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夏の裏側

 まだ夏休みは半分ほど残っている頃。ゼブルス領から王都へ向かう行きすがら、ゆったりと馬車の振動を楽しみながら窓の外を眺めを楽しむ。


「こんなに早く王都に戻る必要があるのですか?」


 言葉の通り、こんなにも早く王都に戻ることに疑問を覚えているのは、俺の初めての従者カゼナギ・リン。


「それとカルスたちの訓練はどうするおつもりですか?」

「三人に王都の屋敷のメイドや執事に作法を教えてもらいながら、ルナに鍛えてもらうのがいいだろう」


 あれでもそれなりの教育を受けてきた騎士の一人だ。教え込むのに問題はない……………はずだ。


(それに三人とも諜報や暗殺などに長けたユニークスキルだからな)


 ゼブルス領にいる間に三人のユニークスキルを見せてもらったのだが、グラス騎士団長が三人に目を付けたら即座にスカウトするレベルだった。


 なのでそれ方向の才能を伸ばすにはその筋に習う方がいい。


「いいじゃない、そろそろイベントもあるようだしね」


 セレナが会話に加わってくるんだが、ある単語に引っかかった。


「イベントだと?」

「そう、あと少しで裏イベントが始まるはずなのよ」


 俺とリンはセレナの事情は知っているので疑問に思わないが、事情を知らない三人は何を言っているか理解できていない。


 その話は王都で聞くことにした。










 数日掛けて王都に到着すると、荷物を借りた家に運び込む。


 荷物を解き終わると日も落ちてきたので夕食の準備を始める。


「それでイベントとはなんだ?」


 食事の準備をしているセレナに問いかける。


「ああ、あれ(・・)ね」

「……あれ?」

「い、いえ、あれですね」


 敬語を使わなかったセレナを威圧するリン。


「リン、話が進まなくなる」

「申し訳ありません」

「続けてくれセレナ」

「ええ、イベントってのはね、オークションイベントの事よ」

「オークション?そんなものどこの商会でも普通に行われているだろう?」


 俺の商会も数が少ない大型の魔道具はオークション形式で販売している。


「もちろん普通のオークションじゃないわ、非合法のオークション、つまりは闇オークションよ!!」
















(厄介なことに足を突っ込むことになりそうだな)


「キラ様、どうですか闇オークションは?」


 隣にいるアルガが感想を聞いてくる。


「まぁ想像通りだな」


 今いるのアズバン侯爵領都市アズリウスで行われている闇オークション会場だ。中心にあるステージのみがライトに照らされており、それを取り囲むように座席が用意されている。座席はステージとは違い薄暗く、劇場と言い表せる様相となっている。従業員がトレイを持ちながら飲み物を配り、椅子の間を通り向けている。


「お飲み物はいかがなさいますか?」

「要らん」


 いかにも怪しい風貌のキラにもひるむことなく飲み物を配ろうとしてくる。もちろんこの魔導人形では飲食はできないので基本は断っている。


 さてなんでこんなところにいるのかというと。


(……さてセレナの言葉はどれほど当てになるか)


 セレナの言葉が真実かどうか、それを見極めに来ていた。本当にセレナの知識は役に立つのか、その裏付けはどうしても必要であり、今回はちょうど真偽を確かめるのにちょうどよかった。ただ、今回の件では表の人間が関わったらまずいだろうということで、キラのほうで闇オークションに参加している。


 既にグロウス王国全土に魔道具は普及しているので遠くに来ても問題なく作動できる。


「キラ様、こちらを」

「………目録か」


 強力な武具、貴重な薬、貴重な素材、さらには違法な人身売買、危険物、違法採取物。


「まさに売れそうなものなら何でも売るようなところだな」

「ええ、なんなら我が組織からも売りに出しましょうか?」

「何を出す?」

「その腕の兵器とかどうです?」


 俺はアルガをじっと見る。


「冗談ですよ」

「二度はないぞ」


 アルガは頭を下げる。


 俺はこいつを都合のいい駒と考えているし、こいつは俺を責任の押し付け場所と戦力として考えている。俺たちの関係はどこまで行っても利害関係しかない。それゆえに都合が悪くなったら容赦なく切り捨てられる。


