酒場での喧騒
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
グビグビグビ
「かぁ~~~うまいわい、姉ちゃんもう一杯頼むわ」
「はいは~い、火酒もう一本ね~~」
俺達は酒場に入り、大人数で座れるテーブルに着くと、ドイトリがコップに入っている酒を一気に飲み干す。
「お姉さん方はこちらをどうぞ、軽い酒で気軽に飲めますよ」
「あら、ありがと」
そしてロックルはクラリス、レオネ、エナ、ロザミアに酒を注ぐ。
「「……」」
「すまん……本当にすまんの」
ロックルのあまりにもわかりやすい下心に、俺は呆れ、ティタは敵意を向ける。
「それで、アシラに話ってなんだ?」
「いや、それは酒が運ばれた後でも……まぁ、よかろう。こちらが聞きたいのはただ一つ、アシラ、お前は何のために勝ち進む?」
ドイトリは真剣にマシラを見据える。
「何のため、理由はねぇぞ。ただ、面白そうだってだけで参加しただけだ。ん!?これ上手いな」
アシラは手元にあるコップに注がれている酒を口に含むと驚きの声を上げる。
「そうか……そうか」
ドイトリはアシラの言葉を聞くと、少し悩むそぶりを見せる。
「ねぇねぇ、お姉さんはエルフなんだよな?」
「ええ、そうよ」
「すげぇ、本当にいるんだな……名前を聞いても?」
「もちろんよ、私はクラリス、よろしくね、ロックス」
クラリスはロックルに握手の手を差し伸べると、ロックルは喜色しかない表情で手を掴み握手する。
「はぁ、リン、ノエル、わかっていると思うが」
「はい、不埒な真似をするそぶりがあれば即座に対処します」
チャキ
軽い交友ぐらいならいいが、それ以上となると看過できないため、二人に指示を出す。
「ぐっ、わかってい…………ますよ」
こちらの言葉が聞こえていたのか、ロックルは苦い表情をして、返答する。
「ふふ」
その様子を見て、クラリスはご満悦だった。
(こちらの様子を見て、楽しみたいのはわかるが、場合によっては本当に大事になるからやめてほしいのだがな)
俺とクラリスが婚約しているのは政略面が大きい。そのためその状態で浮気や不貞をされると、とてもめんどくさい大事になりかねなかった。
(これが男爵子爵と言った低位貴族だったら、子供を作った後、各々が別の人と恋愛を楽しむということも可能だが、王族と公爵嫡男ともなれば不倫や不貞がばれた時、その規模はとてつもなく大きくなる。それもグロウス王国で、公にノストニアのエルフと婚約しているのはここ数十年では誰一人としていないという規模だからな……何を考えているかはわかるが自重してほしい)
俺はそう思いながらテーブルの上に用意された酒をコップに注ぐと、ティタに渡す。
「……問題ない」
「そうか」
ティタが問題ないと言ったことで毒はないと判断し、新しいコップに酒を注いで軽く口に含める。
「ほぉ~やはり高位の貴族なだけあって、毒見役が傍に居るんじゃな」
「いつも使っているわけではないがな……それよりもアシラへの話は終わったのか?」
「聞きたいことはさっきの一つ……と、もう一つ出てきたな」
ドイトリはアシラが装備している胸当てを見る。
「それはドワーフ製の防具じゃな、おそらくはダイフロク工房作だと見えるが」
「……すまねぇ、俺はアルヴァスってドワーフに防具を見繕ってもらっただけで、そういったことには詳しくねぇんだ」
そう言うと、ドイトリは一瞬だけ眉を動かすと、再び何も感じていない顔に戻る。
「そうか、アルヴァスはハルジャールに店を構えている連中の中で最も有名じゃからな。ドワーフの都市で作られた多くの武具防具がアルヴァスのところに集まるからのぅ」
「へぇ~そうなのか。俺としては感謝しかないぜ、これがあったおかげで俺はリョウマに勝てたからな」
アシラはそう言って嬉しそうに酒を飲む。
「ほぉ、観戦をしていたが、存外大丈夫に見えたが?」
「いや、あの防具があったおかげでリョウマの一撃の威力が落ちて、俺が死ぬまでの時間が稼げた。もしあれが無ければオレは即お陀仏だったぜ」
アシラは酒が入ったからか饒舌になって説明し始める。どうやら、リョウマの最後の一撃は素の状態だとまず間違いなく心臓に到達しそして完全に破壊した後に腹まで到達していただろうと言う事。そして防具があったからこそ、刀の威力が減衰して、心臓を少し切られた程度で済んだこと。もちろん十分に致命傷と言えるのだが、僅かな時間でも生を繋ぐことが出来て、その時使い勝つことが出来たことをアシラは大きな声で話す。
「だからマジで感謝しているぜ」
「そうか……作られた武具が活用されて本当によかったわい」
ドイトリは嬉しそうな笑みを浮かべて、何度も頷く。
「さて、それでバアルからの話を聞こうと思うのだが」
「ああと言いたいが、クラリス、もうその辺にしておけ」
俺は同じテーブルに着き、いくつもの子樽を目の前にいているクラリスに声を掛ける。
「あら、それはだめよ。この飲み勝負で明日、一緒に観戦する約束を掛けているもの」
「……クラリス」
「大丈夫よ。負けはしないから」
そう言うと、クラリスは再びコップに酒を注ぎ、飲み干す。
