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異世界より君へ  作者: 昨咲く
第一章
7/12

7.魔術と魔国

 本屋を出ると、夕日が射す時間帯となっていた。

 そのため、シュンは宿に戻ることにする。


 少し迷いもしたが、日が沈み切る前には宿につくことが出来た。

 宿で夕食を取っていると、周りの客から噂話が聞こえてくる。


「戦争だってさ」


「戦争? どこでだよ。この国じゃないよなぁ?」


「あぁ。人族の国じゃない。だが人族以外の国はほとんどが警戒中だって話だ」


「なんだよそりゃ。どこ情報だ?」


「俺も、知らねーよ。ただ噂が立ってんだよ」


「ほーん。それで、だからどうしたってんだよ。この国に関係なきゃ勝手にやってろって話だろ?」


「そうなんだが、人族の国にも影響が出るかもしれないって話なんだよ」


「なんでだよ」


「なんでも、ゾンビが出ているらしい。この街でもだ! それが戦争が起きることと関係してるんじゃないかって、一部で噂になっていたんだよ」


「ゾンビの話はデマだろ? 俺も聞いたが、結局老人の徘徊だったって話だぞ」


「ばっか、そっちがデマだ。ゾンビの話はマジだって。俺の兄貴が警備兵でガチで見たって話だ」


「マジかよ」


 そんな会話が聞こえてきた。

 ゲームの世界ならゾンビがいたって不思議じゃないか。

 そんな感想をシュンは思った。

 それぐらいしか思えない。

 人族以外の戦争といわれても、きっと人族以外ってキャラメイクで出てきた人以外の種族のことなんだろうなと思い出す程度だ。


 その時のシュンにとっては大した関心を持つ内容ではなかったが、後に渦中に巻き込まれることになろうとは、想像もしえなかった――。




 食事も終え、部屋に戻ったシュンは特にすることも無いため、今日買った本を読んでみようと実行に移した。


 今日の昼に買った本、それは――。


「魔術入門ね……。魔法が使えるゲームってことなのかな?」


 年甲斐もなく少しワクワクしている自分に気づきながらも、そのワクワクを抑えることもなく、むしろ従い、楽し気に頁をめくっていく。


「なるほど、魔法は誰にでも使えるわけではないと……」


 まず初めに書かれていたことは、魔術とはということであり、扱える者とそうで無い者に分かれるということであった。

 他にも、基礎となる魔術がいくつかあり、この本ではそのいくつかの基礎魔術について書かれているとある。


「火、風、水、土、光、闇の属性があり、その内『火、風、水、土』が基礎魔術に該当すると……。なんだか実にゲーム的だなー」


 取り留めもない感想を口にし、さらに読み進めていく。

 大した厚さもない一冊だ。思いのほか早く読み終えてしまうだろう。

 それこそ、今夜夜更かしをしなくて済む程度には。


「ふーん。こういう設定ってことなのかな」


 シュンが見ているページには、人体解剖図のような挿絵がついていて、血管の代わりに魔力の流れなるものが描かれていた。

 その図では、全身から右手の先に向かって魔力が流れているように描かれている。

 そして、右手の先では炎と思われる物が描かれており、魔術の発言について簡単に図解した物となっていた。


「っていっても、魔力って僕にもあるのかねー。プレイヤーなんだから、魔法が使えないなんてことは無いと思うんだけど、魔力の実感なんてないからなぁ」


 ゲーム的思考で考えるなら、シュンの言うことはもっともである。

 そして、魔力の実感については、読み進めていくにつれ解決の糸口が見つかる。


「あ、魔力運用の練習法、こんなのもあるんだ。これならいけるかな?」


 読み進めた先に魔力の運用法について描かれたページもあったのだ。

 さっそく描かれていた通りに実行しようとして、すぐに取りやめる。

 なぜなら、


「これで、成功しちゃったら火が出たりするのかな? さすがに室内じゃまずいよな」


 というわけである。

 それなら、土はと考え、部屋を汚してしまうのも申し訳ないと思い。

 水ならと考えれば、室内を濡らしてしまうのも如何なものかと思い。

 風ならば問題ないのではと思いもしたが、魔法がどの程度の性能と規模中が半残としないため、最悪室内で暴風が起きたとかなったら怖いと、結局諦めてしまった。

 存外に臆病で慎重深い性格のシュンである。


 一先ず、その日は最後まで魔術書を読み切り、眠ることにした。




 ◇ ◇ ◇



 そこには、多種多様の姿形の者たちが、一堂に会していた。

 重苦しい雰囲気があり、皆静かに佇んでいる。