 目録に目を通すと気になる部分が目に入った。


「エルフ?」


 人身売買にエルフの一文が書かれていた。


(確かこれがあるイベントのキーになるとセレナが言っていたな)


 しかも、これは表ざたになったらノストニアとの関係に傷をつけることになる。


(あの若者なら問題ないとは思うが)


 最悪はエルフごと闇に葬る策も準備しておかないといけない。事がことなので証拠隠滅の手立てもだ。


「そろそろ始まりますよ」








 ステージの幕が上がり、司会が話を始める。


 オークションの形式は一般的な釣り上げ式、手元の札を上げて金額を重ねていくだけだ。そして貨幣だがアズバン領ということでグロウス金貨が使われている。


(他国から来ている人達からしたら少し不利に感じるだろうな)


 ステージに様々な物が運ばれ、ようやくオークションが始まる。


(さて、あいつらは来ているのか…………本当にいるとはな)


 少し離れた場所に場違いな子供が仮面を被っているのが見える。


「アルガ有名どころは知っているか?」

「はい、組織が再編される前から何度も参加していますので有名どころならほとんど知っています」


 解説役としては十分。


 最初のオークションが始める。


「最初の商品はダンジョンで発掘された、この剣であります」


 詳細がステージに開示される。


 ―――――

 万斬剣“イズラ”

 ★×7


【万斬】


 ありとあらゆるものを切断する宝剣。これを持つものは自身を切らないように細心の注意を払わなくてはならない。

 ―――――


「さて宝剣と呼べる代物です、説明に書いてある通りすべてを切断することができる(・・・)剣です」


 なんか面白い言い方だ、『切断する』じゃなく『することができる』か。


(おそらく理論的にはできるけど実現するのが難しいのだろう)


 ただレア度は高いことから、違和感に気付いても買う人物はいるのだろうが。


「では金貨15枚から始めさせていただきます」

「16!!」

「18!!」

「22!!」

 ・

 ・

 ・

 ・


 値段がどんどん釣り上げられていく。


「アルガは参加しないのか?」

「残念ですが私は剣を使いませんから」


 そうだな、どちらかというとペンを持って部下に指示するタイプだ。


「150!!」

「150出ました、150、これ以上のお客様はいますか~」


 司会者が問いかけるが誰も手を上げない。


「では58番のお客様の落札です、盛大な拍手を」


 パチパチパチパチ


 58番は立ち上がり礼をする。


「アレがだれかわかるか?」

「ええ、ネンラールの伯爵ですね、武勇の有名な家ですね」

「そうか……頭はそこまで良くないようだな」

「ええ、そうですね」


 アルガもどうやら司会者の言い回しに気づいている。


 拍手も収まり、続きが始める。


「では次の出品に移りたいと思います」






 それからいくつもの武具や薬が出品されては落札されていく。


(正直、微妙だな)


 既にそれなりの装備を持っているのでほしいとは思わない。


「キラ様、次はメインの一つ奴隷売買が始まりますよ」

「ほぅ」


 あんまり興味がない、むしろバレるリスクを考えると押し付けられても嫌な気分になる。


「それでは人身売買を開催させていただきます」


 ステージにシーツをかぶせてある人間が何人も入ってくる。


「まずはオードブルから、こちらはとある滅びた農村で手に入れた商品でございます」


 一人のシーツが取られる。


「名前はレティア、歳は19、近くの農村でも有名で、果ては領主からも話が届くほどの美女でございます」


 現れたのは下着のみを付けた女性だ。髪は長く、輝く金色で、肌はうっすらと焼けて健康的な印象を見せる。体型はグラビアアイドルみたいに出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいる、まさに女性の理想の体型だろう。


