第五王子との再会
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224
『なんと!?まさかのもう決着がついていた!!オーギュスト選手がゼディ選手の攻撃を活用して、刺客にしていたなんて誰が思うでしょうかーーーー!!』
ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
リティシィの声でコロッセオ内に大歓声が起こる。
『まさか、もう、あそこで勝負が決ま「オ゛ォ゛ォ゛オオオ゛オ゛」…………あの、オーギュスト選手、なんかそのミナソキ、でしたっけ?なんかこっちを凝視しているんでが』
リティシィが実況すると途中で薄暗く、気持ち悪い呻き声の様な物が聞こえてくる。それもそのはず、ステージの外には膜から吐き出されたゼディは恒例なのだが、ステージの上にはオーギュストと『血水求める枯木』が未だに顕在していたのだ。
そして『血水求める枯木』は声のする方を向いているのか、ずっとリティシィの方角を凝視し続けている。そして――
ズ、ズズズ
『ひぃ!?』
『血水求める枯木』はゆっくりとリティシィのいる方角へと動き出した。
「はぁ~~、止めるのである」
ピタッ
オーギュストはため息を吐きながら生死の命令を出すと、『血水求める枯木』は従順に動きを止めた。
「済まぬであるな、生み出したばかりで、少々躾がなっていなくて」
『い、いえ、コントロールできているなら、何も言うこともないのですが……その生み出したはいいんですが、そのままでいられると少し』
「ふむ、では、消えてもらうのである」
パチンッ
オーギュストは一度だけ、指を打ち鳴らすと、『血水求める枯木』はそのまま塵になって消えていった。
「これで、問題ないであるか?」
『は、はい……そ、それでは勝者であるオーギュスト選手に盛大な拍手を!!』
リティシィの声で拍手が鳴り響くと、オーギュストとゼディはそれぞれグラウンドを出て、三回戦目は終了した。
(危険だな)
俺はゆっくりとグラウンドから出ていく、オーギュストを見て、そう判断する。
(あそこまで簡単に悪魔を作り出せるということになると、いくらでも軍勢を作り出せるようなもの。もしそれが町中で行われれば、どれほどの脅威となるか)
今まで敵対の様子は見せてこなかったものの試合中の能力を見て、改めてオーギュストの危険度を更新する。
「……」
「ロザミア?」
「なに、レオネちゃん」
「……うぅん、何でもない」
オーギュストを観察していると横から何やレオネの困惑した声が聞こえる。
(ロザミアもアルカナを持っている、オーギュストの力量に思うところでもあるのだろう)
アルカナを持っているからこそ、思うところでもあるのだろう。
「次はアシラの試合ね、準備はできている?」
「……ああ」
そんなことを考えているとクラリスがアシラに次の試合のことで話題を振る。
「なんだ緊張しているのか?」
「いや、そうじゃねぇだろう」
アシラが目を閉じてじっとしていた。それをテンゴが緊張だと言うがマシラが違うと断定する。
「うんうん、闘気がみなぎっておるな~~~」
アシラのその様子を見て、レオネはアシラの状態を端的に表現する。
「ああ、次の相手は予選で負けた相手だったな」
テンゴはレオネの言葉で納得の表情になる。
「勝てるか?」
「さぁな、だが、負けるつもりで戦う気は毛頭ない!!」
アシラに勝敗を聞くと、一度負けている手前、現状をしっかりと理解した答えが返ってくる。
「あの、バアル様」
アシラのコメントを聞くと、背後にいる騎士の一人が、耳打ちしてくる。
「来客です」
「……誰だ?」
またか、と思いつつも対応するために誰が来たのかを確かめる。
「名はクヴィエラ・サルマーヌ、第五王子の使いと名乗っております」
「……用件は聞いているか?」
「はい。なんでも第五王子がバアル様との会談を望んている、と」
「なるほど……」
俺は騎士の言葉を聞きつつ、ユリアに視線を送る。
コクリ
そして視線に気づいたユリアはゆっくりと頷く。
「では、応じようと伝えてくれ」
「は!!」
騎士はこちらの言葉を聞くと、すぐさま、扉の外に向かう。
「リン、ノエル、エナ、ティタ付いて来い」
「「はい」」
「……ああ」
俺は問題ない連中だけを集めて扉の外に出ようとする。
「俺は?」
「ヴァンはこの部屋の中に居……いや、付いて来い」
最初はヴァンをこの部屋に残そうと考えたが、次の瞬間、視界にユリアが入る。
(ユリアなら、事情を知ればすぐさま、ヴァンの口を封じようとしてもおかしくない)
いくらグロウス王国でもネンラールと懇意にしている場合、ネンラールとの関係を悪化させそうな要因を排除する場合がある。それを考えればユリアの行動も不審に思えてならなかった。
「おう!!」
だがヴァンはそんな思惑など知らないとばかりに立ち上がると、後ろをついてくる。
「…………」
そしてその光景を見ているアルベールに俺は気付かなかった。
扉を出て、クヴィエラに面会する意思を伝えると、すでに準備が出来ているとばかりに移動を始める。そしてたどり着いたのは一つのボックス席だった。
「久しぶりだ、待っていたよ」
カーシィムは、全体的に赤いボックス席内で、あと少しで夕日になる陽の光に照らされて待っていた。
「お久しぶりです、カーシィム殿下。それで私への要件とは?」
「誰かが見ているわけでもないのにそんな堅苦しくしないでくれ。前回同様に軽い口調で構わない」
カーシィムに礼儀良く挨拶をすると、カーシィムはやや不満げな顔をする。
その後、クヴィエラの案内でカーシィムの隣に座り、共にグラウンドを見下ろす。
「それで、わざわざ呼び出した理由はなんだ?」
「急いで話す用件でもないのだが、どうやら事態が進行しているようでな、いくつか、あらかじめ聞いておこうと思ってな」
カーシィムの言葉に思わず眉を顰める。
「事態とは昨日の暗殺騒ぎのことか?」
「そうだ。ユライアが襲撃されたことでいろいろと判明した」
こちらの言葉にカーシィムは隠すことなく肯定する。
「その事態のことを詳しく聞いてもいいか?」
「残念ながら答えることはできない」
「なぜ?」
こちらが問い返すと、カーシィムは自身の耳を指して、今度は指を天井に向けて、一度ぐるりと回す。
(どこに耳があるかわかない、か)
この部屋だけの話なら、リンやノエル、またカーシィムの手勢で探知に優れている者達が動けば問題ないだろう。だが、俺の口や護衛達の口から洩れるリスクを考えているからこその答えなのだろう。
「なら、用件とはなんだ?まさか、顔を見たくて呼んだわけではないな?」
カーシィムは男娼もしくは男色王子と呼ばれている。そしてその理由が有能な者を取り込むためと考えれば、この答えでも何もおかしくなかった。
「それで喜んでくれるなら、私は何度でも呼びたいのだがな、残念ながら違う。要件は一つ、バアルの技術で絵を大量に複製する道具はないか?」
「なぜ?」
「簡単だ、アジニア皇国を取り込むためだ」
こちらの問いにあっけらかんと答えるカーシィムの顔を見て、真意を確かめる。




