新たな協力者
僕たちは警戒しながらノストニアを進み、3日掛けて最初の村にたどり着く。
「で、その二人がこの子たちを攫おうとしたのだな」
ただ村に着いたと同時に村長の元まで案内されて聴取を受けていた。
「はい、村長」
「で、この子たちは……」
エルフの村長は僕たちを睨む。
「人族の子供か」
忌々しいものを見るような目でこちらを見てくる。
「村長、大丈夫ですよ、この子たちは問題ないです」
ルーアさんが僕たちのことを弁護してくれるがそれでも村長の視線は少し緩くなったぐらいだ。
それから僕たちは村長の計らいで空き家の一つに寝泊まりすることになった。
「にしても視線が痛かったな……」
ベットの上でオルドがつぶやく。
「そうだね……」
この家に来るまでの視線は、まるで害獣の子供を見る目だった。
(人族が子供攫いをしていたから、か)
その視線も仕方がない。
コンコンコン
ベッドで横になっていると家の扉がノックされる。
「「おにいちゃん!!」」
「うぉっと」
扉を開けると先ほどの子供エルフが飛び込んできた。いきなりの事で対応が遅れて二人に押し倒される形で尻もちをつく。
「こらこら、恩人にとびかかるなんて」
後ろから男性のエルフがやってきた。
「君がアーク君たちだね」
男は僕に手を差し出してくれる。
「この子たちを助けてくれて感謝するよ」
「あの、貴方は?」
「ああ、僕はイクル・ルハオ・アベスフト、フィアとハウの父親だよ」
「「「「「父親!?」」」」」
どう見ても成人したての青年にしか見えない。
「息子たちのお礼に食事でもどうかと思ってね」
そういうと見たことがない植物や鳥が入っている籠を見せてくれる。
グツグツ、コトコト
家のキッチンでルハオさんが料理をしてくれている。フィアとハウももちろんそれを手伝っていた。
「この光景は人もエルフも変わらないんだな」
三人が料理しているのを見てそう漏らす。
「こういうのは変わらないですよ」
ソフィアやカリナ、リズはあの光景を見て微笑んでいる。
「そういえばルーアは?」
「なんか、報告があるからって明日までいなくなるって」
ルーアさんはあれでも、戦士として活動している。報告もそのうちの一つで、当たり前の行動だ。
〔~ルーア視点~〕
「で、どうだったの?」
私は村から離れた場所でクラリス様に報告をしている。
クラリス様は私たちよりもノストニアに入るタイミングは遅かったのだが、私たちが警戒しながら進んでいる間にすでにこの村にたどり着いていた。
「無事にアークがアネットを届けることはできました」
「それは良かったわ」
「ですが、なぜこんなことを?クラリス様もノストニアに向かうならそちらでも」
「……バアルが届けるのと、アークが届けるのとどちらが信頼を得やすいかは分かるでしょう?」
クラリス様やアルム様が人族との友好を望んでいるのは理解している。だから今回はわざわざ、アークたちに依頼した。
それでも安全を取るならば少し遅くなるとしてもクラリス様の方に同行させるべきだったと思いもする。
「それに貴女もいるのだから問題はないと踏んだの」
納得できる部分もあるのだが、心情的には微妙だ。
「一応は友好関係のきっかけは作れました、ですが」
「が?」
「村へ向かう途中に誘拐者と遭遇、誘拐現場を目撃し、戦闘になりました」
そういうとクラリス様は驚いた顔になる。
「詳しく聞かせて」
それからアズリウスから出た後の報告をする。もちろん戦闘の事も。
「魔法が使えない?」
「はい、『封魔結界』というものが使われると精霊魔法が使えなくなりました。ですが身体強化などの体内で使う魔法は問題ありませんでしたので、おそらく体外での魔法を禁じるものかと」
「だから子供たちも捕らえられたのね」
エルフは精霊と親和性が高い。
そして神樹や聖樹の影響で精霊の数が多い。そのためにほぼすべてのエルフは何らかの精霊と契約している。故にすべてのエルフは最低限の戦闘能力を持っていると言っていい。
だがそれさえ封じてしまえば、武器の戦闘ができない者はただ力の強い子供でしかなくなる。
「まぁわたしなら関係ないけどね」
「それは、まぁ………それとエルフの中に裏切り者がいる可能性が出てきました」
「どういうこと」
私はあの二人が事前に情報をもっていた言動をしていたことを伝える。
「もちろん、騙すための言動かもしれませんが」
