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異世界より君へ  作者: 昨咲く
第一章
3/12

3.過去と現実

 少女は泣いていた。


 ”誰も話を聞いてくれない!”

 ”誰も信じてくれない!!”


 と、そう泣いていた。


 それを聞いた時、シュンは思い出した。

 覚えていたくもないことを――。






 * * *



 あの時、光ったのはなんだったのだろう?

 床だろうか、人だろうか?

 思い出せないけれど、何かが光って、そしてすべてが消えていた。

 そう。僕以外のみんなが消えていたんだ。

 それは、寺に集まって体育座りをさせられていた僕らすべてであり、僕以外だ。

 僕だって体育座りはしていた。なのに僕以外だけがみんな消えたんだ。

 丁度先生が目を離したときに。

 丁度地震があって先生たちがどこかに行った瞬間に。

 みんな消えた。その瞬間を目にしたのは僕だけだった――。


 誰にそのことを言おうと信じてもらえなかった。

 先生たちも、困惑するだけでまともに取り合おうとしてくれなかった。


 中学に進級すると、嘘つきと言われ続けた。


 高校に行くと、都市伝説だと面白がられた。


 僕の中学以降は話題に絶えなかったが、僕の望むものは一切なかった。


 みんなが、僕を不思議なやつとしてみてくる。


 教員も皆、僕を不気味なやつとみてくる。


 ご近所さんは僕を気の毒そうに見てくる。


 僕は、みんなの視線が怖くなった。


 良く高校卒業まで我慢できたものだと思う。




 少女を見る目はその一つの気の毒そうな視線だった。

 だからこそ思い出したんだ、あの時僕も思った。


 ”誰も話を聞いてくれない!”

 ”誰も信じてくれない!!”


 それがどういうことか。

 僕だけがこの瞬間で分かっているという自信があった。


 これが仮想の世界で、ゲームだなんてことを忘れるくらいに――。



 あの少女は自分なんだ……。

 そうシュンは思った。


 それぐらい、僕も泣きわめきたかったのだ。今この瞬間。

 そう思ってしまったからだろうか、シュンはゲームだなんて忘れて、少女に声をかけていた。


「どうしたんだい?」


 NPCだろうと、たくさんの人であるのには変わりない中に割り入り、そう言った――。




 少女とその場を離れてから、少女は話してくれた。


 少女はキャミーという名前だということ。

 そして、泣いていた理由。

 それは、『兄が兄ではなくなったのだ』とキャミ―は言う。


 キャミ―の兄はいつも『冒険者になる』と言っていたのに、急に酒場に就職をしてしまったらしい。夢を諦める兄ではなかったのにと、キャミーは言う。


「それに、わたしが寝るころに、家を抜け出してることも分かってるんだから!」


 と、これもキャミ―だ。


 それ以外にも、感情の起伏が平坦になったとか、彼女の言い分が続いたが、明確に兄がおかしいという証拠も無いようだったが、周りの大人たちが彼女を気の毒そうに見る理由にはならないと僕は思った。


 そもそも、これが現実なのか、ゲームのイベントなのかすら僕には分からないのだ……。




 それでも、僕はキャミ―にある提案をした。


 それは何でもない。


 ただ、キャミ―が寝た後のお兄さんを見張ってみようということ。


 本当になんてこともないことだ。


「おじさんも協力するからさ、どうかな?」


 キャミ―は俯き少し考えるようにすると、決意を固めた顔をあげた。


「お、お願いします」


 ぎこちなくそう言った。初対面のおじさんと行動することに当然不安があるのだろう。

 しかし、それでも決意したのは唯一真剣に話を聞いてくれた存在だからだったからだろうか?

