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クラリスの秘密

〔~バアル視点~〕


『―――という形で現在動いています』


 いつも通りラインハルトから報告を受け取っている。


「では、狂快薬で間違いないな?」


 こちらでも見当はついていたが確定ではなかったので確証を得られてよかった。


『はい、それとアジャカラとウバナカという薬も配合されているそうです』

「それらも禁薬だな?」

『はい、それらもネンラールの裏組織から流れてきたと推測されています』


 なんか少し違和感を感じさせるが、ある程度の方向性が見えてきた。


「とりあえず、そのままエルフの捜索、誘拐組織の発見、薬の追跡を頼むぞ」

『了解です』


 そう言って連絡を切る。


「あっちの方はどうですか」

「問題ない確実に追い詰めている」


 俺は現在、南東の聖樹の元に来ている。


 目的は


「で、ウライトを薬漬けにした女の住処はどこだ?」

「はいここから、さらに南東に向かった場所です」


 俺は薬漬けからもどったエルフ、ウライトに禁薬を持っていた女性の場所に案内してもらっている。


「それにしても見事に東側ばかりね」

「まったくです」


 ついてきているクラリスとリンも俺と同じく違和感を感じている。


「??ネンラールに誘拐組織があるなら、東側に多く集中するのは当然じゃないのですか?」


 ウライトの考えも間違っていない。利便性を考えて東に多くなるのも当然と言えば当然だ。


 だがそれと同時に何か裏を感じさせる部分も感じている。かなり不自然なぐらいに。


「まぁこれは考えてもしょうがない、俺たちは何かあるか調べに行くぞ」


 俺たちは森の中を進みウライトと例の女性が密会していた場所を目指す。








 ギシ、ギシ、ギシ、バキッ


「っと!」


 枝を伝って移動しているのだが、やはり俺だけ出遅れる。


 今回も枝を折って落ちそうになる度に『飛雷身』で移動する。


「相変わらず、森の中では速くないわね」


 クラリスは近づいて笑っている。


「森に慣れているエルフと一緒にするな」

「でもリンは軽々と移動しているわよ」


 視線の先ではウライトについて行っているリンの姿が見える。


「運動神経で俺がリンに勝てるわけないだろう」


 あくまで俺がリンに勝っているのはステータスのゴリ押しができるから。同じ身体能力でスキルが使用できない状態だとリンに勝てることはまずない。


「ほらさっさと行くわよ」

「はいはい」


 身体強化を使用し先行く二人を追う。


(本当、運動神経が高い奴はうらやましいよ)


 度々『飛雷身』を使わないと二人に引き離されそうになった。








「ここがその場所です」


 数時間、森の中を進むと薄暗い場所にたどり着く。曇天なのもあるが、それ以上に木々が鬱蒼としており陽光を遮っている。


「暗いな」

「ここは聖樹の範囲ギリギリですからね」


 ここはネンラールに近いので植生が変わっているのだという。


「雪がないのはまだよかったな」

「ギリギリではありますが聖樹の効果範囲内ですからね」


 視線の先では見える山肌が雪景色になっている。


「それで密会していた場所はどこだ」

「……こっちです」


 幾つかの茂みを超えると古びた小屋が見えてくる。


「ここか?」

「はい」


 ウライトは警戒せずに小屋の中に入っていく。


「罠とかは考えないのか」

「え?あ、ああ、そうですね、エレナは敵なんでしたね……」


 少し沈んだ表情をするウライト。


(……まさかとは思うが)

「恋をしていたんですか?」


 リンが聞いてしまった。


「……」


 ウライトは裏切ったことにより印象が悪いのに、ここで敵であろう女性と恋に落ちていたなどいえないだろう。


(感情に突き動かされてまた裏切らなければいいがな)


