エルフ同士の戦い
〔~バアル視点~〕
『――というわけなのですがよろしいですか?』
現在、ノストニアの首都エルカフィアにてアズリウスにいるラインハルトから連絡を受けている。
「ああ、問題ない。そこまで特定できたのならあとはデッドに任せておけ」
一つの貴族と一つの商会を調べるなんて影の騎士団や教会からしたら簡単な仕事だ。
「それとそろそろ荒事になりそうだから、各員に準備をしておけと伝えろ」
ようやく首謀者の尻尾を見つけた、これからは本格的に動くことになる。
『!?わかりました、どの位の規模でしょうか?』
「大規模な盗賊団の討伐程度だと思っている」
『了解です』
そういうと連絡を切る。
「さて準備はいいな?」
視線を移し、アルムと薬の効果から逃れたあのエルフがいる。
「もちろんです、アルム様が下さった償いの機会を逃しはしません」
俺とアルムは彼にある仕事を頼んでいた。
「よし、じゃあ頼む」
「はい」
アルムの言葉に彼は返事をし、それぞれが動き出した。
〔~アーク視点~〕
僕たちはルーアさんが次に訪れる村に来ている。
「村には入らないの?」
今いるのは目標の村の周辺で中に入る人物がよく見えるところだ。
「当然警戒されないためよ」
犯人に疑われていると思われた時点でアウトだ。その場合はせっかく手に入れた情報が無駄になる。
「このまま出てくるのを待つの」
僕たちは夜まで張り込む。
「………!でてきたわ」
夜になると村から一人の男が出てきて走っていく。
「追うわよ」
僕たちに小声で伝えると見失わないくらいの距離でついて行く。
その人物は途中で止まると周囲をキョロキョロと見渡している。
そしてなにやら文字を書き込む。
「……黒だったのね」
「どうしますか」
同胞が裏切っていたことに悲しみを覚えるルーアだが、いまは感傷に浸るときじゃない。
「そうね、ひとまずは止めるわよ」
ということで僕たちはエルフの背後から急を仕掛ける。
「『縛れ』」
ルーアさんの言葉でエルフの足元から蔦が這い上がり下半身を拘束する。
「!?」
その間に僕とオルドが接近して上半身を押さえる。
「お願いします」
最後にカリナの精霊魔法で顔全体に水を覆い、気絶させる。
「……なんだかあっけないな」
上半身から力が抜けたエルフを見てオルドは思わず口に出す。
「そうね、赤葉だから戦闘は随一のはずなんだけど……」
ルーアさんも不思議に思ったようだが、とりあえず頭の隅に置きルーアさんの指示通り彼を拘束する。
「さて話を聞かせてもらうわよ」
ルーアさんは水を生み出すと顔にぶつける。
「ガハッガハッ」
男は水を被ると目を覚ました。
「状況は理解できている?」
「……何の真似だ?」
男はルーアさんが生み出した蔦で何十にも拘束されており動くことができない。
「あら、それはこっちのセリフなんだけど」
ルーアさんが静かに怒っているのがわかる。
「あなた、エルフの情報を誘拐犯に売っているわね」
「証拠があるのか?」
「さっきの『飛ばし文』が証拠よ」
だが男は未だに笑う。
「話にならないな、俺が上司に報告を上げただけだぞ?」
「嘘ね、事前に確認したけど赤葉で連絡を寄越すような用件は無かったはずよ」
「ああ、だが急に訪ねたいことが出来たんだ。だがら『飛ばし文』で連絡を取ろうとしたんだよ」
「ほんと、口が良く回るわね。戦闘じゃなく口論を鍛えていたのかしら」
その後もルーアさんが追求し、男が躱すという問答が何度も続く。
「ほら、もういいだろうさっさと解除してくれ」
「っく!」
既に攻撃できる部分はすべてはぐらかされた。
ルーアさんにもう追求できる場所はないはずだ。
「ほら、さっさとしろ!!」
これ以上追及することがないためお互いが静かににらみ合っていると不自然に男の体が震えてきた。
「チッ、おい、早く!!」
「…何か病気にでも?」
「が、俺のポーチに黒い袋があるそれを取ってくれ」
