襲撃の夜
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
二人の反応が当たりだと示しており、それを確認するとそのまま続けるように口を開く。
「―――さて、そろそろ過去の話ではなく未来へと視線を向けよう」
「そうだな、これからだけど――――」
ドワーフの狙いの推察を説明した後、軽く今後の展望を話したのち、俺達はホテルへと戻る。
ガラガラガラ
「兄さん……」
「安心しろ、お前は無事に帰すからな」
馬車の中で事情を理解したアルベールが不安そうな顔で問いかけてくる。
「それで、わざわざついてきた理由は何だ?」
「……なに最初の話を守るだけじゃ。現に弟の安全は保障されたじゃろうからな」
俺はドイトリの言葉に軽く笑う。
(確かに安全は保障されただろうが…………まぁ、いい夜にはなるだろうな)
話し合いが終わると、カーシィムはロックルの元まで進むと、何かを耳打ちをする。そして次の瞬間にはロックルは歓声を上げていた。
「弟の下半身事情など儂は知らん。命に危機がないのなら、あとは弟自身の問題じゃろう」
ドイトリは大きく鼻息を突き、ロックルにあきれ果てる。
「それで聞くが、『黒き陽』に繋がっているドワーフに心当たりはあるか?」
「残念ながらないの、繋がりとなれば長老共誰かが握っているだろうが、ハルジャールには来ていない。どこかに連絡役の奴はいるじゃろうが、見当もつかない」
「なら、今日の襲撃を取り下げてもらうことはできないか」
もしドイトリを中継して、指示役と交渉が出来るのならしたいところだった。
「安心せい、今晩は儂も加わる。そうすればそれなりに凌ぎやすくなるじゃろう」
「だといいがな」
ドイトリの言う凌ぎやすいが、単純に戦力が増えたことに対してなのか、それとも相手の圧が下がるのかはわからなかった。
(だが、それも杞憂で終わりそうだがな)
脳裏に用意した戦力を思い浮かべてみるが、あの守りを突破できるとは思えない。
「本来は無い方が一番だろうがな」
この言葉が馬車の中で静かに木霊する中、馬車は進み、ホテルへとたどりいた。
「「「おかえりなさいませ」」」
ホテルに戻ってくると、入り口にいる従業員が頭を下げる。ただ夜なのか、響くような声ではなく、この場で穏やかに聞こえる声での挨拶だった。
「ご苦労」
俺も軽く労いの言葉を出して、ホテル内へと入っていく。
そしてホテルへと戻ってきたことで、最低限の護衛だけを残してあとは解散させる。アルベールも夜が更けてきたからか、眠そうにしており、カルスと護衛の騎士たちと共に自室へと向かわせた。
そして俺もラウンジを通り、自室へと戻ろうとするのだが
「……何やっている?」
ラウンジの横を通る際に非常に目につく集団の姿があった。
「おかえり、バアル」
「ああ、ただいま」
大きなテーブルを囲うソファに座っているクラリスに返答すると、周囲にいる面々を見る。
「どういった経緯で集まった?」
テーブルに着いているのは、クラリスとその護衛のセレナ、アシラとその両親、そしてロザミア、オーギュストとダンテだった。
「簡単よ、アシラとオーギュストが談笑していて、そこにテンゴとマシラが参加、そしてダンテが獣人の珍しさでさらに参加してたらしいわ。それとわたしとロザミアは少し前に気になる物を見て、輪に加わったのよ」
クラリスはテーブルの上で、仰向けになりながら腹をこれまでかという程に膨らましているネスを指差す。
「悪魔ってじっくり観察したことがないから珍しくてね」
ロザミアが話を聞いていたのか、ネスの体を突っつきながら答える。
「…………あとで洗えよ」
「失礼な~~、ワタクシメは毎日朝晩、体を念入りに洗っているのです~~、げぷ」
ネスは汚いと遠回しに言われると、何とか体を起こし文句を言う。
