今回の侵入経路
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
「―――アル様、バアル様」
どこからか呼ぶ声が聞こえてきて、体が揺さぶられる。
「起きてください、バアル様」
「ん?リンか?」
何度か揺らされているうちに意識が覚醒したので、体を起こす。
「……どうした……と聞くまでもないか」
窓の外を見てみるといつもよりも太陽の位置が高かった。
「ふぅ~~、今はどれくらいの時間だ?」
「現在、鐘が三度なっております」
(つまりは10時近くか)
時間にしてあと一時間足らずで一回戦目が始まる時間になる。
「ノエル、軽食を頼んできてくれ」
「かしこまりました」
ノエルに軽食を持ってくるように頼むと、俺はソファに用意されている着替えに袖を通し始める。
「リン、ほかの奴らはどうしている?」
「クラリス様、レオネ様、ロザミア様はまだホテルに、テンゴ様たちは出場の関係上、すでに出発しております。またイグニア様、ユリア様、ジェシカ様もすでに出発しております」
「残っている三人は一緒に行くためか?」
「はい、お三方はバアル様と行くことを望んでおりますので」
三人の状況を確認し終えると同時に、着替えも終える。
コンコンコン
「バアル様、軽食をお持ちいたしました」
「入れ」
ノエルが入室すると、運んできた軽食がテーブルに並べられるので、軽く腹に入れる。
「ノエル、三人にもう少しで出ると伝えてきてくれ」
「かしこまりま、!?」
ノエルは返答途中で、急に顔を窓に向ける。俺もそちらに顔を向けると、見知った、と言っていいのかわからないが、知っている人物がいた。
「話がある」
「アリアか、どうした?」
「入っていい?」
「いいぞ」
俺が許可を出すと窓際にいたアリアは室内に入る。
「昨日のアレ、なに」
アリアは、若干の怒りを滲ませながら問いかけてくる。
「援軍と」
「できない、あれは、危険」
暗部として脅威と判断すれば調べないわけにはいかないのだろう。
「では、こちらも聞きたいことがある」
「ん、交換」
アリアもこちらの意図することを理解したのか、すぐさま返答する。
「先に何が聞きたい?」
「あれの正体、異様すぎ」
アリアはそういうと同時に、無意識なのか両腕で体を抱きしめていた。
「怖いか?」
「当たり前、あれは、化け物、比喩じゃなく、本当に」
最後当たりにはアリアの声はかすれていた。
「そうだな、正体は俺もわからん。だがクイントの主人の名はウェンティ、そいつは西側から来たと言っていた」
「フィルク?」
「もっと西だと」
「……外見、それと同じのいる?」
「いるな、バルードという――」
アリアの求める情報かはわからないが、ウェンティやバルード、それとクイントの情報を出す。ただ、アルカナの部分だけは伏せる。
「――で、以上だが、事前に調べていないのか?」
「知ってる」
「なら、なぜ聞く?」
外見的特徴やそのほかの情報も、日頃、影から見ていたなら把握しているはずだった。
「直に接触した人の言葉も必要、齟齬があったら、大変」
「なるほど」
影から見た姿と俺たちから見た姿が各自に一致するとは限らないし、会話内容も何らかで阻害でもされれば聞けないし、何より違う話にすり替えられている可能性もあった。
「今度は、そっち」
「ああ、昨夜、襲撃の瞬間には何があった?」
襲撃の瞬間に、何があったのかなどはラウンジにいたため、詳しくは把握していなかった。
ちなみに前回の襲撃はごく単純に屋根を伝って暗殺者が侵入したと聞いていたが、今回が同じかどうかはわからなかった。
「一言で言えば、化け物」
「もう少し詳しく話せ」
「了解、ふぅ――」
アリアは長くしゃべるのが大変なのか、何とか昨夜の状況を説明してくれる。
昨夜の事の起こりは、テンゴとマシラ、アシラがいる区画で起こったという。
まず、アリアたちはホテルの隅から隅まで監視をしている状態だったという。だと言うのに侵入者を許してしまった。その理由だが、ごく簡単、どうやら犯人は堂々と正面入り口から入り、そのままホテル内を通っていたらしい。もちろん騎士や警備の者が止めたのだが、操られていた連中はそれぞれ大工や肉屋、花屋という職業だったため、それぞれの仕事のためと言われてホテル内に入れてしまったという。さすがの影の騎士団でも、操っている人の身元が確認が取れてしまえばそれを疑いにくい。そうなれば表は異常がないことになり、裏側などからの侵入に集中してしまう。それも前回屋根を伝っての侵入となればなおのこと。
そしてその後、テンゴ親子のいる区画にたどり着き、そのまま襲撃という流れだったらしいのだが、テンゴ達まであとすこしというところでクイントが三人の前に立ちはだかったという。
「ちなみに、急に現れて、敵と思った」
「妥当な判断だ。だが、その言い方だと、クイントの存在に一切気付いていなかったのか?」
「…………ラウンジ、見張っていた人たちは、見たと言った、けど、それ以外は気付いてない」
「それはだいぶ脅威だな」
「同意、それから――」
三人の前にクイントが現れると、三人は即座に何かを呑み込む仕草をすると、急激に強くなったという。そして力量を感じ取れる人物の話だと、三人のあの状態はおそらくグラス殿を容易に足止めできるほどだと言う。
(騎士の頂点であるグラスを足止めか)
言うのは簡単だが、やるのは至難だ。なにせグラスはその立ち位置にふさわしい技量と、様々な魔具を装備している。俺もグラスの力量は卓越した技術と公開されている魔具しか知らない。だが、それでも大概な実力を持っているのを知っていた。
そしてその後、三人は即座に動き出す。一人はクイントの相手をして、ほか二人は戦闘せずに通り過ぎようとするが――
「その後、なぜか、部屋に吹き飛ばされていた。それもラウンジのあの状態で」
「おい、途中の説明が抜けている」
「見てない」
「は?」
「というよりも誰も見えなかった」
見てないではなく、見えなかった、その言葉を聞いて、どういう事態かを理解する。
「本当に次の瞬間にはことが終わっていたのか?」
コクコク
その場にいた影の騎士団には何が起きてるか知覚することが出来ないという。それは見えなかっただけなのか、それともクイントが何かをして知覚させなかったのかはわからなないが、どちらにせよ戦闘の情報はないという。
「その後はバアル様も知ってる」
「スキップしながら瀕死の三人を持ってきた、か」
俺は話のすべてを聞いて眉を顰める。
「不満?」
「いや、そちらに落ち度はない。だがそれでもできれば情報は欲しかったというところだ」
ほんの少しでもクイント、そしてひいてはウェンティに繋がる情報があればと思ったが、どうやらそうもいかないらしい。
コンコンコン
「バアル、まだ寝てるの?」
「そうそう、そろそろ始まるよ~~~」
それなりに時間が経っていたのか、扉の向こうからクラリスとレオネの声が聞こえてくる。
「話は、今度」
「ああ」
さすがにクラリスやレオネに姿を見せるわけにはいかないのか、アリアはすぐさまこの場から姿を消す。
そして、俺は扉に向かい扉を開ける。
「済まない、待たせたな」
「本当よ。けど、寝てすっきりしたのならそれでいいわ」
「寝足りないなら、一緒に寝ようか~~」
「レオネ」
「うひゃ~~」
扉を開けてから始まった二人のやり取りを見て、思わず笑みがこぼれる。
「じゃあ、行くか」
「ええ」
「は~~い」
それからラウンジにいるロザミアと合流して、クラリスとレオネとロザミアの三人とコロッセオへと向かうこととなった。