僕はルーアさんに確認を取り、エルフの腰にある袋を探る。
「これ?」
取り出した黒い袋の中には真っ白い粉が入っていた。
「それを寄越せ!!」
「ダメよ、アーク。それでこれは?」
「何でもいいだろう!早く寄越せ!!!」
そう言って彼は踠く。
「てめぇそれに手を付けたら殺すぞ」
そう言うと周囲が熱くなる。
「やめなさい、アークそれを持って下がって」
「おい、俺がこんな軟な拘束で止められると思っているのか?」
そう言うと拘束していた蔦が枯れて、しまいには燃え尽きる。
「な!?」
「赤葉である俺は戦闘は得意なんだよ!!」
そういうと複数の火焔が男の周りに集まる。
「裏切った貴方に負けるもんですか!!」
今度はルーアさんの周りに水球が現れる。
そして始まるのは派手な魔法戦だ。
火焔と水球がぶつかると蒸気を発して消える。
ルーアが指を指し示すと土が盛り上がるとそこから木の根がうごめき男を縛ろうと蠢く。
男は冷静に動かず腕だけを振るうと、風が巻き起こり木の根を切り飛ばしていく。
さらには何個もの風の刃となりルーアさんに襲い掛かっていく。
「舐めるなぁあ!!」
ルーアさんが土に手を着くと眼前に迫った風の刃を巨大な土の腕が受け止める。
「来なさい、地の胎児!!」
すると土が盛り上がりそこからトロールほどの土人形が出てくる。
「じゃあこっちも、現れろ焔狒々」
今度は男の前に炎が集まり人型になっていく。
そして始まるのが壮絶な殴り合いだ。
火の狒々が殴り掛かると土のゴーレムはそれを防御もせずに受け止め、ものともせず殴り返す。
そして当然二人もじっとしているはずもなく狒々と人形を盾にしながら魔法戦を繰り広げている。
魔力の豊富なエルフだからか見たことのない数の魔法が行き交う。
このまま長引くと思われたが決着はあっけなく訪れる。
「グハ!?」
男が急に地に膝を付けたのだ。
そしてそのまま倒れこみ意識を失う。
「……なにがおこったの?」
周囲を見渡すが誰も動いてない、それに魔法を使ったわけでもない。
近づいてみるが間違いなく気絶している。
「まぁいいわ、それよりアーク結局それは何なのかしら?」
「えっと、なんか真っ白い粉がはいってました」
(!?)
「ルーアさんは何か知っていますか?」
「いえ、私も良く知らないわ……ただ」
ルーアさんは男を見ている。
「こいつがやけに執着していたからかなり気になるわね」
とりあえず僕たちが男を担ぎ、村まで連れていく。
「遅かったわね」
僕たちが村に戻ると入り口で桃色の髪をした少女が待っていた。
「クラリス様!?」
ルーアさんが驚いている。
「とりあえず話はあとで、ついてきて」
桃髪の少女の後をついて行くと一つの民家にたどり着く。
中に入ると男をベッドに寝かせる。
「さて、ルーア、何があったか教えて頂戴」
「はい」
アネットのいた村を出てからのことを細かく報告するルーア。
「なるほどね」
「現在はこのような形になってしましました」
二人はベットに視線を向ける。
「目覚めさせて話を聞きたいところなんだが」
「暴れられては困りますからね………仮にも赤葉のメンバーですし」
もしあの男が倒れたりしなければ勝負はどうなっていたのかわからない。
「とりあえず彼を連れてエルカフィアに向かうわよ」
僕たちはクラリスさんの先導で神包都エルカフィアに来た。理由はそこにノストニア一番の薬師が存在しており、白い粉がどんなものか判明するかもしれないから。
「とりあえずはこの家を使って、アニキの隠れ家の一つだから」
僕たちはクラリスさんのお兄さんの家に案内された。
「それじゃあ私は薬師を呼んでくるから」
そう言ってクラリスさんは家を出る。
その間、僕たちは男を代わる代わる監視する。
「にしてもすごいなこれ」
僕と一緒に監視をしているオルドは自分の耳を触って感触を確かめていた。
今の僕たちはクラリスさんから渡されたチョーカーを付けている。