「ワタクシメは列記とした悪魔、溝の中にいるようなネズミとは一緒にしないでいただきたい」
「そうか、それはすまない」
ネスは外見は完全なネズミであることから、同一視していた。そのことについては変に深堀するつもりはないので潔く謝る。
「チュ、問題ないのです」
ネスは言いたいことはすべて言い終えたとばかりに、再び、横になる。
「これは……何とも面妖な…………」
そして後ろでは、そんなネスを見て、驚愕の表情を浮かべているドイトリの姿があった。
「しゃべるネズミとは……」
「チュ、だからネズミではないと言っています~~」
だが、もうめんどくさいとばかりに、ネスは寝ながらに抗議の声を上げるだけで、あとは動く気配がない。
「さて、それで、オーギュスト、ダンテ、このホテルの守備は問題ないな?」
「うむ」
「もちろん。私もいくらかの仕込みをしておいたから問題ないよ」
オーギュストもダンテも問題ないとばかりにつまみを口に運ぶ。
「なら、俺がこのまま就寝しに行っても何も問題は起きないと言う事でいいか?」
「問題ないのである。だが、そう急いでもおそらくは寝ることは出来なさそうではあるが」
「……どういう意味だ?」
「今にわかるのである」
オーギュストの薄笑いが気に障り、口を開こうとしたその時――
『止まれ!!』
ラウンジの入り口からお大声の制止の声が聞こえてくる。
「……おい」
「勘である」
あまりにもタイミングのいい発端ゆえに一瞬、オーギュストの自作を疑ったが、すぐさまオーギュストが否と答える。
「襲撃の目的は出場者であろう?ならば、全員が出そろったタイミングで来ると思っただけである」
「……なら、事前の話通りに動け」
「了解である。それに今回は数十年見かけなかったほどの豊作であるな」
ボォン!!!
入り口方面から爆発音が聞こえてくると、赤にまみれた警備兵らしき二人が吹き飛んでくる。
「マジかよ!?」
「しょ、正気か!?」
二人ともすぐさま起き上がると剣をすぐさま剣を拾い、構える。
「おい、何が起きた?」
「そんなことよりも危ないから後ろに下がっ――」
警備兵はこちらに近づいて来ている人影を一瞬だけ見てからこちらに警告の声を上げようとするが。
ヒュン!!
警備兵の言葉の前にその横から一つの影が通り過ぎる。
ザシュ!!
「ふむ、なるほどなるほど」
だが、その影が俺に向かって近づいてくる瞬間に、オーギュストの触手がその人影を貫いた。
「っっ!!だめだ、そいつらは爆発す―――」
ボォン!!
警備兵の言葉を遮るように貫かれた人影は自爆した。
「――よくやった、リン」
「いえ、備えておいて正解でした」
だが、リンが備えていたおかげで、こちらに爆発の影響はなく、床のめくれはオーギュストを除いた全員の前で止まっていた。
「オーギュスト、話が違うと思うが?」
「ふむ、少し厄介であるな」
オーギュストは埃まみれになった服を払い、爆風で乱れた髪を整えながら、自身の周囲に飛び散った肉片を見詰める。
「こうなれば再利用できないであるからな」
「オーギュスト、それなら問題なさそうだよ」
そんなオーギュストに声を掛けたのはダンテだった。
「……あれが全て死兵か」
「それも、自爆するなら厄介じゃな」
大きなホテル特有の広さに加えて、爆発により広がった入り口からは、数十人の人影が見えていた。
「ふむ、守ってもいいが、ホテルを破壊されてはかなわないのであるな……ダンテ」
「はいはい」
ダンテはオーギュストの声で、手帳と筆を取り出すと文字を綴る。
〔白き建守の大樹〕
ダンテが記帳し終えると、文字が浮かび上がると、そのまま羽根のように堕ちていき、床に吸い込まれていく。そして次の瞬間には床に移る影のように、白い樹が描かれ、その絵だが床や壁、天井へと伸びていく。