 その数は多くはないが少なくもないだろう。

 中心の円卓を囲むように、取り囲んだ者たちは50人は居ると当たりを付けられる。

 それに比べ中心の円卓には、明らかに少数と言える人数しか座っていない。


 しばらくの間、静寂が続いたがそれを破ったのは、円卓に座る一人であった。


「それでは、現状の報告と今後の方針について、話し合いを始めましょう」


 岩のような体躯に似つかわしくない知的な言葉をもって、その”ゴブリン”は開始した。

 彼らの国、人族から『魔国』と呼ばれる国の一地方の部族たちの話し合いを。

 人族からは一纏めに『魔国』と呼ばれているが、実際は部族ごとの小さな国の纏まりである。その内のいくつかの国が集まって会議を行っているのが今の場だ。


 非公式ではあるが、国同士の話し合いの場としては、雑な印象を受ける集まりである。

 そうというのも、円卓に座った幾数人以外、つまり円卓の外側を囲った者たちは、いまいちこの会議の重要性を理解していないようなのである。

 ただ、彼らの族長たちが言うから静かにして居よう。とそんな具合で黙っているだけなのだ。

 そんな彼らと打って変わって、円卓に座る族長たちは、もちろんこの会議の重要度を分かっている。


「まずは、この場の議長でもある私から話すことにしましょう」


 議長としての気遣いとして、”ゴブリン”が丁寧に宣言する。


「と言っても、皆さんもご存じのことだと思いますが、わが軍が進行を開始することが確定したこと、期間はひと月以内を予定していることぐらいですかね。付け加えるなら、我が鬼族では順調に準備が進んでいますよといったぐらいです」


 それを聞いた他の部族長たちも、実際知っていたことの様で、静かに頷く者がいる程度の反応しか返さない。


「まあ、他も同様の内容ばかりだと思いますので、問題があったか、何か意見のあるものだけ発言してもらうようにしておきましょうか。何かある者はいらっしゃいますか?」


 見渡すゴブリンに反応を返すものが一人。


「では我から」


 そう言って、起立したのは死族長のリッチーである。

 この場ではそれぞれ族長と呼称しているが、それぞれは国の長でもある。とりわけこのリッチーは王族というものにいささか強い執着を持っている類のものであり、その性格は推し量るまでもなくプライドの塊である人物だ。


「我からは、一つ提案を授ける」


 提案と言いつつ、上からの物言いだ。


「今のうちに一つ人族の集落を潰そうではないか? これによって我の群はさらなる飛躍が約束されるのである。すでに密偵を放ちいつでも躯を増やすことが出来るのであるのは確定よ」


 提案と言いつつもう実行する一歩手前である。

 これには議長のゴブリンも苦い顔だ。


「それ、もう提案じゃねーだろ」


 円卓の場では唯一長ではない、鬼族のイケメンがツッコンだ。


「些細な事である」


 ツッコまれてもさらりと流すリッチー。


「それで、如何に? 我としてはすぐにでも実行に移したいのだがな?」


「は、許可なんて取る気ないだろうが。ここで内の族長とかが”ダメだ”と言ったって勝手にやっちまうんだろう?」


「そんなことはせんよ。ただ、我の命令が行き届く前に、部下が計画を実行してしまうことはあり得るかもしれんがなぁ。まあ、その場合でも損は無いのだから良いであろう?」


 かっかっかっと笑うリッチー。

 その正面では、鬼族の長”ゴブリン”難しい顔をしている。そしてたまにちらっと隣の様子を見ているようだ。

 彼が気にしているのは、マグノリア族の長でもある”セリカ”という”少女”であり、彼や、彼の親友であり腹心の部下である”イケメン”『ジュンタ』と同郷の友人である。


「はぁ。ったく。どうしようもねーなこいつは。んでどうする? マ、族長」


 イケメンことジュンタが議長である族長のゴブリン『マサシ』お伺いを立てる。


「賛成は出来ませんが、反対もしません……。他の方たちに本体の物が居ればその意見を尊重します。反対の者は?」


「……」


 誰も反対の意見をあげることはなく、マサシはため息を吐く。


「それでは反対の物もいないため、リッチーさんの提案は受け入れることとします。ただし、決行並びに完了は1週間以内であることが条件です。それ以上は進軍に影響を与える可能性が高くなるのが理由です。よろしいですね?」


「えぇ。十分であるよ」


 かっかっかっという笑い声と共にその日の会議は解散となった――。


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