表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/564

動き出した問題

「ある程度、収穫量が戻ったな」


 俺、バアル・セラ・ゼブルスは文官が持ってきた書類を確認している。


「ええ、呪いが収束した反動で吸収されなかった分、成長が速かったようですね」

「そうだな」


 サルカザの二年前からの怨みでゼブルス領を蝕んだ呪いで不作になっていた。だが元凶を倒し、呪いを壊したことにより、ある程度は実りが戻っていた。


「今年の足りない作物は大型の冷蔵庫から備蓄分を放出しましたがよろしかったですか?」

「ああ、ほかにも足りないものがあったら問題ない範囲で放出を許可する」


 こういう時に備えて大量に食料の備蓄をしていたので対処ができている。


 その後はどれほど市場に放出するかなどの今後の予想を語り合い、文官は部屋を出る。


「………それだけではないけどな」

「そうですね、あの杖の効果もあるんでしょうね」


 リンの言葉で工房に置いてある『豊饒の杖』を思い出す。


 『豊饒の杖』は魔力に応じて大地を肥えさせる能力だとセレナの知識から判明している。なので工房に設置してある魔石から常時魔力を供給させることでいつまでも【豊穣ノ大地】の効果があり、ゼブルス領を豊作へと導いている。


「しかし、教会に返さなくていいのですか?」

「……モンスターが持っていたからな」


 モンスターから奪ったものはその人のものになる。なら必然的に俺が所有者となる。


「それよりセレナはどうしている?」

「庭で剣術の練習をしていますよ」


 窓の外を見てみるとラインハルトに剣術を教わっているセレナ達の姿が見える。


「なんでも、カルス達にスキルレベルを越されたのがショックみたいで」


 魔法はセレナの方が上なのだが剣術だけで言うとカルスたちの方が上回ってきている。


「いや、あいつの本分は魔法戦だろう……」


 一応本人は魔法戦士を目指してはいるが、傾向としては魔法戦に重きを置いている。


 視線を机の上のノートパソコンに移し、作業を再開させる。


「何をしているのですか?」


 魔道具にある装置を作れないか思案している。


「それはどんな?」

「……あの戦いでウルが樹から魔力を供給されていただろう?その仕組みを真似できないかなって、な」


 あれができれば魔力が使い放題にできる。それに供給する元はある、ならばその仕組みを作り出せれば。


「これでどうだ」


 自作のパソコンに考案したシステムの実験をしてみる。


「ふむ……」


 パソコンにある魔力が腕に着けているバングルを通って俺に戻ってくる。


 だが


「っち」


 その代わりにパソコンの全魔力が送られてきたので強制シャットダウンしてしまった。


「とりあえず過剰魔力のみを搾取する設定にするか」


 それぞれの魔道具に過剰魔力量を設定し、近くから魔力を受け取れるようにする。


 設定し終えると、もう一度パソコンで試してみる。


「……今回は上手くいった、が」


 想定よりも受け渡された魔力が少ない。明らかにどこかでロスがある。


「ふむ、こうなるのか」

「バアル様、御当主様がお呼びになっています」


 だいたいの予想を立てていると、呼び出されたので父上の執務室に向かう。








「ふぅ~~~この魔道具はいいね~~~」


 少し見ない間に執務室の一部に電気ストーブが置いてあり、その横にあるこたつの中に父上は入っている。


「暖炉があるじゃないですか」


 一応全部の部屋に暖炉が設置されているのだが、魔道具を作りだしたからほぼ使われることはなくなっていた。


「いや~薪を持ってきたりするよりも、魔力を籠めてつまみを回せばいいから楽なんだよ。煤とかも出ないしね」


 そう言ってこたつでワインを飲む父上。


「……で、用件はなんですか?」

「ああ、いくつかの家から手紙が届いている」


 こたつから出ると、机の引き出しから複数の手紙を取り出し渡してくる。


「ああ、例のですか」

「心当たりがあるのか?」

「ええ」


 サルカザに協力していた貴族を影の騎士団に割り出してもらい、様々な圧力をかけていた。


 食料供給を少なくし、いくつかの魔道具を意図的に動作不良にしたり、騎士団の派遣などを遅らせたりなど嫌がらせを行っていた。


「馬鹿どもが」


 普通に恨んで何かしらの手段で挑戦してくるなら問題ない。だが今回のように犯罪者に手を貸すのなら容赦はしない。


「……ふむ、王家に仲裁に入ってもらったか」


 既に王家には今回の件はある程度報告している、だが王家は俺の味方でさらには教会も今回の事で怒っており、向こうは頼る相手がいない。


「………まぁ妥当か」


 なので今回は普通の時よりも多めに慰謝料という名の何かを支払う必要が出てくる。金品はもちろんいくつかの権利などをだ。


 そして手紙には金銭や物品で賠償金を払ってくると書いてある。


「あと、これらの家は論外ですね」

「どれ……確かにな」


 今そう判断した家は、賠償金代わりに娘を差し出すと書いてある。


(アホだろ、どれだけ婚約者を選定するのが大変かわかっていないな)


 さらには賠償を躱し、上手く取り入りたいという欲望が見え隠れしている。


「それで、この家に関してはどうしますか?」

「謝罪は受け入れない、だが少し様子を見る」


 これよりもアホな行動を取ったら取り潰し、もしくは当主交代してもらうことになるだろう。


「しかし、穏便だな、もう少し過激にやると思ったが」

「父上は俺のことをどう思っているのですか……」


 かなりのサディストと勘違いしていないか?


