ある剣客の最後
辺りは暗くなり、空からも、次第に一粒二粒と雨が降り注ぐ。
そんな中、ある剣客が町を一人で歩いている。その様子はまるで、襲ってくれと言っているようなもの。その剣客のいる町を、数十人、いや数百人の大群が囲んでいた。おおかた、この剣客を始末するために現れたのだろう。
雨だけでなく、風も次第に吹き始めたそのとき、ついに戦の幕が上がる…
「死ねェェェ!」
一人の侍が剣客に向かってゆく。だが、剣客は笑みを浮かべながら、それを軽々と躱し、すれ違いざまに首をはねる。
「よくも楽太郎を!許さねぇ!」
もう一人も飛び込んできた。だが、二人の力量差は歴然。先ほどと同じように首をはねた。
「お前らぁ!突撃ぃぃぃ!」
一人二人と殺すと、次々と侍が現れる。
「風月天朧流、一式〈風斬〉」
剣客が技を放った瞬間、斬られた侍達5人ほどは胴体から真っ二つになり、辺りを吹いていた風が切り裂かれ、霧散する。
剣客の持つ刀が、表面に付着した血を吸いとっている。この刀は妖刀と呼ばれ、妖刀の器に選ばれなかった者は、気が狂い、発狂し、最後には廃人と化す。剣客が自我を保っていられるのは、妖刀の器に選ばれたからである。だが厳密には、剣客本人の人格は眠っており、妖刀の人格が本人に代わり戦っている。
「おい、そこで見てる奴らも、はやくかかって来いよ」
「貴様に言われなくても!」
剣客の周りをすぐさま有象無象の侍が埋め尽くす。だが、この程度の人数差で剣客を討ち取れる訳もなく…
「風月天朧流、三式〈天桜〉」
剣客が技を放ち、剣客を囲んでいたおよそ十二人ほどの侍が切り刻まれ、侍の四肢や頭が雨に混ざり降り注ぐ。その様子はさながら血の雨のよう。
「嘘だろ…これだけの人数を集めてもこんなに戦力差があるなんて、おかしいだろ…」
「おい、まだ諦めんじゃねえ!雷蔵殿が後一時間ほどでここに到着する。それまで何とか持ちこたえろ!」
「でも、こんな化け物、どうやって相手をするんですか!」
「……前進あるのみ。」
「は!?正気じゃない…それは俺たちに死ねって言ってるんですか!」
「…まあ、そうとも言えるかな…」
「…もう付き合いきれません。簡単な仕事だって聞いたからこんな雨の中来たってのに…俺には養わなければならない家族がいるんです!俺は死にたくはありません、帰らせてもらいます…」
「……わかった…元気でな。」
「…チッ…」
ある一人の侍は、自分の命を惜しみ家へ帰る。だが、その選択も間違ってはいない。なぜなら、これは剣客の一方的な蹂躙。一端の侍がいたところで何も変わることはない。
この侍のとった行動は、正解ともいえるだろう。
「お前らその程度かよ…さすが組織の犬、尻尾を振ってばっかで、媚を売ることしかできねえんだな。弱すぎだろ…」
「…!貴様、黙って見ていれば、我々を侮辱しているのか!」
「そこのお偉いさん方もさあ…黙ってみてねえで自分達も戦えよ。なに部下任せにしてんの?」
「くっ、言わせておけば…お前ら何をしてる!はやくその化け物を殺せええ!」
だが、そんな人任せの男の言うことを聞く者は、ほとんどいないようだ。
「お前ら!おい、聞いているのか!」
「…人にものを言う前にまずは自分からしろよ、この口だけ野郎!」
「な!?お前ら、俺に逆らう気か!」
「いいから、てめえが先に行け!」
そう言って、人任せな上司の部下が、上司の首を掴んで剣客の元に放り投げた。
「うわああああ!何で俺がああああ!」
「お、やっと来た。ほい」
剣客は首を切り落とす。
「みんな!俺に続け!」
「おおおおおおおおおおおおおお!」
先ほど上司を放り投げた部下が侍達を鼓舞し始める。だが、いくら鼓舞したところで、所詮は下っ端の侍は下っ端の侍。急激に強くなるはずもなく、無情にも、次々と侍達は死んでいく。
「ぐああああ!」
「怯むな!行けえええ!」
「はあ、どいつもこいつも死にたがりだなあ。俺に敵わないことくらいは分かるだろ?」
「…敵わないと分かっていても…やるんだ!それが俺の今できることなんだ!!」
「ふっ、その根性は認めてやるが、俺はお人好しじゃない。じゃあな。」
剣客が首を切り落とす。次々と、周りには侍の死体が積み上がっていく。そして…
ーーーーーー
しばらく時間が経った。剣客以外には周りに立っている者はいないようだ。
「……ああ、もうこの体も限界か…まあ少しは楽しめたかな…」
剣客がそう呟くと、刀を鞘に納め、膝をついた。
その剣客の体は、一見何も問題はないようにみえる。だが、実際は妖刀によって体が蝕まれ、寿命が削られていた。その寿命は、先ほどまで有象無象の侍を斬っていたことで急激に消費したのだろう。
もう剣客には、立ち上がる力も残っていない。
「ああ、もっと…強いやつと…戦いたかった…」
そう剣客が呟き、静かに息を引き取った。