「仕方ないわ、それに……」
クラリス様は何かを迷っている顔になる。
「あの……」
「貴方になら言ってもいいでしょう」
クラリス様は近づき耳打ちする。
「現在、アニキの客人バアルが情報を精査していると裏切り者の可能性がでてきたの」
「!?……ですが人族なのですよ、信用なさるおつもりで?」
「あら、あなたもアークと言う少年を信用しているじゃない」
「それは!!」
「それにアニキも信用していて、さらには向こうと利害関係も一致している。言い方は悪いけど正義感を振りかざしているアークという少年よりは信用できると考えているよ」
「っ!?」
私は悔しそうにする。
(彼らは弟を助けるのに手を貸してくれた、アネットも何とかしようと私に頼ってきた、そんな彼を疑うなんて)
不敬ながらもクラリス様に不快感を抱いた。
だが客観的に考えてクラリス様の考えの方が普通なのだろう。
「では今後の動きはどのように動きますか?」
「あなたは五人と連絡とれる距離にいて普段通りに、とりあえずはもう一つのグループの結果待ちよ」
〔~ガルバ視点~〕
アークがノストニアの村に到着して数日が立つ頃、アズリウスでは。
「それでどうなったのかな」
私、ガルバはデッドが用意した部屋で檻のなかの人たちを見ている。
「エルフ達は優秀だな」
ジェナが連れているエルフの一人を見てそう漏らす。
「そう難しいわけではない。だがこれだけ捕えても核心にたどり着けなかった」
檻の中にいる十数人からいくら情報を搾り取っても確信には至らなかった。全員が運搬の護衛やオークションに連れていく際に少し触れた、どの組織が裏オークションの窓口になっているか程度の情報のみしか持っておらず、核心のどの組織が誘拐をしているかが不明のままだ。
「で、知っているのは本当にそれだけか?」
「ほ、本当だ!俺らは真っ黒いローブの男からオークションの窓口になってくれって頼まれただけだ!!」
「お、俺も場所を貸しただけで、中で何が起こっているかは知らない!」
「わ、私もよ!」
全員のやり方を聞くとこうだ。
まず最初に交渉役は真っ黒いローブが来る。
その組織の名義でオークションに出品、そして売れた1割の金額を名義代をして払われる契約を結ぶ。
他にもほかの組織の名義で倉庫を借りたり、倉庫に届けたらまたほかの組織がエルフを会場まで運搬する。
そのようなルートがわかっているだけでも7つ発見されている。
「張り込みの結果はどうですか?」
「残念ながら空振りだ、運ばれてきたのは普通の商品が大半だった」
(おそらくバレているな、しかしどうやってアズリウスの倉庫まで運んでいる?)
誘拐組織は倉庫に来るまでまったく足取りがつかめてない状態だ。
「…………」
「ジェナさん、何か思うところでも?」
「ああ……すまない」
私はジェナさんが何か考え込んでいるのに気づく。
「そういえばガルバの方はどうだった、同胞はいたか?」
「残念ながら2人ほど」
オークションには二人のエルフの子供が売られていた。
しかも片方は女児だったことから金貨700枚越えだった。
(いくらあとで補填してくれるとは言ってもこのままでは限度がある)
現在、残りは金貨1500枚だ。
このまま行くならあと数人が関の山となる。
「しかし、このままではしらみつぶしにしていかないといけませんね」
「なぁ、それなんだが、裏組織に侵入して金を受け渡す際に捕まえることはできないか」
ジェナがめずらしく、いい案を出す。
「そ、それなんですが」
一員が言うには、オークションの売り上げは仲介料を除いた代金だけを箱に詰めて倉庫に置いておくだけなのだそうだ。
そうすれば翌日の朝には影も残ってないらしい。
「ちなみにそっちも張り込んでみたが、私たちがいるとなぜだか現れなかったぞ」
ならばと思ったが、既にジェナが張り込み、現場を確保しようとしていた。だが、それすらも空振りだったという。
「へぇ~」
今の言葉に一つの道が見えてきた。
「なんか、思いついたのか?」
「ええ、ひとつ質問を良いですか?」
「こちらの方は?」
「3人とも私の護衛です」
私は今年最後に開催される裏オークションに来ていた。
「待っていたぞい」
会場に入ると、鷲のお面を付けた老人がこちらにやってきた。
「話は聞いている、では参ろうか」
