またお前らか…
翌朝、朝食を済ますとアルムの側近に案内してもらい、アルムの元に向かう。
「やぁバアル、よく眠れたかい」
机の上で書類仕事をしているアルム。
「昨日の話の続きを頼む」
昨日の風呂での提案を俺は呑んだ。
「まず君たちの方だが僕が無理に政策を推し進めて国が割れるのが嫌なんだろう?」
「ああ、俺達からしたら交易して敵対の対象になるよりは交易せずにかかわらない方が、まだ無難だ」
正直どうしても交易をしたいわけではない、グロウス王国だけでも自給率は1を超えている。交易の主目的は貴重な素材なので、そんなリスクを負ってまで欲しい代物ではない。
「どうやって交流したいと思わせる?」
この問題点はエルフ側が人族と嫌っているという点にある。そこさえなんとかしてしまえば交流への筋道が見えるのだが。
「いくつかネタはあるんだけど、どれも微妙でね」
アルムは人族の食事、嗜好品、遊びなどでエルフの興味を向けようとしているがなかなかうまくいかないのだとか。
「なぁエルフの生活を見せてくれないか?」
何かヒントになるかもしれないと思い調べることにした。
「こんな感じですね」
俺はアルムの理解者であるルーアというエルフの元にお邪魔することになった。
今いるのはルーアの家で、例に漏れず樹の洞に作られた家だ。
「食器は全部木製、家具もか」
鉄製なのは包丁や武器に使われているぐらいだ。
ここで重要なことに気づく。
「食料の保存はどうやっているんだ?」
「ここにありますよ」
木製の箱の中に氷と木の実やらが詰め込まれている。
「これだけか?」
「はい」
これは使いにくい、なにせ解凍しなければすぐさま使うこもができない。それに水気がダメなものは保存できない。
だがこういった不便さがあるゆえに突破口が存在する。
「使えるな」
「????」
他にもレンジなどは需要がありそうだ。
「火などはどうしているんだ」
「火や水は魔法で作り出せるので」
そう言って火の玉と水の球を作り出す。
(なるほどな、魔力の多いエルフだからこそだな)
人とは違い長時間維持することが難なくできる。それゆえに人族が普通に頼っている部分が存在しないない。
「……?鉄はどこから作っているんだ?」
「鉄ですか、鉄は土魔法で抽出して作り出していますよ」
(……ほんとうに魔力が豊富なんだな)
地面から鉄分を抽出し、形成する。魔法をかじっているからこそ、どれほどの魔力を必要とするか理解できてしまう。
(……これなら十分やりようはあるな)
それからほかのエルフの生活も見ていたがどれもある程度似通っていた。
「バアル様、方針は決まりましたか?」
馬車の中でリンがどうするのかを聞いてくる。
「ああ、魔道具を売る」
「「???」」
一緒にいたラインハルトまで頭を傾げている。
「エルフに困っている部分なんてないと思いますが?」
現にほとんどの魔道具の役割を魔法で何とかしている。
だけど
「それは火を使ったり氷を使ったりと原始的な手法が多かった」
冷蔵庫みたく氷要らずに物を冷やしたり、レンジみたく焦げ目をつけずに物を温めたりなどはできない。
早速アルムに相談し、アルム派のエルフに魔道具を配っていった。
魔道具を配ってから2週間が経過した。
「進捗はどうだ?」
「そうだね、思ったよりも好評だよ。いろんなエルフがあの魔道具を求めている状態になったね」
現在、アルムの離れで報告を聞いているが進捗としてはかなりの要領で進んでいるようだ。
「にしてもいいね、これ」
アルムも自室でマッサージチェアに座っている。
「おかげで人族、もっといえば君との交流を求めてくるエルフがかなり増えたよ」
「意外ですね、様々な魔法を使えるエルフなのに魔道具に頼るなんて」
リンは必要ない物なのだからそこまで需要がないと思っていた。
「そうじゃないんだよ、僕たちエルフだって楽できる部分は楽をしたいんだよ」
