意図しなき備え
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
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「お前たち、実は仲が良いだろう?」
夕日に照らされるホテルのラウンジにやってきた二人の姿を見ながら言うと、二人は共に微妙な反応をする。
「勘弁してほしいのである」
「そうだね、私としても知人ではあるが、親しき友人ではないね」
二人は俺の言葉に否定的な言葉を並べる。
「ん?本戦に出ているオーギュストに、酒場であったダンテか?」
「おぉ、どこかで見たと思ったら」
ドイトリは選手であり、二日前の酒場であっているため、二人を知っていた。そしてロックルもドイトリの言葉でオーギュストが誰なのかを思い出した模様。
「それで、オーギュストお前がここに来た理由を聞こうか」
俺はオーギュストに視線を向けて訪れた理由を問いかける。
「ふむ、ダンテがここにきた理由を聞かないのであるか」
「すでに明言している。そうだろう?」
「そうだな」
ダンテの理由は何度も何度も聞いているため簡単に予想がついた。
「ふむ、色々とあるが、ワガハイの理由は主に二つ。一つ目が文句である」
「……ああ、アシラの件か」
俺の言葉にオーギュストが深く頷く。
「ワガハイは楽しみにしていたのである。あのヒエン・リョウマとの身を削る様な戦いをワガハイともしてくれると、だがふたを開けてみればどうであるか」
オーギュストは嘆かわしいとばかりに深くため息をつく。
「それで、もう一つは?」
「それは護衛である。襲撃でテンゴ殿やマシラ殿が怪我を負って明日の戦いが楽しめなくなるのは断固として断るのである」
オーギュストの言葉を聞いて、らしさを考えれば十分に納得できる答えだった。
「それで、お前が怪我をすることになってもか?」
「ふふ、その言葉を言い換えれば襲撃者とは良き闘争が出来ると言う事、むしろ望むところである」
「あ、そう」
戦闘中毒者ならではの答えに納得もするが、同時に呆れもした。
「…………ふむ、なあ、バアル様、少し相談があるんじゃが」
オーギュストとの会話を聞き終えると、ドイトリが控えめながらに問いかけてくる。
「なんだ?」
「もし、問題が無ければ今晩だけ儂ら兄弟をこのホテルにおいてほしい。無論襲撃者が来た際には儂も戦うと約束しよう」
「…………」
おそらくこのドイトリの提案は弟のロックルを思っての提案なのだろう。ロックルの実力がどれほどかは不明だが、最初に出会った時騎士の一撃を避けられなかったことから戦闘はできないと推測できる。それゆえに守りの堅くなったこのホテルへと置いてほしいと言うところだろう。
「いや、それは必要ないだろう」
「……もし、ロックルの馬鹿さを懸念しているなら、儂が縛り上げて男の騎士の部屋に置いておこう。それでもダメか?」
「仮に泊めるなら、そうしてもらうとしよう。だが、俺が言っているのはそういう意味ではない」
断言しながらドイトリの表情の変化を確認する。
(……本気で言っているな)
ドイトリの表情から本当に頼み込んでいることが理解できる。
「……わかった、一応は空き部屋を用意させよう」
「助かる」
「だが、交換条件がある」
「……聞こう」
「そう身構えなくていい。こちらに泊まる前にまずカーシィムに守ってくれるように打診してみてくれ。それで、断られるのなら、こちらで用意しよう」
「????よくわからんが、いいぞ」
その確認に意味があるのか、という疑問が顔にありありと出ていたが、ドイトリは疑問を呑み込み、条件を飲む
「決まり、と言いたいが、もう一つだけ」
「ん?それは私か?」
「ああ、ダンテに頼みたいことがある」
「ふぅん、私にもこのホテルの守護に回ってほしい、と言う事かな?」
「ああ、無いとは思うが、オーギュストが手一杯になったらその分を対処してほしい」
「……見返りは?」
「借りにするつもりだが」
ダンテの性格を良くは知ってはいないがそれでも、目的が俺の傍に居るだけとなれば、そこまでの要求はないと思い、一つの借りとしておく。
「いいよ。ただ、騎士に関しては無視するが?」
「それでいい。彼らもある意味では職務の上だからな」
冷たく聞こえるだろうが、彼らは守るのが仕事であり、襲撃者と戦うことが仕事なのだ。逆に言えば兵士が戦場で死ぬことがおかしいと思っている者ならば俺に反論できるだろう。
「なら、いいよ、私もこのホテルの護衛を行おう」
「感謝する」
俺は謝辞を述べると立ち上がる。
そしてそれからはやや慌ただしく動くことになる。
まずはオーギュストとアシラを合わせる。結果、オーギュストがチクチクとアシラの戦い方についてダメ出しを行う。だが、アシラもそれを理解しているのか、黙ってアドバイスを聞くにとどめる。ただ俺が二人の元を離れる際はアシラにやや不機嫌な表情をされたが、この結果は自身で引き起こしたと言えるため、それだけで何も言ってこない。
次に行うのは護衛騎士と支配人と相談して一応ではあるが、ドイトリとロックルが止まるためのスペースを用意すること。さすがに高級ホテルなだけあり、計300人近い人を泊めてもまだ余裕があるため、部屋自体は簡単に見つかった。また同様にオーギュストとダンテの部屋も用意してもらう。さすがに夜通しではないだろうが、それでも護衛に加わってもらうならばこれぐらいはする必要があった。
そしてそれが終わるとラウンジにて報告しに行くのだが、そのことには日は完全に落ち、晩餐の時間となっていた。
ガチャ
「待っていたよ」
晩餐の時間になると、俺はカーシィムから紹介されたレストランへと赴く。その後レストランに着くと、すでに連絡が言っているのか、従業員に最上階の一番見晴らしのいい部屋へと案内された。そしてその部屋の中には当然のようにカーシィムが待っていた。
「済まない。待たせたようだな」
「いや、時間で言えば丁度と言える」
カーシィムが気にするなと言うので、俺は弟のアルベール、ドイトリ、ロックルと共にテーブルにつく。その際に俺が連れてきた護衛、リン、エナ、ティタ、ヴァン、カルスそれと10名ほどの騎士は少し離れた護衛用の席に座る。
そして全員がテーブルについたことを確認すると従業員が食前酒を全員の前に用意する。
「それでは友好を祝して、乾杯」
「乾杯」
カーシィムの音頭に合わせて俺もグラスを傾ける。そしてそれぞれがグラスに口を付け終わると、前菜がテーブルに並べられ、晩餐が始まった。