そういうと少し離れた席に着く。その周囲には様々な動物の面を付けた人物が席を囲っている。
「こやつらは儂の組のものじゃから心配はない」
「それは安心だね」
私が席に座ると、後ろに護衛で来ている、エルフ、ジェナ、ラインハルトが席に座っている。
「で、なんじゃったっけな、エルフを誘拐している組織を見つけたいんじゃったな」
「ええ、そうしなければエルフがアズバン領にむけて報復を仕掛けるようなので」
この情報はフェイクだ。
ここで馬鹿正直にエルフの交易のためにと言ったら、それをネタに強請られる可能性がある。なのでここはエルフに協力する不自然ない理由にした。
「なるほどのう」
「で、どうです、協力してくれませんか」
「ふむ、見返りは?」
「では何を要求しますか?」
私はラインハルトさんを見ながら話を進める。
ここからは私だけでは判断できない。
「ではゼブルス家に後ろ盾になってもらおう」
「「!?」」
私とジェナは驚く。
なぜか、クアレスは私たちの後ろにバアル様がいるを知っている。
「なぜ、ゼブルス家の後ろ盾が?アズバン家か王家でも問題ないのでは?」
ラインハルト殿がなぜゼブルス家の後ろ盾が欲しいのかを聞く。
(たしかに、アズリウスを拠点にしているのならアズバン家が後ろ盾にしたほうが都合がいいだろうに)
わざわざ、遠くのゼブルス家を後ろ盾にする必要はない。
むしろ仲が良くないアズバン領でゼブルス家の後ろ盾を得たら、敵対勢力として見られる可能性すらある。
(デメリットしかないはずなのに、なぜ)
「色々考えているようだがな、儂らが欲しいのは魔道具じゃよ」
「魔道具ですか」
「ああ、とある組織にゼブルス家が通信用魔道具を供給していると耳にしてな」
すると一瞬、本当に一瞬だけデッドの目線が鋭くなった気がする。
「残念ながら、そんな事実は確認されていない」
ラインハルトはそういって否定する。
「だがお主が使っているそれはどうなんだ」
そういうと杖でラインハルト殿の懐を指す。
「……」
「我々は実力はたしかなのだが、いかんせん数が少ないのがネックだ、そこで」
「通信用魔道具を使用したいと?」
「それがあれば、儂たちはさらに飛躍すると思わんか?」
たしかに個の力はずば抜けている『黒霧の館』だ。だがその反面、組員の数はかなり少ない。
「無論、お主たちだけで決めることはまず無理だろう。だから確認してくれぬか」
「………すでに確信しているようだし、誤魔化せないか」
そういうとラインハルト殿は懐から四角い石の塊を取り出す。
なにかを操作すると、石から声が聞こえる。
『ラインハルトか、何かあったのか』
「実はですね―――」
現状を話す。
「――ということで、判断を仰ぎたいのです」
『わかった、とりあえずそのクレアスに代われ』
ラインハルトがクアレスに近づき魔道具を手渡す。
「はじめまして、儂が『黒霧の館』の総督、クレアスと申します」
『あっそ、でなに、俺の後ろ盾が欲しいのか?』
「ええ、正確に言えばあなた方が使っている連絡用の魔道具を譲ってもらいたいのです」
『その見返りは?』
「我々はゼブルス家に不利益をもたらす行為はしないと約束いたしましょう」
『いいだろう、その代わりに今回の件にお前らも加われ、そして解決に協力しろ。その報酬に魔道具を支給してやる。ただ』
「ただ?」
『後ろ盾になることはない』
「話が違いますよ」
『違わないだろ?お前たちは魔道具が欲しいだけ、俺は今回だけ手伝ってほしいだけだ』
依頼という形だとバアル様は言う。逆に言うと組織からゼブルス家に助けを求める際に大義名分と報酬があれば動いてくれるということになる。
「……ふむ、いいでしょう。私たちがエルフの誘拐組織の尻尾を掴み、壊滅させる手伝いを、そしてその報酬に魔道具を融通してもらうということでいいですね?」
『その代わりにきっちりと動いてもらう』
「ええ、もちろんです。まさかこのように遠距離から話し合う魔道具だとは思わなかったですよ」
まるで示し合わせたかのように話が進んでいく。
クアレスは想像以上に魔道具が高性能で嬉しそうにしている。
そして通話が終わると、ラインハルトに魔道具を返却する。
「いや、いいものを見せてもらったぞい」
「バアル様の承諾も取れたので先ほどの内容で手伝ってもらいますよ」
「ああ」
これで『黒霧の館』が全面的に協力してもらうことになった。