例えば、川からは遠いが水道を引いている家と真横に川が流れていて水道を引いていない家、どちらがいいかと問われれば、当然前者が多い結果となる。
エルフが使っている冷蔵庫はその日の気温によって氷の解ける速度が違い不安定だが、イドラ商会の冷蔵庫は周囲の気温など関係なく、さらにはいつまで稼働できるかなどの機能も付いており便利さが違う。
他も似たような状態で魔道具が便利だと多くのエルフが気付いている。
「これで人族の印象は多少緩和されたか?」
「そうだと言いたいけどまだ微妙だね」
アルムの話だと原因は誘拐にあるようだ。
「大半のエルフは誘拐をしているのが人族だということを知っているからね」
それは仲良くしようとは思わないな。
「ならどうするんだ?」
「君の権限で僕たちに人攫いをしている奴らを潰す許可をくれれば問題ないよ」
「それぐらいならすぐに取ってこよう、それと一つ頼みがある―――」
残念ながら俺の名前だけでは効果が薄い、なので一度アズリウスに戻り王宮と連絡をとることになった。
「ということで人攫いをしている組織を潰す許可をください」
『ふむ、よかろう。もともと我はそんな組織を認めた覚えはないのでな』
俺は護衛のリン、監視役のクラリスを伴ってアズリウスに戻り、手配した宿の一室にて連絡を取る。
「それとですね、グラス殿に人攫いの組織を洗い出してほしいのです」
『交渉材料になりそうなのか?』
「ええ、確実に」
『わかった、我から指示を出しておこう』
「ありがとうございます」
後は連絡が来るまでで待機することになった。
(アルムに連絡だけしておくか)
事前にアルムにもらった紙に問題ないことを書く。すると文字は鳥の姿になって飛んでいく。
「……これ便利だな」
速度は俺の魔道具の方が格段に速いが距離は魔道具を中継するため限られる、だがこの紙だと時間はかかるが距離に制限はなくなる。
両方に良し悪しが存在する。
暇になったのでアズリウスの市場で屋台などを巡るが。
「………」
「「「「「………」」」」」
偶然なのか良く知っている顔に出会った。
「なぜここに」
(それはこっちのセリフだ)
五人の後ろからもう一人やってくる。
「あ、ぁの」
何やらフードを被った気弱そうな少女だ。
身長は俺達よりも小さく、おそらくは6、7くらいの年齢だろう。
「ぁれ?」
すると少女は俺の方を見て首をかしげている。
「お兄さん、ノストニアから来た?」
「「「「「!?」」」」」
「へぇ~」
……………俺の予想が正しければ、こいつは。
「バアル、終わったの?」
今度は俺の背後からクラリスがやってきた。
「って、その子は……」
「クラリスさま!!」
少女はクラリスに飛びつく。
「なんでこんなところにいるのですか?」
クラリスの護衛をしていたリンはアークたちを見てそうつぶやく。
思わぬところで知っている奴に出くわした。
「さて、なぜお前たちがここにいる?」
俺が手配している宿に移動して話を聞く。
居心地悪そうにしている5人組は少しずつ話してくれる。
「えっと、実はですね――」
アークから話を聞いたら頭を抱えそうになった。
〔~アーク視点~〕
冬に入ると町の外に行きにくくなる。
なので冬季休暇中、僕たちはギルドで街中で出来る依頼をこなして小遣い稼ぎをしていた。
「今度はこれにしませんか?」
「いいね」
ギルドでソフィアがとあるクエストを見つけた。内容は教会がスラムで炊き出しを行うのでそれの手伝いだ。
良い依頼だったので僕とソフィアはそのクエストを受け、翌日教会に集まり炊き出しに参加することにした。
「はい、どうぞ」
「ありがと!お姉ちゃん!!」
ソフィアは器に食べ物をよそって子供たちに渡す。
「アーク君、馬車から食材を持ってきてくれないかな」
「わかりました」
今回はオルド、カリナ、リズは用事があるので不参加。なのでソフィアと二人での仕事となる。
僕は係の人に言われて、食材が置いてある馬車から芋が入っている箱を取り出し運ぶ。
「ふっ」