 ブルルルル


 連絡用魔道具が反応する。


「どうした?」

『バアル殿か?』

「グラス殿?どうしたのですか?」



『すこし、知恵を借りたい』









 雪の中、王都まで移動する。


「何の要件で呼び出されてたのでしょうか?」

「さぁな、だがよほど切羽詰まっているのは分かる」


 なにせ今回は影の騎士団だけで対処できなくて援助を求めてきたのだから。ほかにも様々な貴族と相談できたはず、だがそうせずに俺に話を持ってきた。この時点でよほどのことが起きているのがわかる。


「それにしても皆を置いてきて良かったのですか?」

「仕方ない、あいつらは影の騎士団のことは知らないからな」


 今回はリンのみが同行している。リンはあくまで俺の側近で護衛だから存在を教えたが、影の騎士団はあれでも秘密組織だ平民や使用人に気軽に教えていい相手ではない。よってセレナやカルスたちを連れていく事はできない。


「なるほど」

「その代わりに気分が悪くなる話も聞くと思うが」

「それは覚悟はできています、世の中が綺麗ごとだけで成り立たないのは理解しているつもりです」


 リンもこういったことに慣れてきて使い勝手がさらによくなっている。











 雪の中、思うように進まずに普通なら3日で着く道が今回は7日掛かってしまった。


 馬車を王都のゼブルス邸に着けるとすぐさま騎士団の使いがやってきた。


「ど、どうもで~す」

「「…………」」


(グラス、なんでこいつを寄越した?)


 やってきたのは、微妙な評価のルナだった。


「手紙とか持ってきているのか?」

「いえ、私が説明するようにとのことです」

「……ッチ」

「その反応は何ですか!?」


 こいつに説明させるなんてな。


「とりあえず、話を聞こう」

「実はこの冬にノストニアとの使節団交流があったんですけど……」

「…………待て、まさか、まさかだよな?」


 頭の中でほぼ起こりえないことが頭の中に浮かぶ。もはやそれは未来予知のようなものだと理解できてしまった。


「たぶん、考えていることで当たりだと思います」










 使節団が予定されていたノストニアの集落に訪れると、その晩にもてなしがされていた。


 だがその際に酔っぱらった貴族の数人がエルフを寝室に連れ込もうとしてしまった。これが娼婦やそれ込みで雇われている者だったら問題ないのだが、エルフ達にそういう文化は一切ない。


 となるとエルフ達は無理やり寝室に連れ込まれ襲われそうになったという解釈をしてしまい、さらには事が始まる寸前で発覚したために言い訳もできない。


 そして現在、使節団は全員が拘束されノストニアの牢の中に入っているそうだ。








「バカか!!!なんでそんなことをしそうな奴が使節団に入っている!?」

「実はエルド殿下とイグニア殿下がそれぞれ無理やりに使節団にねじ込んだ人員が居まして、それがこのような事を起こしたようです」

「自分の派閥に入れるために甘い飴を用意したがそれで誘い込めたのが馬鹿だったか?」

「その認識で合ってます」


 二人とも功を急ぐあまりにこのような事が起こったのだろう。


「で、俺にどうしてもらいたいんだ?」

「…………実はバアル様に使節団の救出をお願いしたいのです」














「いやだが?」




「え?!」


 即座に断るとルナは目を白黒させる。


「なんでですか!?」

「当たり前だ、なんで俺が尻拭いする必要がある?」


 結局は使節団を派遣した王家の責任だ。


 それに協力をしているのは自由意志であって、強制的に動かされるいわれはない。


「それに俺が行ってどうする?結局は俺も貴族の括りで見られてまともに話しなんてできないに決まっている」


 一度ついた印象はなかなか払拭はできない。それが敵対関係にあったのならなおの事。


「ですが……」

「俺は魔道具で協力している。これ以上注文を付けるのか?」


 そういうとルナは黙ってしまった。


「はぁ~俺も販路を広げようと考えていた矢先にこれだ、ある程度改善できる案が浮かんだら連絡する」

「お願いします……」


 こうしてルナはとぼとぼと帰っていった。


「いいのですか?影の騎士団の心象が悪くなりますよ?」

「これでいい、俺にも考えがあると知らせておく必要があるからな」


 ダメな部分はダメと言わなければいつまでもいいように使われる。


「それにもう貴族として接触するのは無理だ」


 そこまでのことをしたなら貴族で接触はまず無理と考えないといけないだろう。


「これなら来年に国交樹立は無理だな」


 ここから挽回するにはかなりの年月が必要になるだろう。少なくともあと五年は何もできないはずだ。


 コン、コン


「入れ」

「失礼します、イドラ商会からお手紙が届いております」


 メイドから手紙を受け取り中身を見てみるとアーゼル商会の嫡子との面談が決まったことが記されていた。


(状況が変わったからな……)


 今の状態だとそこまで重要視する報告じゃない。


(新しい販路は惜しいが下手に首を突っ込むのもな……)


 誰がどう見ても面倒ごとだ。


「まぁ直に納まるだろう」


 この件は係わるのはやめて魔道具作製に精を出すとする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