「そしてなんと処女でございます!!最近でも稀にしかお目にかかれない特上の商品でございます。さらには4つ下の妹も同時出品でございます………ただ誠に申し訳ないのですが妹の方は処女ではありませんのでそこはあしからず」


 もう一つシーツが取られると、先ほどの女性よりを少し幼くした女性が出てくる。


「価格は二人合わせてから金貨70枚からです」

「75!」

「110!」

「130!」

「150!」


 それからもすごい勢いで金額が伸びていく。




「奴隷については毎回こんな感じか?」

「いえ、今回はかなり上位の方ですよ。おそらくあの年齢まで処女を保っているので高値が付いているのでしょう」


 なぜ処女が高値になっているのか、それはこの世界での医療技術によるものだ。


「性病になる心配がないからか」

「さようでございます」


 この世界では性病は薬でしか治らない、病気なら魔法で治るはずではと思う人もいるだろうが結果は不可としての実例しかない。


 原理はわからないが魔法で治せないのは、出産、性病、障害、古傷、と多々ある。これらは基本的に魔法では治すことはできない。


 それゆえに貴族社会では貞操はかなり重要になってくる。


「ほかにも美しいという理由でも金額が上がっていますがね」


 あの美しさだと貴族の妾になれても不思議でないくらいだ。この世界では娯楽が発達しているわけもなく当然ながら性の方に興味を持つ連中が大半だ。そんな狼の中であの美貌を保ちながら純潔を守るのは楽ではないだろう。


「ほかにも、まぁ下品な話ですが両方を一気になどですか」


 美貌に加えて姉妹という付加価値も付いている。これらを含めて値段が上がっていくということだ。


「350!」

「350枚出ました!ほかにはいらっしゃいますでしょうか~」


 誰も声を出さない、どうやらここで仕舞いのようだ。


「では金貨350枚で落札とさせていただきます!!」


 木槌を鳴らし終了する。


「意外に高値が出ましたね」

「あれで高値なのか?」

「はい、平民の娘なら大体70から100ほど、その娘が美しかったら150ぐらい、さらには処女だった場合200まで伸びます。あとは付加価値によりますね」


 なら今回はかなりの高値が付いたわけだ。


「で、落札したのは……」

「ああ、あの方も有名ですね、クメニギスの貴族です」


 拍手が起こり落札者は立ち上がり礼をする。


「……これからのことを考えれば笑顔にはなれませんけどね」


 話で聞くとあの貴族はここで何度も女性を購入することをしては使いつぶしていると噂になっている。


「それでは次に行きましょう」


 次に前に出てきたのはやけに小さかった。


「では次に移りましょう、同じく滅びた農場からの商品です」

「何で滅びた農場と言うんだろうな」

「それはですね」


 俺の疑問にアルガは答えてくれる。


 滅びたってのは盗賊に襲われた村や戦争で捕えて来たものっていう意味だそうだ。


(まぁそうでもしなければ闇オークションとは呼ばれないか)


 司会者がシーツを取るとまだあどけない少年が現れた。


「この少年はとある里の生き残りです、さまよっているところを私たちが確保しました」


 少年は明るい茶髪でまさにやんちゃ盛りという年齢だ。


「あれでも需要があるのか?」

「ええ、婦人には結構……それとごく一部ですが男性にも」


 ペットもしくはそういう玩具というところか。


「ご愁傷様、あの子供に明るい未来が来ることを祈っているよ」


 子供は仮面の婦人に金貨173枚で買われていった。


「では次に移りたいと思います」


 それから様々な人が出てきては落札されていった。


「次の商品は今回最後の商品で比較的に手に入りにくい商品となっています」


 シーツを取るとそこには耳が長く、容姿は先ほど出た子供よりも幼い、髪が長いエルフの男の子(・・・)がそこにいた。

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