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異世界より君へ  作者: 昨咲く
第一章
11/12

11.炎上

 目を覚ました時、まだ日は上っておらず、真夜中の様であった。

 しかし、炎の明かりで一部は昼のように明るく照らされている。


 燃え盛る炎はまだ近場までには及んでいない。

 しかし、見える範囲でも街が何者かに襲われているのであることは分かった。

 逃げ惑う人々の悲鳴がそれを示している。


「うあー! なんだこいつは!」


「この辺りはダメだ、あっちに、うわーッ」


「なんなのよ! なんなのよー!!」


「ま、回り込まれてる! こっちはダメだ!」


「う、うわー!!」


 様々な叫びがここまで届いている。

 その声は次第に近づいてきてもいるようだ。


 その様子は、とても現実的とは言えないものだった。

 ゲームだから当然だろう。現実なのだから当然だろう。どちらでも通用しそうで通用しない、現実味の無さがそこにはあった。


 火の手が上がっているのをただ茫然と眺めてしまっていた。

 その中で一つ気づく。


「あっちの方って……」


 キャミーの家の方も燃え上っているのに気づいたのだ。


 何をすればいいのかも、どうなっているのかもよくわからないままに、ただ衝動的にシュンは動き出した。




 宿を飛び出して、少し移動するとそこはもう阿鼻叫喚としていた。

 叫ぶ人々と、それをノロりと追う人でない、人っぽいなにか。

 あれもモンスターなのだろうか。疑問を覚えるが、それらを無視して燃え盛る中を突っ切っていく。

 こうも大胆に行動できるのは、現実味が無いからだろうか。


 キャミーの家までたどり着くと、その家はすでに燃え上っていて、シュンは迷いもなく飛び込んでいった。炎の中へと。

 熱に皮膚を焼かれる熱さを感じるが、痛みはあまり感じない気がする。

 ゲームの中だから、仮想世界だから痛みがを感じないのだろうか?

 しかし、もう何年も痛みを感じる機会などなかったシュンにはそれも分からない。


 とにかく屋内を進み少女を探す。


 しかし見つけたのは青年が水場の前で倒れている姿だった。

 位置的に火が回りにくかったのもあって、体に火傷を追っている様子もない。

 ただし、酸素が足りなくなったせいか、気を失っているようだ。

 シュンものんびりしていれば、同じように気を失って、取り返しのつかないことになってしまうだろうと、急いで青年を担いで、外へと駆け出した。

 彼を見つける前に、十分に屋内は見渡したが、他の人の気配は無かったのだ。


 無事、燃え盛る家を飛び出したシュンは、とりあえずギルドへと向かった。

 ギルドのような公共機関なら、こんな時も必要な措置を取っているだろうと考えたからだ。


 実際、ギルドでは事態の解決に向けて冒険者への緊急依頼や、回復魔法を使えるものの募集など、災害に対しての中心的な活動をしていた。


 これなら大丈夫だろうと、シュンは青年=ローバンを預けると、あるところへと向う。

 常なら、にぎやかな笑い声が絶えなかったその場は、常とは違ったにぎやかさに囲まれ、そして静かに佇んでいた。


 そこは、未だに火の手が上がっておらず、不気味に静かである。


 シュンはそこしか思い浮かばなかった。


 気になることはあったのだ。


 それは兄ことであり少女の事である。

 つまり、ローバンとキャミー。


 少女の話を聞いてくれない大人たちは、少女に気の毒な目を向けていた。

 シュンは自分の経験と重ね合わせて、考えたためにすぐには気づけなかったが、それはおかしいのだ。

 シュンと少女とでは状況が違うのだから。

 シュンは不気味がられて、一部気の毒な目をした大人たちがいたが。少女の場合では、シュンのように不気味がられるようなことはないはずだ、実際兄はただ夢あきらめて大人になっただけだったのだから。

 だからこそ、少女の態度を不振がっていても、気の毒そうに見る意味が分からない。


 しかし、前提が違っていればどうだろうか?

 少女がそもそも周りにあり得ないと思われるような事を言っていたとしたら?

 周りの大人も、気の毒に思うようなことを彼女が行っていたら?


 もし、彼女の兄がすでに死んでいて、それを否定するかのように少女が兄はまだいるようなことを言っていたら?


 ローバンがキャミーの実の兄ではなく、彼女を取り巻く彼女を気の毒に思う大人の一人だったとしたら――。


 なにか確信があるわけではない、ただただそうだったら恐ろしいと思っただけである。


 シュンは、ローバンとキャミーが一緒に住んでいるところを見たことがない。

 二人は一緒に食事を取っただけであり、ローバンは食事の後酒場の仕事に戻っていって、その後をシュンは知らない。


 シュンは、ローバンと話したことが無い。彼から妹の話を”直接”聞いたことは無いのだ。

 彼が酒場で語ったことがキャミーのことであるのかどうかは知らない。


 ローバンとキャミーが兄弟である証拠をシュンは持っていないのである。


 だからと言って、キャミーの本当の兄は死んでいるなんて仮説は突拍子もなさすぎるものであるが、シュンの脳裏に過っては引っかかるのだ。


 始めてキャミーにあった時周りの大人がキャミーに向けていた視線。気の毒そうな視線。なぜ気の毒そうなのだろう? 彼女の兄がローバンならば気の毒に見る必要は何一つないのだ。ただローバンが大人になっただけで、周りの人たちが気の毒に思う必要のあることなど一つもない。


 それだけが引っかかっていて、それがこんな突拍子もない考えを誘発している。


 キャミーの兄はローバンではなくて、すでに無くなっているのではないか……。

 彼女が言っていた『兄が兄ではなくなった』というのは、言葉の通りだったのではないのか。

 彼女は、本当の兄を認識できなくなっているのではないか?


