はじまり
ドゴオオオン
という雷鳴が轟いている。
勇者らしき男が魔王と呼ぶに相応しい姿の者に
斬りかかっていく。
「お前を倒せば元の世界に戻れる」
そう叫びながら斬りかかるも、
その一撃はスラリと躱される。
魔王は言う。
「私を倒しても無意味だ」
勇者を牽制するように黒い雷撃を二人の間に打ち出す。
「お前が全てやったことだ」勇者はそう叫び、
雷撃の合間を縫って前の攻撃よりも鋭い斬撃を繰り出す。
しかし、その攻撃も魔王はスッと躱していく。
「なるべく魔力は消費したくないのだが、、、」
そう言いつつ今度は雷撃を広範囲に打つ。
ババババババッと辺りに放たれた黒い電撃は勇者を囲んでいる。
「ぐああああああっ」
悲鳴をあげ膝をつくも、
直ぐに立ち上がり魔王へ斬りかかる。
「くっ」魔王は鈍い動きで攻撃を避けようとするも、
ザンッ
っと勇者の一撃が魔王の身体に斜めに入る。
「ぐぐ、そんなに元の世界に戻りたいならお前一人、先に戻してやる」
斬られた傷を押さえながら魔王は魔法を発動させる。
グオオオオオオオオン
という音と共に勇者の目の前に時空の歪みが現れる。
「くそっ、やめ」
勇者は空間にパッカリ開いた時空の歪みへと吸い込まれていった。
ーーーーーー
男は呼ばれている声が聞こえてきて、夢から目を覚ました。
「おとーさああん」
目を少しずつ開けていくと、
金髪の男の子が手に入れてきた野菜を抱えながら駆け寄ってくるのが見える。
どうやら男は家の前に置いてある椅子に座ったあと、
心地よい太陽の光を受け、そのまま眠ってしまっていたようだ。
「カイル、今日も手伝いを沢山がんばってきたようだな。」
そう言いながら、近くまで来た息子の頭を撫でた。
「今日はこれを使ってシチューがいい」
カイルは貰ってきた野菜を見せながら今日の夕御飯のリクエストを言う。
「あらっカイルこんなに貰ってきたの?」
息子が帰ってきたのを察知してか、母親のマーサが表に出てきた。
「おつかれさま、がんばったのねえカイルはお手伝いをしてくれて偉いわ」
と息子を褒め称える。
マーサは本当に優しい人だ。
息子のカイルを抱きしめている妻のマーサを見ながら今までのことを思い返した。
私は海で溺れていたらしく気が付いたらこの村に流れ着いていた。
身体もボロボロで動けなかった私を、つきっきりで看病してくれたのがマーサだった。
記憶もほとんどなく自分の名前がマハイロだと言うこと以外は覚えていなかった。
何処の馬の骨かもわからん男を、無償の愛で介抱してくれた。
そんな女に惚れないはずもなく、マーサと結婚して子供ができた。
息子のカイルはマーサに似ていて、男の子ながらも可愛らしい顔立ちをしている。
私はなんて幸せなんだ。
「おとおさーん、お昼のあと釣りに行ってくるね」
と野菜と一緒に持ち帰ってきたであろう、大量のミミズを私に見せながらカイルは言う。
「どこで釣りをするつもりなんだ?」
11歳になったばかりの息子を海に近づけていいものかと心配して言う。
「ジャクソンさんが家をつくってるとこの海辺だよ」
と明るく返事を返す。
家を建てる作業を4,5人の大人達が近くで行ってるから父親の私も安心だろうという算段か。
「ジャクソンさんにしっかりあいさつするんだぞ」
と行ってもよしと息子に許可を出すことにした。
ーーーーーー
「ジャクソンさーんこんにちわー」
と上半身裸で木材を運んでいるマッチョでアゴヒゲの生えたおじさんにあいさつをした。
見た目は怖いが一度会話をしてからはぜんぜん怖くなくなった。
「おう、マハイロんとこのボウズ、今日は釣りか?」
アゴヒゲを生やしたおっさんは足を止め返事をした。
「今日はここが釣れそうな気がするんだよね」
と満面の笑みで返した。
「まあ好きにやんな、ただ親父さんは海で痛い目みてるんだおめぇも気を付けろよ」
「はーい、あっちの丸太のとこでやってるねー」
と座りながら釣りができそうな絶好のスポットを指差した。
「おれにも寄越せるくらい沢山釣ってくれよ」
と言って髭親父は建築の作業にもどった。
「さて釣りますか」と三角に積まれた丸太に腰掛け、
エサをつけ、水面に向かって仕掛けを投げた。
「あとは釣れるのを待ちますか」と竿を握ったまま食い付くのをひたすら待つ作業に入った。
と、そのときだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
地震だっ
そう思ったのもつかの間
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ものすごい揺れが積まれていた丸太を崩す。
「うわっ」丸太に押され、
ドボンッ ドボンッ
丸太と一緒に海に落ちてしまった。
波が荒立っている。
とにかく丸太にしがみついた。
なにがおきているのかわからない。
ただ波が激しくなっていくのがわかる。
この目の前の丸太を離しちゃいけない、、ただそれだけを念じ、荒波の中、目を開けることも出来ずじっと耐え続けた。
どれぐらいたっただろう。
波が落ち着いてきてた。
バランスをとりながら海に浮かぶ丸太によじ登る。
「し、島が」
かなり流されてしまったようだ。
先ほどまでいた島が視界に収まってしまうサイズになってしまっていた。
『おーい』と助けを呼ぶ気持ちすら無くしてしまう程の距離、絶望が心を侵食していく。
呼吸が乱れる。心が小さくなっていくのがわかる。
これから僕はどうなってしまうんだ。
とにかく丸太の上でしがみつき、なるべく体力を使わないようにした。
どのくらい経っただろう、島も見えなくなってしまった。
なにがいけなかったのか、あの地震はなんだったんだろうか。みんなは無事なんだろうか。これは父親から譲り受けた海の呪いなのか?
いろいろ思考が浮かんでは消え、浮かんでは消え、そして意識も無くなっていった。