これを付けると髪の色が金色となり、耳が少しとがってエルフのように見えるようになっている。
「たしかにね」
僕もとがった耳を触ってみる。
幻影というわけではなくしっかりと触感がある。
しばらく違和感を感じていたらクラリスさんが戻って来た。
「薬師を連れて来たわ」
「邪魔するよ」
少し年のいった老女が入ってきた。
「で、儂が見る患者はどこじゃ」
「えっと、こっちです」
ベッドに寝ている男を見せる。
「どれどれ」
それから体を隅から隅まで触診する。
「……なんじゃこれは」
「どうかしましたか?」
薬師のおばあさんは変な顔をする。
「儂は多く見て来たがこんな症状は初めてだ」
そう言って困惑している。
「詳しく話してもらえますか?」
「うむ、体の身体機能に基本的には問題ない。ただ」
「ただ?」
「うむ、魔法で調べてみたがこの者は脳が異常に小さい、いや小さくなっているというべきかのぅ。あとは少し肺が弱い程度だな……こんな症状は見たことがない。こやつの持ち物に何か薬とかなかったか?」
「それなら」
僕はあの白い薬を見せた。
「見たことがない粉だな」
薬師は指でつまみ観察する。
「まぁ長年の勘から言って薬ではないな」
「じゃあこれは一体なんなんですか?」
「さぁな、ただノストニアにはないものだとは断言できるぞい」
「……そうですか」
するとなにやらクラリスさんは考え始める。
「ルーア、新たな任務です。アズリウスの人達と合流してこの粉が何なのかを調べなさい。そしてできれば誘拐した者の正体を突き止めてきてほしい」
「わかりました」
今度はクラリスさんがこちらを向く。
「君たちもできれば手伝ってもらいたい」
「はい、もちろん手伝います」
「そうだなここまでくれば最後まで終わらせないと」
僕たちもルーアさんを手伝うことを承諾する。
「では急いで行動をして。彼は拘束をしているがいずれ誘拐犯が違和感に気づくかもしれないからな」
僕たちは急いで準備をしてノストニアを出る。
「これでよかったですか姫様?」
6人が出ていくと気を失っていたはずの男が起き上がる。
「ご苦労様、ばあ様もご苦労様」
「ケッケッケ、いいさ、まさかお転婆姫様に演技を頼まれるとは、小さい頃以来だのう」
「小さい頃もこういうことが?」
「ああ、勉強が嫌で、よく儂の部屋に隠れに来たのだ」
「ちょっと!?」
「そのたびに追いかけてきた先生に演技でごまかしたりもしていたの~懐かしい」
「へぇ~」
二人はクラリスの昔話で盛り上がっている。
「ンン」
「姫様も不機嫌になっているので話はここまでにしようか」
老婆はクラリスが怒るギリギリで話題を変える。
「にしてもここまでの演技が必要だったのですか?」
「あるわ」
男の疑問に即答するクラリス。
「アニキも客人のバアルも同じ考えで、なんでもいかに国が国民のための方針をとっても国民が納得しないと意味がないのだとか」
「なるほどのぅ、誘拐に人族が関われていると皆が知っている以上、交流にいい顔をするエルフはほぼいない」
「そこで彼らが活躍し誘拐組織を潰し人族にもこのような人物がいると知らしめたいわけですね」
「そういうこと、人族全員が悪者ではないって思わせる必要があるんだって」
そうしないといつまでもエルフから誘拐している存在と捉えられ、双方に悪い影響が起きる。
エルフは誘拐事件で嫌悪感を覚え、人族は感じが悪いエルフを見て交流しようと思うだろうか、おそらくは思わない。
そうなると最低限の交易のみしか行うようにしかならずにアルムの希望通りにはならず、バアルの希望通りにもならない。
よってこのような大がかりな段取りを用意している。
「ですが、あの子たちだけで大丈夫ですかね」
「大丈夫よ、彼らは一人じゃないからね」
クラリスは彼らを心配などしていない。ルーアはもちろん、アズリウスにもさまざまな仲間がいるのを知ってるから。