 中には簡易ベットと机と筆、食器が二人分用意されていた。


「何かあるか探すが、いいな」

「……もちろんです」


 それから部屋の中をくまなく捜索。


 ベッドの下、机の引き出し、屋根裏、布団の中、部屋の中総てを探し回る。


 そして見つかったのが、ウライトが持っていた白い粉と


「この手記だけか」


 屋根裏に隠された手記だけだった。


「…………」


 俺は最初の数ページを見てみる。


「何が書いてあったの?」


 クラリスの言葉に返答することなく、静かに手記を閉じてウライトに押し付ける。


「あの」

「これはお前が読め」


 そして静かに小屋を出ていく。


「ねぇ、本当に何が書いてあったの?」

「私も気になります」

「……馬に蹴られるぞ」


 あの手記はウライトへの手紙だった。










 ウライトを小屋の中に残し俺たちは扉の外でもう一つの目的を果たす。


「クラリス、魔力の方はどうだ」


 ここに来たのは何も物色するためだけではない。エルフ特有の能力である魔力の痕跡をみるためでもあった。


「ものすご~く薄いけど残っているわね、それも三つ」


 そう言うとクラリスは空を見上げる。


「また空にか」

「そうねここから南の方向に飛んで行っているわ」

「となると追跡は?」

「……微妙にできそうね」

「やっぱそうだよな………本当か?」


 思わずクラリスを二度見する。


 以前はできなかったので無理だと思っていたのだが。そんな思いとは裏腹にできそうだという言葉が返ってきた。


「ここら辺からは雪だからあんまり魔力がかき乱されていないのね」


 雪原という生命が生息しにくい環境が功を奏し、ギリギリで追うことができるとのこと。


「じゃあウライト待ちだな」

「その必要はありません」


 小屋からウライトが出てくる。


 その表情は何かを決断した時の顔だった。


「もういいのか?」

「ええ、ご配慮いただきありがとうございます」

「……では行こう」


 こうして俺たちはノストニアを出て例の女性を追う。








「ぅぅぅぅぅぅぅやっぱり寒い」


 俺達がやってきたのは雪山の一つだ。真っ白い雪道進み、追跡をしている。ただその最中リンが寒さにやられて口から弱音が零れ落ちている。


 もちろん全員分の防寒具を持って来てあるんだがそれでもかなりの寒さが残る。


「あの、よければ私の魔法で温めましょうか」

「!!!………いえ、気持ちだけ受け取っておきます」


 現在俺たちは魔力の痕跡のみで追跡している。そしてそれが上塗りされると追跡ができなくなる可能性があった。


「ああ、大丈夫ですよ。追跡に影響は出ませんから」

「………ではお願いします」


 ウライトが指を振ると小さい火の玉がリンの周囲に浮かぶ。


「ウライトは火の精霊と契約しているのよ」

「へぇ~」


 戦闘をこなせるエルフのほぼすべてが何らかの精霊と契約しているという。


「じゃあ、クラ「そういえば皆さんも寒くないですか?」」


 クラリスにどのような精霊と契約しているのかを聞こうとするとウライトが会話を遮って聞いてくる。


「ああ、俺は大丈夫だ」

「私もそこまでではないですね」

「……なんでそんなに寒さに強いの…」


 リンは俺達のことをうらやましそうに見てくる。


「なぜかって、それは」

「身体強化で何とかしているに決まっているでしょう?」

「はえ?」


 身体強化は何も力が強くなったり速くなったりするだけじゃない、温冷耐性や五感を強くすることもできる。


「そのようなことが……」

「もちろんそれなりに魔力操作が必要だけどね」

「リンの身体強化は大雑把だからな」


 リンは早速【身体強化Ⅳ】を使う。


「くっ、まだ寒いです」

「まだまだだな」

「そうね、魔力が体の外側に集中しているわね。これだとステータスの強化は申し分ないけどほかの面ではあまり恩恵はないわね」


 イメージとしては人型のスポンジに水を染み渡らせていくようなもの。


 俺とクラリスは中心部を、リンは外側を重点的に魔力を浸透させているのでこのような違いが出ている。


「……こうですか?」

「う~ん、若干よくなったけど、まだまだね」

「今後の課題だな」


 リンは少しだけ中にも染み渡った状態になっている、だが万全とは言えないとのこと。


「だが寒くはなくなっただろう?」

「たしかに先ほどまでの冷たさではないですね」


 若干ではあるが効果を体感できているそうだ。


 それから俺たちは常人では危険極まりない道を突き進む。


「にしてもこんな道を通ることになるとはな」


 雪の登山では絶対に通ることのないような場所を何度も通過する。


(さすがのクラリスたちでもこの状態じゃ速く移動はできないな)


 移動も森の中のように軽やかにとはいかず、ゆっくりと慎重に進んでいる。なにせ一歩間違えれば普通の人間では即死のような場所が多々あった。


「なぁウライト、なんで精霊を聞こうとしたときに邪魔をした?」


 先ほど精霊の話を遮ってきたのは理由があるはずだ。


「……エルフは精霊と親和性が高いとされています」

「それは聞いた」

「……そしてごく稀にですが精霊との相性が悪いエルフが生まれることがあります」

「それがクラリスだと?」


 ウライトは静かに頷く。


「話を聞いている限りでは別段おかしい話ではないんだが?」


 適性がないのであれば仕方がない。それがたまたまクラリスだったということだと思うのだが。


「……それだけじゃないんですよ」


 そういってウライトは足を速める。

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