 それとも、ゲーム的なご都合主義な展開だからだろうか。

 どちらとも思えるが、今は少女の為に協力することに集中しよう。




 * * *



 時刻は日が落ちてきた頃合いで、夕日が眩しい時間帯。

 キャミ―のお兄さんも酒場の仕事を終えて帰ってくる頃だと言う。


 シュンは、キャミ―と共にキャミ―の家まで来ていた。

 お兄さんを尾行するのに、まずスタート地点を知っておかなければ始まらないからだ。


 キャミ―はいつも夕食後、食事の片付けや就寝の準備等をして、大体夕食から2時間ほどたった頃には寝につくそうである。

 つまり、夕食後2時間ぐらいでキャミ―のお兄さんは、家を抜け出すはず。

 それまで、シュンは一人家の裏手でただ待機していた。


 暇は暇であるが仕方ない。

 それよりも、シュンは自分が空腹感を感じていることに驚いていた。


『ゲームなのに、お腹まで空くのか……!』


 不思議に思ったが、すぐに思いつく。


『いや、現実で何も食べてないから、リアルで空腹を感じているだけかな?』


 実際のところは分からない。

 しかし、シュンはそういうことで納得したようだった。


 そんなことを考えているうちに、辺りはすっかり暗くなってしまった。

 街灯もあまりない様な世界観みたいだ。


 家の中から微かに聞こえていた、話し声や人の動く音などが聞こえなくなったころ、正面の戸が空き男性が出ていく。

 言うまでもなく、キャミ―の兄だ。


 家の裏手に隠れていたシュンは、キャミ―との打ち合わせ通り、勝手口の戸を3回ノックする。

 キャミ―の寝室近くに勝手口はあり、これで気づくとのことだった。


 ノックの後すぐに、キャミ―が勝手口から出てきた。

 シュンと頷き合い、静かにしかし急ぎ足でキャミ―の兄の後を追うのだった。




 幸い見失うこともなく、後を付けることに成功した2人だったが、到着した場所に少しばかり困惑した。

 もっと怪しい行動を取るのではないかと思っていたため、たどり着いたのが酒場であることに拍子抜けにも似た感情を抱いたので。


 シュンは「夜な夜な、飲みにでも来ていたのかな?」と普通に思うことを口にしてみたが、キャミ―はまだ納得が行かないようで、「中を覗いてみる!」と走り出してしまった。


 この場でそのまま中に入ればすぐにバレてしまうので、窓の下からチラチラ覗き込みながら、盗み聞きをする形となった。


 シュンとしては非常に不本意ながらとても怪しい2人組だ。

 幸い、通行人はほとんどいないため、警邏に通報されるようなことにはならなかったのが救いだった。


 盗み聞きした内容からシュンはキャミーに確認する。


「ここって、お兄さんが働いてるって酒場なのかい?」


「うん」


 言葉少なに頷くキャミ―は、中の会話に気がとられているようだった。


 それもそのはず、中では、


『ローバンも偉いよなぁ。妹のためにこんな時間まで働きに来てるんだからよぉ』


『だよなー。俺んところにも妹は居るが、あいつの為に金を貯めようとはちっとも思えやしねぇわ』


『よっぽど可愛い妹なんかねぇ。その辺どうなんだ? ローバン』


『急になんですか? 僕は可愛いと思いますけど、お金を貯めようと思ったのはそれだけが理由じゃないですよ』


『ほーん。俺は女の為と見たね。妹の為と見せかけての女』


『そんなんじゃないですよ。単純に生活の為です。何時までも叶わない夢を追っているよりも、妹の為、自分の為、真面目に働いた方が良いって気づいたってだけですよ。現実と向き合うときが来たってだけです』


『なんだ、思った以上に真面目で、つまんねー理由だなー』


『そんなもんですよ。現実なんて。それよりお酒の追加は如何ですか?』


『おう、もらおう』


『つまんねー話にカンパーイ。ぎゃははー』


 そこまで聞いて、シュンとキャミーはその場を離れた。


「ローバンていうのがお兄さん、なんだよね?」


「うん……」


「そっか。いいお兄さんだね」


「うん……」


 歩きながら、二人はそんなことだけを話した。




 キャミーとしては納得いかなかった。

 夢を追っていた兄がキャミーは好きだったのだ。

 私の事や生活の為を思ってくれるのはうれしくはあるが、どこか釈然としない。

 やはりキャミーの兄は居なくなってしまったのだと、キャミーは思った。

 しかし、それはそれ、キャミーも現実を見なければいけないのだと、そう思っている。

 渋々であるが、今の兄も受け入れなければ行けないのだと、そう渋々納得をすることにした。




 どんな結果を自分の中で出したのかシュンにはキャミーの心のうちまでは知ることは出来なかったが、何かと向き合おうとしているようには見えた。

 きっと大丈夫。そう思い何も言わずにキャミーを家まで送って、その場を後にした。



「はぁ~。お腹空いたなぁ」



 ぽつりとそれだけこぼして――。


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