 無理があるかもしれない……。

 しかし、それも本人に確認すれば良いことだろう。


 シュンが着いたのは、街外れの墓地だった。静かで街内の喧騒が噓のようである。


 そこに小さな影が一つ――。


 キャミーだった。


「あれ? おじさんだー。どうしたの? こんなところでー」


 普通に話しかけてきたようで、周囲の状況がその普通を否定する。

 明るく世間話をするような状況でないのは一目瞭然なのだ。


「キャミーは、お墓参りに。あれ? なんでお墓参りに来てるんだろう?」


 支離滅裂な言動を始めるキャミー。


「お兄ちゃんに会いに行こうと思って……。それで、それで、なんでお墓にいるんだろう?」


「ねえ。なんでかなぁ?」


 そういうキャミーは片方の目から涙を流していた。


 もう片方は爛れて、すでに人の物ではなくなってしまっていた。

「君は本当にキャミーなのかい?」


 シュンは溜まらずに彼女の真偽を問うた。

 それは悲しみに浸った問だった。


「何言ってるの? キャミーはキャミーだよ?」


 楽しそうに笑いながらもキャミーは涙を流す。その片目から。


「でも、もしかしたらどちらでもないかもしれないね」


 途端に笑うのをやめて、さみしそうに言う。

 先ほどまでとはまるっきり別の人物のように、大人びた表情を作り出している。


「私は、腐りかけなんだ。脳みそが半分腐っていて、”あの人”の指示に逆らうことが出来なかったし、お兄ちゃんの夢を叶えることもできなかったし。きっと狂った私がこの街を狂わせてるんだよ……」


 片目から流れた涙が地に落ちる。

 それと同時に近くで、爆発が起きる。

 民家内の油にでも引火したのかもしれない。

 今いる墓地の近くにも火の手が回ってくる。


 火の明かりによって墓地は照らされ、闇に隠されていたモンスターたちの姿を映し出していた。

 墓地には、数百体に及ぶゾンビの群れが巣くっていたのだ。

 ここから街に流れていったゾンビたちが、火を付け住人たちを襲っているのだろう。

 ここが、この災害の震源地ともいえた。


「君を倒したらこの騒ぎは納まるのかい?」


 ゲーム的な事を言えば彼女を倒せば巣別解決しそうであったから、聞いてみた。

 ほとんど冗談みたいな問だった。

 シュン自身そんな事を信じてはいない。


 案の定首を振る少女。


「まぁ。そうだよね」


 思っていたと通りだと、納得すら見せるシュン。


「なら、あいつらを全滅させればいいのかね?」


 この問いには首を横に振らない少女。

 ただ出来ないと思っているからか縦にも降らなかった。


 シュンは腹正しかった。結局あの少女には幸がめぐってくることはないのか? 結局気の毒な少女のままなのか? それが耐え難い。


「なぁ。キャミーちゃんや。どうやったら幸せってやってくるんだろうなぁ?」


 それは、彼女の幸せか、シュン自身の幸せか。

 混ざりあって、シュンも彼女も分からなかった。

 分からないままにシュンは駆け出す。この持ち余す感情をぶつけるために――。


「ああぁぁー!!」


 それは、シュンの覚醒だった。

 正確にはシュンがキャラメイクで選んだマグナリア族(黒)の覚醒である。

 マグノリア族の黒種は感情の発露に即発されて、その真価を発揮する種族であり、この時のシュンはその真価を発揮する覚醒状態に入ったのだ。


 シュンの白目は黒く染まり、瞳が赤く輝いている。全身的に浅黒い体色のマグノリアであるから、この時のらんらんと輝く瞳は嫌に目立つ。

 一歩動こうとすると10mは移動してしまう、飛び上がれば上空20mに到達するほどに、身体能力の上昇も異常であった。

 しかし、シュンはそれも気にせず、ゾンビたちに突っ込んでいき殴りつけた。

 狙いより、10m過ぎたからどうしたのか。そこにもゾンビたちは居る。構わず勢いのまま殴った。ゾンビの肉は弾け飛んだ。


 それからは、独壇場だった。

 一瞬で移動しては、殴り散らすシュンと、ノロりと動きの遅いゾンビたち。

 形勢は言うまでもなく、シュンが優勢であった。


 墓地にたむろしたゾンビたちをすべて駆除するのにかかった時間は20分ほど。

 圧倒的な力でもそれだけかかってしまったというべきか、圧倒的な力があったからこそ数百いたすべてを20分足らずで殲滅できたというべきか。

 それは誰も分からないが、一先ず街は最悪を迎えずに済んだ。

 追加で数百のモンスターに襲われて壊滅する最悪の未来を。


けっこう無理があるとは思っているけど、仕方なかったんだ……。

プロットを無視して書き直した弊害なんだ;;

機会があれば、投稿分から直します;;

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