝承がある以上、この変化も、一種呪いの類かもしれないと心の隅を過ぎるのだった。
「なあ花形‥医者に掛かってみるか?なんか分かるかもしれねぇぜ?」
「医者ってやつはあまり好きじゃねぇんだよな」
極道のクセに文句の多いやつだ。
「腕のいい医者探しといてやるよ」
「‥」
それ以上花形は何も言わなかった。
それから数日後には、もう彼は、彼女の域にまでなっていた、華奢で小柄で髪の毛こそ短いが
もはや誰も、奴が男とは思わないだろう。
‘’ステゴロの喧嘩師‘’が笑える姿になっている
「花形ちゃん‥」
突如強烈な拳が飛んできた。瞬時にガードしたが、一瞬遅れてたら首が吹っ飛んでただろう。
「安心したよ‥腕っぷしだけは残ってんだな」
「みたいだ」
後日医者に診てもらうことになった。
「これは‥健康ですな!」鼻毛の出た医者はそういうなり、一つの紙を渡してきた。
どうやら、まるで、身体透かしたような写し絵だった。
俺が軍に居たときに、こういった写真を見たことがあった。然し、あれは人体実験の失敗作みたいなもので、こっちが完成形‥といった感じだ。
「でも健康体ってんならなんでこんな事になってんだ?」
「知らないね‥こっちからすれば元々この子が男だって方が信じれない話だよ」
確かに事情を知らない人から見れば、コイツは、
健康体の女の子に見えるだろう。
「でもよ‥」
「物事には何時だって原因が有る病にも傷口にも
それらが見当たらない以上僕らの立場からは診断
を下す事は出来ないですな」
鼻毛出た医者はそう言って、フンと息を吐く。
「知り合いにこういった物に詳しい奴が居るが会ってみますかな?」
「こういった事‥って何だよ」
「呪いの類ですな」
「呪い‥か‥花形どうする?会ってみるか?」
それまで黙っていた花形が口を開く
「いちおう会ってみようかな‥」
随分弱々しい言葉だった。