「ぐっ、俺にもドワーフになったプライドってものがある。負けられっか!!」
クラリスと同じように目の前に多くの子樽を置いているロックルも酒を注ぎ飲み始める。ただ、二人を比べると、ロックルの方が顔が赤くなっており、クラリスが優勢なのがわかる。
(……なるほど、負けるわけがない、か)
俺はクラリスの手首に視線を向ける。そこにはリンから受け渡されたユニコーンリングが存在していた。
「それでクラリスが勝った場合はロックルから何を貰える?」
「ここの支払い全部持ちってだけよ」
クラリスの言葉に頭痛が思想になる。
「……クラリス、いい加減その行動を止めてくれ。大会が終わったら、お前にいくらでも付き合ってやるから」
明らかに不釣り合い、明らかにこちらの反応を狙っての行動に苦言を言う。
「あらそう?」
「ああ、お前の言う事なら何でも聞いてやるから変な噂が立つような真似はやめろ」
クラリスは俺の反応を見て楽しんでいたようだが、遊ばれていていい気はしない。
「けっ、爆ぜろイケメン!!」
ロックルはそういうと、子樽を掴み、そのままごくごくと飲み始める。
だが―――
「ぐっ、!?」
子樽を全部飲み切ると、ロックルは青い顔をしながら、酒場に備え付けられているトイレに駆け込んでいく。
「これで私の勝ちね。あとバアル、約束忘れないでよ」
「……お姫様の仰せのままに」
こちらの言質を取ると、クラリスは残りの子樽を持って、隣へとやってくる。
「いや、ほんと、本当に、すまん…………あんなことがあってもここまで懲りないとは思わんかった」
「苦労しているな」
ドイトリが本当に低姿勢に成りながら謝罪をしてくる。
そしてそんなこんなを続けているとロックルが戻ってくる。
「うへ~~インチキだ。薄いとはいえ火酒を飲んでいるのに酔わないなんて」
「ロックルもしっかり鍛えろ。そんなんだから、酒が劇弱なんじゃ」
ドイトリは見ていろとドイトリは火酒の子樽を持ち、一気の飲み干してしまう。
(しかし、あれだけ飲み干して、酒に弱い、か)
俺はロックルの席を見るがそこには子樽が4つ並んでおり、量に換算すればおそらくは8Lは存在しているだろう。
「話を戻――」
『さて、皆様方、ステージにご注目ください。当店の看板娘、踊り子シャンナの登場です!!』
子樽からドイトリに視線を戻して、本題に入ろうとすると、酒場の踊り場から店員の声が響いてくる。
♪~♪♪♪~~~
「「「「「おぉぉーーーーー!!!」」」」
そして踊り場のカーテンの中から出てきたのは淡い水色の長い髪をした一人の女性だった。年齢は俺達ほどで、その美貌は看板踊り子に恥じない。また体型はグラマラスなのに、余分な脂肪を感じさせないすっきりとした体形をしている。
そしてなぜ、それがわかるかというと――
「すごい格好だな」
「…………だな」
俺の声に視線が釘付けになっているアシラが返答する。なにせシャンナの衣装は、ほとんど裸、それも、局部を隠しているということは無く。踊りに合わせて舞っている薄く長いショールが体に張り付いていうだけだった。それも踊りによって張り付く場所が何度も変わり、見えそうで見えない格好となっていた。
「「「「ピューーー!!」」」」
「「「「ウォォオオ!!」」」」
そしてそんなシャンナに対して踊り場のすぐ近くまで近づいた男共が口笛を吹いたり、歓声を上げていた。中には見えた云々なんかを自慢し合っている者もいる。ちなみにそこにはいつの間にか移動しているロックルの姿があった。
(目の良い奴なら、おそらく見えているだろうな)
そう思いながら、俺はステージからドイトリに視線を移す。
「それで本題だが――」
「バアル、見たでしょ」
「おい、ドイトリ、お前までステージに釘付けになるな」
「……」
ギュム
クラリスがジト目で見てくるのを無視していると、脇腹がつねられる。それなりに痛かった。
「……はぁ~弟ながら本当に業が深い……それで本題とはなんじゃ」
「昨夜、襲撃を受けたな?」
こちらの視線にドイトリは呆れ顔から真剣な表情になる。
「何か知っておるのか」
「調べている最中というのが、正しいだろう。だから、その件について聞きたい」
「ああ、された」
ドイトリは隠すこともなく教えてくれる。
「ただ、なんか妙な動きじゃったな。何ともちぐはぐな襲撃としか答えられないぞ」
「ということは殺意はそこまでなかった、であっているか?」
「その通りじゃ」
こちらの質問にドイトリは何の気負いなく答える。
「何か襲撃される心当たりは?」
「無い、と言いたいが、儂が本戦に出ていることが気に食わん奴も多くいるじゃろうな。だから、あの襲撃は嫌がらせ、もしくは何かしらの余波と見ている」
俺はドイトリの目を見て、情報を聞き出す。
「……なるほど、ほかに気になった点はあるか?」
「ないの、正直、儂にはさっぱりとしか言えん」
本当にわかっていないらしくドイトリは両手を上げる。
「なるほど」
「聞きたいことは以上か?」
「ああ、それだけだ」
俺はドイトリの言葉を聞き終えると、再び酒を口に含む。
(となると、あの線も消えた。残るは―――)