大人でも持つのが大変な重さでも魔力による【身体強化】で楽に持ち上げることができる。
それからすべての炊き出しを終えると撤収を始める。
「あ、あの」
突然服を引っ張られた。振り向いてみると襤褸布をかぶっている少し年下らしき少女がいた。
「どうしたの?まだもらってないの?」
フルフル
首を振り何かを訴えるように服を引っ張る。
「ついてきてほしいの」
コクン
どうしよう……
「アーク、どうしたのもう出発するけど……あれ?」
馬車の準備が終わったことを伝えに来たソフィア。
この子に食い止められているのを見てしゃがむ。
「どうしたの?お姉ちゃんたちに話があるの?」
コクコク
頷くとソフィアの服も掴み路地に連れて行こうとする。
「ごめん、少し遅れるって伝えてきてくれる?」
「わかった」
今はクエスト中だ、依頼主の許可も取らずに勝手な行動はダメだった。依頼人である派遣されてきた神官にこの事を話すとその場でクエスト達成証をくれた。
これをギルドに届ければクエストは達成されたことになる。
神官たちと別れると今度はソフィアを追う。
「お待たせ………ソフィア?」
ソフィアはこちらを見ずに固まっている。
「どうしたの……え?」
近づいてみるとなんで固まっているのか分かった。
「ぉねがい、たすけて」
消えそうな声を出した少女は髪をかき分けている。
そこから見えたのはとがった耳だった。
〔~バアル視点~〕
「で、そのあとに皆と相談してルーアさんに連絡して引き取ってもらおうと思いまして」
それでお前らがいる訳か。
「なるほどな、あとはクラリスに任せて」
「それは本当なの!?」
エルフの少女の対応していたクラリスが声を荒げる。
「おい、どうしたんだ」
「他にも捕らえられている子供がいるらしいの!!」
エルフ少女の名前はアネット、誘拐に遭っていたエルフの子供の一人だ。
なんでも秋に友達と遊んでいたら急に何かに襲われ、誘拐された。その後、その友達と共にどこかに閉じ込められる。
閉じ込められた先では、すでに多くの子供たちが捕らえられており全部で30名ほどがいたらしい。
(そこまで大規模に動ける組織なのか……)
エルフ達も馬鹿じゃない30名もの子供が攫われたのなら異変に気付くはずだ。なのに未だにその組織が存在しているこの時点でかなりの組織が関わっているのだろう。
その後も少女の話は続く。
30人も捕まると組織は十分と判断したのか、今度はアネットとその他、数人を連れて行くと強制的に首輪を嵌められる。
「今しているこの首輪だな」
アネットが嵌めている首輪には魔法陣が描かれている。これには魔法の操作を妨害する力があるらしく、そのせいで魔法はおろか、【身体強化】で逃げることもできなかったらしい。
他にも所有者の判断で首を絞めることができる機能もあったみたいで、何度か体験してしまったりもしたそうだ。
これにはこの場の空気も重くなる。
「それでどうやって逃げてきた?」
「それは――」
首輪をつけられると何やら箱の中に閉じ込められてどこかに運ばれていったのだとか。
「……怖かっただろうな」
「「「「「「「!?」」」」」」」
「???」
(………なんで共感しただけなのにお前たちがそこまで驚く)
少し言いたいことはあるが話を続けさせる。
それから数日、アネットは食料と一緒に箱に閉じ込められ運ばれていると大きな振動を受ける。
何事かと思うと、急に箱が投げ出されて衝撃と共に箱から放り出される。すぐさま何が起こったのか確認すると馬車が大きな熊になぎ倒されていた。
ガァアァァァ
熊は馬車の荷物に夢中になっているのかこちらには気づいていない。
「っ!?」
幸いなことに熊が次に興味を持っていたのは死体だった。御者とその護衛数人が体から血を流して動く気配がしない。
グチュ、グチュ
咀嚼音が聞こえると怖くなって、アネットはそこから駆けだす。
それからアネットは森の中を何日も森をさまようことになり、空腹で倒れそうなときに森の中から見えたのは大きな町だった。